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獣人の姫  作者: MTL2
我道を行く者達
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激突開始

【荒野】


「…………チィ」


どうする。

オロチはただ、幾多の思想を回しては、自身で潰していく。

四天災者が二人だと? たった一人でさえ大陸を滅ぼすような奴が?


「ダーテン。あの者達を何分抑えられる」


「分は無理だね。秒だ」


「……では、何秒だ」


「3秒」


思わず、巨体の男はその豪腕を頭へと打ち付ける。

相性という点もあるのだろう。いや、だからこそだ。

四天災者という拮抗した化け物達の中で、相性という単語二つだけで、こんなにも違う。

たったこれだけの策略で、絶えるというのかーーー……。


「けれど、僕は犠牲を厭わない」


彼は白衣を打ち払い、五指の先に様々な魅色の宝石を輝かせる。

オロチはそれを見るなり、即座に何物であるかを理解した。

魔具、それも天霊召喚のものだ。人間であれば一人一つ使えるならば天賦の才と謳われる逸物。

それを、この男は。


「貴様、何をーーー……」


驚愕はあった。

幾ら大国の軍を率いる者とて、ここまでの魔具を揃えられるのか、と。

だが所詮、それは驚愕でしかない。目を見張る程度のものでしかない。

ただ次の瞬間、彼が行ったその行動は、彼を戦慄させ、絶句させたのだ。


天霊憑依(・・・・)


天霊が、魔力の結晶体が。

彼の体に乗り移り、肉体に魔力を宿す。


「なッ……!!」


肉を得る、人間と同等の存在になる事ならば、オロチもやっている事だ。

いや、彼だけではない。ヴォルグやレヴィア、デューやダリオも然り。

だが、その為に幾年の、いったいどれだけの苦痛と永劫に耐えたと思っている。

この男は自身の許容量だけで、それを成したというのか。天霊自身でさえも成し得がたい、それをーーー……。


「……それじゃあ、相手してくるよ}


燃え荒ぶが如く、ダーテンの毛色は焦燥に染まっていた。

彼の気配に焦りはない。然れど肉体は、それを隠せない。

少なからずあるのだろう、反動が。元より魔力を持たぬ獣人の身で魔具を使うなどという、自殺行為を成して居るのだ。

憑依など最早自殺そのものである。いや、苦痛を超えるという時点では、自殺以上か。


「貴様、それはーーー……」


「彼等を相手取るにはこの程度じゃまだ、足りないぐらいさ}


一歩、二歩と歩んでいく。

彼等が待ち構える地平線へ。死の、果てへ。


「も、文字っ、文字通り魂を削っ、る、やり方ね、ははっ」


「……どういう事だ、保持者メンテナマン


「み、見れっ、見れば解るで、しょ? あん、あんなの、肉体が持つはずっ、はずが、ない」


確かに、天霊召喚を成す許容量は凄まじい。

しかし憑依となれば、召喚と比べものにならない負担が掛かる。

無から有は創り出せない。ならば、何を犠牲にしているというのか。

答えは簡単で単純だ。

寿命、だろう。


「まー、随分と無茶するよなー」


オロチがそう思案し、噛み締めるのと同時に。

彼等と対峙する一人の男が、そう呟いた。

何処かうんざりと、或いは呆れ返るかのように吊り上げられた眉。

そして飄々とした口調で、呟いたのだ。


「ガチじゃん、アレ。俺でも一回二回しか見たことないんだけど」


「私は何度かあるけれどね。まぁ、少なからず……」


大軍を背に、その者は歩んでくる。

老骨のように緩やかに、然れど巨木が如く仰々しく。

最早、メイアウスとメタルの眼に大軍は映っていなかった。

映るのはただ、歩むばかりの、獣人のみ。


「メイア、ダーテンの相手は俺がする。お前はどうにか被害が周囲に広まらないよう、守護してくれ」


「あら、後野はスノウフ国の聖堂騎士団よ? 序でに潰した方が楽だと思うけれど」


悪戯に笑む女と、何処か不機嫌そうに口先を尖らせる男。

解っているわよと掌を翻しながら、メイアウスは刹那にして壁を創り上げた。

いいや、それを壁と言うべきなのか崖と言うべきなのかは定かではない。

大軍の横幅に比べ、数十倍はあろうかという岩壁。ダーテンと彼等を隔てる、岩崖。


「一応は魔力も通して頑強にしてあるけれど、所詮は気休めよ。修復はしないわ」


「んー、まぁ、無いよりかはマシかな」


メタルは深淵(アビス)の腕輪、いいや、その鞘より真なる魔剣を引き抜いた。

嘗て、神話の時代に神殺しを成した大罪人が持ったとされる、一振りの剣。

所有者を選定する代わりに、選ばれし者には絶大なる力を与えるーーー……、[斬滅]を四天災者足らせる、剣。


「……来いよ、ダーテン。相手になって」


だが、それは。

裏を返せば、剣が無ければただ人に等しいということ。


「え?」


剣を持つ彼の腕が撥ね飛び、刀剣は彼方へ消え去った。

つい数秒前まで数百と離れていた獣人は既に眼前で拳を振り切り、次撃の体勢に入っている。

豪腕に幾多の鋼鉄であろうと砕き割る破砕の力を、溜めている。


「……ヤバ」


双眸を引き攣らせる暇さえなく。

彼の肉体は遙か離れた地平線に爆礫を落とした。

豪風は周囲の大地さえ剥がす程に荒れ狂い、衝撃は幾多の木々を薙ぎ倒す。

一瞬だった。余りに、刹那過ぎる。


「不意打ちのようで悪いけれどね。……余裕が、ないんだ}


「あら、そう。だったらきちんと集中したら?」


ダーテンの顎先を跳ね上げる、拳。

彼の大地を貫くように踏み込まれていた両足が浮遊し、その巨体を空へ浮かす。

追撃は刹那の隙間さえ作らない。彼の肉体が再び大地へ落ちるよりも前に、幾千幾多という拳撃が撃ち込まれる。

そして、最後の一撃は彼の肉体を跳ね飛ばし、岩崖に縦横無尽の亀裂を刻んだ。


「いってぇ……、魔剣抜刀してなけりゃ首が無くなってたぞ」


「普通はしてても無くなるけどね」


己の首骨を無理矢理治し、その男は再び眼前を眺む。

彼の手には吹っ飛ばされたはずの魔剣があった。

否、元より離れるはずもないのだ。その剣が、選ばれし者から離れるはずなど。


「そんじゃ、ダーテンの相手は俺がするぜ。お前はどうする?」


「……私は私で引き付ける連中が居るわ」


メイアウスは美麗なる黄金の髪色を靡かせ、瓦礫を物ともせず静寂に爪先を滑らせる。

対するメタルはへいへいと言わんばかりに剣を構え、眼前を見据えた。

岩崖の亀裂、その中心から平然と起き上がる、獣人を。


「地図の形変わったら怒る?」


「構わないわ。……存分に、やりなさい」


「了解!」


喜々として、或いは無邪気に。

その様はまるで少年のようであった。

いや、少年と例えるべきではないだろう。

世界を滅ぼす力を持った化け物をーーー……、純粋無垢なる、少年などと。




読んでいただきありがとうございました

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