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獣人の姫  作者: MTL2
滅国の跡
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瓦礫の海に沈むのは

「……む、ぐ」


起き上がったジェイドの目に映ったのは、黒だった。

それは自分の体毛のような黒ではない。

何かが上に覆い被さった、影の色だった。


「瓦礫か……」


自分の状態がどうなっているかは解らない。

だが、どうしてこうなったのかは解る。

爆破されたのだ。

自分達が居る場所を埋めるかのように、周囲の建造物を一気に。

そして爆破したであろう相手の思い通りに、自分はこうして瓦礫の海に沈んでいる。


「……むぅ」


これは三つ巴の戦いになっているのか?

一つは我々、一つはあの男達、一つは爆破した者。

もしあの男達と爆破した者が仲間ならば、どうして彼等は避難しなかった?

自分に斬りかかってきた、藍色の長髪を持つ男も反応できた様子はなかったはずだ。

つまり、連中も爆破されると言う事は知らなかった……。


「……取り敢えず脱出しない事には、話にならんな」


瓦礫の海に沈んでいては空を仰ぐこともままならない。

ジェイドは周囲の瓦礫を押しのけ、自分の頭上にある、岩盤のようなそれに手を着いた。


「むっ……」


重い。

パワルの宝石で強化しても、持ち上げられそうにないほどだ。

一体、どれほどの瓦礫が自分の上にのし掛かっていると言うのか。

……いや、そもそも廃墟のような、元が瓦礫の山だった物だ。

爆破で生み出される瓦礫の量も相応だろう。

無論、建造物一個分が自分の上にのし掛かっていてもおかしくない訳だ。


「斬る……、か?」


だが、廃墟と言う事はそれだけ雨風に晒されて脆化しているということ。

鉄や石ほどの強度はないはずだし、紙のようにとは行かずとも、斬る事は出来るはずだ。

尤も、それは。


「……無理か」


瓦礫の下に埋まったであろう、刀身の半分があれば、だ。

そう、ジェイドの手元にあった刀剣は男との斬撃による撃ち合いのせいか、半分ほどでポッキリと折れているのだった。



「そちらはどうですの?」


「不可。動く事や無し」


一方、こちらはジェイドより暫く離れた、瓦礫の中。

瓦礫同士が支え合って洞窟のようになっており、ジェイドの居る場所よりはかなり広くなっている。

そんな場所には二人の人影があった。


「斬りて様子見るべきかや」


男は刀剣を鞘へと収め、深く腰を落とす。

ただしその抜刀の向きは頭上であり、男の構えも何処か傾いていた。

サラは危ないかも知れないと数歩下がり、頭に掌を置く。

それを確認し、男は手首の鈴をりんと鳴らして足先を踏み締めた。


「斬」


数撃の斬撃が天井、基、天壁へと撃ち込まれる。

彼の空圧すらも切り裂く斬撃は、脆化した瓦礫など柔い木の実が如く。

雨粒が如く細切れにされた瓦礫は男とサラの上に降り注ぎ、他のそれの隙間へと落ち込んでいった。


「駄目ですわねぇ……。思ったよりも多く降り積もってるみたいですわ」


「無念……」


再び納刀した男は肩に降り積もった瓦礫の埃を振り払い、柄から手を離す。

これ以上を斬れない事もないだろうが、ただでさえ不安定な瓦礫によって支えられている場所だ。

無用に斬りすぎてこの瓦礫の洞窟が崩れては元も子もないだろう。


「えーっと、お名前は何でしたの? 私はサラ・リリエントと申しますわ」


「…………何と?」


「お名前」


サラは唐突にして男へと名を尋ねる。

こんな場所で、先程まで敵だった存在に名を尋ねるという行為を行ったサラに、流石の男も驚きを隠せないようだ。

だが、まぁ、所詮は攻撃を仕掛けてきたわけでもないのだから、と男は一度咳払いをして平穏を取り戻す。


「下賤に名乗る名や無しや」


「でも、呼べないと不便ですわよ?」


藍色の長髪を持つ男は、暫く思案するように黙り込む。

仕方有るまい、と言わんばかりに彼はため息と共にその名を名乗る。


「キサラギ・エドなり」


「キサラギさん? キサラギさんですわね」


サラは確認するように繰り返し、彼へと微笑みかける。

その笑みはいつものそれと変わらないが、安堵の色を含んで居た。

安堵、というのは、キサラギがこの場に居てくれることだ。


「……その笑みの意味や如何に?」


「ただの笑顔ですわぁ」


この場に彼が居る、という事は、あの愚か愚かと叫ぶ人も近くに居るということ。

そして、自分自身がここに居て、ファナさんが居ないという事は、あの愚かさんと彼女が共に居るということ。


「貴方がここに居てくれて良かったですわ。本当に」


「……意味、不明なり」



「待て、待て、待てぇ!!」


ガグルは、まるで鬼嫁から逃げる浮気のバレた夫のように腰を落として後退っていた。

と言うのも、彼の眼前には最悪の相性にして、最悪の存在が居るからだ。


「逃げ場はない」


ファナは片手に魔術大砲を収束させながら、ガグルを追い詰めていた。

ここも、サラやキサラギの居る場所と同じように、瓦礫同士が支え合ってどうにか洞窟のような状態となっている。

とは言え、流石に言うほどは広くないので、精々、人二人が少しだけ歩き回れる程度の物だろう。

そんな場所だから、ガグルに逃げられる場所もないわけで。


「こんな所でそんなモンぶっ飛ばしてみろ! 愚か所の話じゃねぜぞ!! 両方、生き埋めだァ!!」


「……威力を最小限に抑え、顔面の中心を」


「まず撃たねぇって選択肢を用意しろ! この愚か女ぁああ!!」


ガグルが大声を出すと共に洞窟内は震動し、土埃を振り落とす。

洞窟を支える瓦礫がカタカタと小さく震動する音と共にガグルは悲鳴を押し殺すように口を噤み閉じた。


「良いか……、まず停戦だ。こんな所で争っても何にもならない。OK?」


「断る」


「断るなよぉぉお…………!」


「……と言いたいところだが、流石にこの状況で貴様と生き埋めなど御免被る。もう少し瓦礫が薄ければ魔術大砲で脱出も可能だったのだがな」


「俺の使霊、[木根霊・ジモーグ]でもこんだけの重量は持ち上げられないぜ。愚かながらな」


「……ならば、手は一つ」


「ほう? 聞かせてくれ」


ファナは片手に収束させた魔術大砲を極限まで高めた事により、周囲は昼間と思えるほど明るく照らされる。

これ程の光を放つ物質だ。収束されている魔力も相当な物なのだろう。

だが、これを撃てば瓦礫に穴は空いても脱出前に自分達が埋まってしまう。

一体、彼女はどうしようというのか。


「まず、私がこれを撃つ」


「おう」


「そして、穴が開いたら瓦礫が崩れる前に貴様が精霊を使って私を持ち上げる」


「ふむ、なるほど」


「以上だ」


「………………俺は?」


「死ね」


「却下でお願いします」



読んでいただきありがとうございました

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