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獣人の姫  作者: MTL2
滅国の跡
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黒豹と藍長髪の男

「ジェイドさんとぉ!?」


スズカゼは鎖に繋がれたままだというのに、途轍もなく驚いたリアクションを見せた。

当然だろう。デイジーの話が本当ならば、いよいよ安堵できない状態になってきているのだから。


「はい。ジェイドと互角に渡り合い、戦闘を行っていました……」


デイジーが言うには、彼女は皆が計画したとおり様々な場所を偵察していたらしい。

そんな中で、ある廃墟には行ったとき、物音が聞こえて人影が見えたため、それを追って屋内へと踏み込んでいったらしいのだ。

条件上はあくまで偵察だったのだが、彼女自身もスズカゼが人質に取られているとあって内心かなり急いていたのだろう。

迂闊でした、と彼女は零しながらも説明を続けた。

そして、デイジーはその人影を居った先である男に遭遇したらしい。

その男は獣人で、ジェイドと同じく刀の使い手だったそうだ。


「恐ろしく強かった。多分、私とサラが二人で掛かっても一蹴されるでしょう」


「……その人と今、ジェイドさんが?」


「はい。私は途中まで何とか喰らいついていたのですが、もう駄目だという時に援護に来てーーー……。……ですが、それから間もなくあの男が来たのです」


「……ガグルさんですね」


「ご、ご存じで?」


「その事について、今から説明します。ピクノちゃんもしっかり聞いてね」


「えっ? な、何がデス?」


「……このままだとサウズ王国とスノウフ国が滅びかねないから」



《廃墟住宅街》


「……ちぃっ」


ジェイドの一撃は男により弾かれ、火花を散らす。

白銀の刃同士がぶつかり合うと同時に鳴り響いた金属音を耳に入れながら、ジェイドは男から距離を取った。


「……貴様、何者だ」


「下賤に名乗る名は無し」


りん、と。

透き通るような音を生み出す鈴を手首に付け、藍色の長髪を揺らす男はジェイドの一撃を弾いた刃を鞘に収めて深く腰を落とす。

所謂、抜刀術なる物であり、その初撃の速度は空を舞う鳥すら真っ二つにする程だ。

だがジェイドとて黒豹。空舞う鳥が如く切り落とされる謂われは無い。


「ならばその血肉で名を表せ」


「上等なり」


ジェイドの岩すら砕き割る、パワルの宝石により強化された一撃。

男の空すら一閃の元に斬断する、抜刀術により加速した一撃。

正しく速度と腕力の追突とも言える刀剣の激突。


ガキィイイイイイイイイイイイイイイインッッッ!!


互いの刀身は呼応するように震動し、空気中にそれを伝染させる。

その一撃同士の激突は互いの実力が拮抗していることを示すには充分な物だった。

だが、互いにそれで終わる訳にはいかない。

ジェイドは再び距離を、男も距離を取って、双方は間を開ける。


「……くっ」


ジェイドの腕は酷く痺れていた。

あの激突だ、無理もないだろう。

男もすぐには仕掛けてこない事から、彼と同じ状態になっているのかも知れない。

藍色の長髪を揺らすその男。

目付きは糸のように細く、口元は固く結ばれている。

その様子からも厳格な風を受けるが、彼の顔はまるで女性のようだ。

色白で線が細く、その独特の黒い衣服も女性らしさをかき立てる。

非常に余裕のある衣服からも体格は解りにくく、声と言葉口調がなければ女性と勘違いしていたかも知れない。

そして手首に着いた鈴。

彼は抜刀の度にそれを揺らすはずなのに、音は滅多に鳴らない。

それだけ刀を使い慣れていて斬撃線は真っ直ぐだと言う事だろう。

だが、ジェイドが注目しているのはそれらではなかった。


「貴様、獣人か」


「左様」


その男の両耳は尖っており、口元の牙も同じく鋭くなっている。

何の、とまでは言い切れないが、獣人である事は間違いないだろう。

それは現に抜刀術を用いた上でジェイドと打ち合う身体能力の高さからも断定できる事だ。


「同族ならば、と口に出したくはあるが、それは不可能だろうな」


「黙れ、下賤。如何様なりとも、貴様に従う術や無し」


「……だろうな。こちらもそうだ」


ジェイドは腕の痺れを噛み締め、再び刀剣を構え直す。

獣人の男も同様に、刀身を鞘へと収め直して腰を深く落とした。

彼等は再度、互いに一撃を交わすべく、刀剣の柄を持つ掌へと精神を集中させる。

一瞬の油断が命取りとなる事は明確だ。

ならば、何度撃ち合おうとも、相手が集中を途切らせるまで撃ち続ければ良い。


「油断大敵だなァ! 愚かだぜェ!!」


だが、その紙一重の闘争は外部からの一手により簡単に崩れ去る。

ジェイドの両足には木の根が縛り着き、彼の動きを封じ込む。

だが、パワルの宝石を装備しているジェイドならば、紙切れが如くそれを引き千切る事も出来るだろう。

尤も、それによって生まれた隙を見逃すほど、敵も甘くはない。


「隙有り」


疾駆、疾走、疾進。

疾く、疾く、疾く。

駆け、走り、進む。


「……!」


黒に収まりし白は、その身を紅に染めるため。

鞘元に火花を散らせ、黒豹の喉元へと喰らい着く。


「……と、思ったか?」


刹那の殺気。

男は全力で爪先に力を込め、脚筋が爆ぜるほどに無茶な急停止を行った。

それと同時に、彼が数瞬後に居たであろう場所を弾丸が駆け抜ける。

もしも急停止を行わなければ、彼は頭蓋に一糸の穴を開いていただろう。


「ガグル」


「解ってらァ!」


ガグルは男より指示を出される前に、地に手を着いて木の根を召喚する。

彼の手が着いた場所から地面が隆起していき、それは弾丸の飛んできた廃墟へと到達。

それから間もなく、廃墟の屋上からか細い女性の悲鳴が聞こえてきた。


「捕縛完了! これで……」


彼が喜んだのも束の間。

男とガグルの手元目掛けて、周囲の廃墟ごと魔術大砲の雨が降り注ぐ。

男はそれを軽やかに回避し、ガグルは何重もの木の根による防壁を張って防御する。

だが、初遭遇時もそうだったように、木の根の盾では魔術大砲は防ぎきれない。

ガグルは慌てて建築物の廃墟内へと転がるように逃げ込んだ。


「3対2だ。まさか卑怯とは言うまい? 先に仕掛けたのはそちらだ」


「結構。異論無し」


地面に降り立った男は同時に廃墟の壁面を蹴り飛ばし、ジェイドへと迫り行く。

その速度は先程と変わらず、凄まじい物だ。

一歩一歩が風が如く、その白銀は光が如く。

だが、ジェイドとて風を受け光に喰われるほど安くはない。

彼はパワルの宝石を発動すると同時に、刀剣を構え直した。


「今だぁああああああ!!」


だが。

彼等が激突する事はない。

代わりに飛び散った爆裂音が周囲の廃墟を崩壊させ。

彼等が激突するはずだったであろう場所に瓦礫の波を降らせ。


「マズいーーーーっ……!!」


ジェイド、ファナ、サラ、ガグル、そして男を。

彼等全てを、瓦礫の下敷きとした。


読んでいただきありがとうございました

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