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獣人の姫  作者: MTL2
白の世界
715/876

神々は純粋故に

「……ッ」


全魔力を収束した上での一撃だった。

魔剣の白刃に自身の全魔力を集中させて、斬る。

太陽に刹那を刻んだ剣閃でさえ余波。それ程の、威力。


{悪くなかった}


だと言うのに。

その者は、神は。

依然ーーー……、健在。


{……何を驚く? 貴様がそうであるように、我もまた再誕の力を持つ。必然であろう}


「えぇ……、そうでしょうね」


{しかし久しいぞ、小娘。一度とは言え我を殺すなど、嘗ての英雄共以来だ}


「ーーー……英雄?」


{いや、今は大罪人と言うべきか}


音も無き疾駆。

彼女は眼を見開き、その姿を捕らう。

眼前、足下。槍による下段からの突き上げ。

己の首筋を刺突し空に張り付けられるよりも前に、彼女は神を切り裂いた。

否、神の残像を切り裂いたのだ。


{我の為に湾曲されてしまった歴史だが、違いなく奴等は英雄であった}


切り裂いたはずの影が揺らめき、己の左腕が吹き飛ぶ。

背後より静かに響く声を前にしても、未だ彼女が知覚することはない。

背後に立たれたのだ、と。そう理解し、斬り返した時には。

既に己の眼球へ、槍の切っ先が迫っていた。


{一人一人が我と渡り合える力を持っていた。尤も、我を殺しきったのはただ一人であったが……、それでも充分に奴等は豪傑たり得ただろう}


スズカゼの顔面半分が抉れ飛ぶ。

然れど彼女は止まらず、眉根一つ動かさず。

ただ、無驚のままに牙を突き立て、天槍を有す腕を切り裂き。

自身の右足が消し飛んでいることに、気付く。


{懐かしき日々だ。我が我あれかし、と。魂の輝きを望めた日々でもある……}


一瞬の再誕、刹那の裂撃。

再誕と同時に、いや、或いはそれよりも疾く。

ツキガミは息音一つとして乱さない。その声色に変化はない。

然れど対峙するスズカゼは先の一撃による魔力の欠乏、及び天槍の連撃による身体被撃。最早、文字通り手も足も出ない状況だった。

だが、神は未だ語る。その口端で、刃で、切っ先で、魂への礼節を。


{故にまた、貴様にも礼儀は尽くす。それが魂を創造せし我の責務にして、義務だ}


神とは何か。

圧倒的な力を持つ存在か? 絶対的な魔力を持つ存在か? 無類的な知力を持つ存在か?

否、否否否ーーー……、断じて否である。

神とは等しくして圧倒的であり絶対的であり無類的であるべき存在だ。

それら全てを持ち得る、存在なのだ。


創造クリエイト


矛盾せし始祖の法則アンリミテッド・アンチルールが破壊ならば。

創造クリエイトは、正しく言葉通りの創造(・・)

魂を創り、死を創り、幾天の世を創り上げた神故の、権利。


{顕現せよ、世界}


抉り返り、草々の混じった泥に覆われし岩盤ばかりの世界。

それ等は瞬く間に消え去り、一つ一つの虚空となっていく。

海ーーー……。水面に薄い、然れど決して砕けぬであろう硝子が張り巡らされたかのような、海。

スズカゼは、それが現実の物ではないと気付くのに、そしてその世界の意味を理解するのに、そう時間を要することは無かった。


「……全力で、という事ですか?」


{そうだ。我も貴様も、あの世界では些か収まり切らぬ。だが、この模造世界であればーーー……}


ツキガミが槍を振るう。

衝撃波は足下の硝子など無視して水面を斬り裂き、幾多の水飛沫を跳ね上げた。

いや、違う。

衝撃波は足下の硝子など無視してその世界を(・・・・・)斬り裂き、幾多の水飛沫を蒸発させたのだ。


この程度(・・・・)ならば力を出しても問題はない}


「上等です。ラスボス戦ってェーのは……」


スズカゼの剣が、剣閃の弧を描く。

魔力を纏わぬその斬撃は水面を切り裂くことはない。

無論、足下に張った不可視の硝子でさえ斬り裂けない。

必然だ、その斬撃が斬ったのは下ではなく横。

果て無きはずの地平線に流れていた雲を、斬風のみで斬り裂いたのである。


「ド派手な方が映えますからね」


{……然り}


ツキガミが嗤う。

スズカゼが吼える。

彼等の慟哭に等しい咆吼は天を裂き、海を穿つ。

そうして生まれた刹那の静寂こそが、死に等しき剣閃を、交差させた。


「去ね、[クソ野郎(カミサマ)]」


戯言ほざけ、[獣人の姫(コムスメ)]}


彼等の最中にあるのはただ、純粋な闘争。

それは憤怒、嗤叫、享楽、解放、感謝、願望という決して混じり合うはずのない物を、その色々を、一閃の元に収束させる。

ツキガミにあるのは享楽と感謝、そして願望。

スズカゼにあるのは憤怒と嗤叫、そして解放。

神は願った。魂の輝きを、と。

彼女は解き放った。怨恨と鬱憤を。

故に、彼等はただ純粋に交差したのだ。余計な一切の感情を捨てて。

神なればこそ、純粋なればこそ、絶対的にして圧倒的にして無類的だからこそ。

そして何より、矛盾という歯車を抱える欠陥品同士だからこそ。


{それでこそだ小娘ェエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッ!!!}


「ほざけよ凡神がァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!」


彼等の衝突闇が如き黒さえも塗り潰すーーー……、万物の白と成るのだ。



読んでいただきありがとうございました

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