道を開いた者達
「行き先が決まりました」
岩陰、端から見た中では死角となる場所。
そこでスズカゼは皆を円として一枚の地図を広げていた。
大監獄の看守室にあった、ロドリス地方を除き四大国を最大規模とする世界地図。
「私達はシャガル王国に亡命。その後、サウズにて反抗組織と合流してスノウフ国に居る連中を叩きます」
「つまりシャガル王国を巻き込んじまうって寸法だ。シシッ」
「しかし、そもそもシャガル王国が協力するとは思えないのだが、どうだろう?」
「だろうな。フーの言う通り四国大戦中は傀儡、今でさえスノウフ国の腰巾着な位置にある国だ。通常であれば決して強力を取り付けられるはずもない、が」
「私がシャガル王国の国王と知り合いなんです。多分、あの人なら理由を話せば協力するだろうしーーー……」
「あの男ならば燻る程度ではない、という事じゃ」
三武陣、超獣団、魔老爵、邪木の種、チェキー、そしてスズカゼ。
彼女等は僅かな静寂を持ってして、皆で視線を交差させた。
「ただ、ここから先は本当に生死を賭けた戦いになる。相手は[封殺の狂鬼]、[精霊の巫女]、[サウズ王国最強の男]級の連中ばかりだ。……正直、我々三武陣でさえ生き残れるかは解らない」
クロセールが傍目に見るのは超獣団と邪木の種、さらにチェキー。
彼女達はここから先、時間稼ぎさえ出来ないような実力だ。
生き残ることを考えるのであれば、ここで別れた方が賢明だろう。
「故に、ここで別れることを選択しても誰も責めはしない。いや、むしろ私はそれを推奨する」
彼の言葉を前に邪木の種のスーは首を振った。
元より魔老爵のヴォーサゴに使える身である彼女だ。戦場で死すことさえ役割の一つと思っているのであろう。
チェキーもまた然り。己は成すべき事があると言わんばかりにその眼光が伏せることはない。
しかし、超獣団の面々はーーー……。
「……私達はここで脱退する」
始めに言い出したのはムーだった。
ココノアは驚くように彼女を見るが、シャムシャムがその肩に手を添えて静止する。
解りきっている話だ。彼女達に力はない。この先の戦いで、決して無事では済まないだろう。いや、それどころか足手纏いにすらなる。
その足手纏いが生死を分かつ場だ。ならば、自分達が行って良い理由などない。
ただその役目はスズカゼ・クレハという一人の女性が立つ為の道を開くためだけにあった、と。それだけの話なのだから。
「シシッ、これ以上は私達には無理だ。お前等だけで勝手に行きやがれ」
「……残念ですけれど、私達が到れる領域ではありませんから」
仲間達二人が目を伏せると共に、ココノアは必死に言葉を飲み込む。
本当は付いていきたい。自分に力が無いことは解っているけれど、彼女達と共に戦いたい。
けれど駄目なのだ。仲間の為なら、彼女達のことを思えばこそ。
自分は、付いていけない。
「…………赦さないからな!!」
瞳に涙をいっぱい浮かべて。
鼻声になりながら、震える指先で、彼女は叫ぶ。
「シンが道を切り開いたんだ! アイツが全部、何もかも賭けて道を切り開いたんだ!! だから、立ち止まったら赦さないぞっ!!」
その言葉を最後に、ココノアは瞳から大粒の涙を流しながら泣き喚いた。
何処までも真っ直ぐで何処までも仲間思いな獣人の、涙。
スズカゼはそれを拭うようにココノア、シャムシャム、ムーの三人を抱き締める。
彼女達が自分の道を切り開いてくれた。その果てまでを示してくれた。
ただ光を見せてくれた彼と共に、彼女達がーーー……。
「……必ず、辿り着きますから」
「ぜっだいだがんなぁ!! ぜっだいだぞぉ!!」
「お姉様、信じてます……!」
「シシッ、全部終わったら借り返しやがれよ」
響くのは、ココノアの大泣きばかり。
静寂とも喧騒とも言えぬ空間で、ただ彼女等は確かめ合っていた。
自分が進むべき道を、友が進むであろう道を。
「感動のお別れって感じかなぁ?」
刹那、天より降り注ぐ巨大な岩盤。
彼等の居る岩陰さえも破砕する、極大の巨岩。
「オクスッッッ!!」
クロセールの絶叫と共にオクスは跳躍し、頭上の巨岩を砕き割った。
然れどそれは扉。絶望への扉なり。
両断され地へと落ちる岩盤の先に見えたのは太陽に浮かぶ夜だった。
否、そうではない。太陽を覆い隠す程に巨大な、竜だった。
「竜、だとーーー……?」
絶句を括り殺すかのように、影が映える。
太陽を覆い隠された夜ではなく、黒闇が統べる夜へと。
ただ己の魂が震え、吐き気さえ覚える恐怖。
眼前に迫るのは二体の天霊。[傲慢]と[強欲]を司る、天霊。
「久し振りねぇ、スズカゼちゃぁーん? 元気してた?」
「……貴方は」
「んじゃ、早速だけどばいばーい」
巨竜の咆吼と共に吐き出され、叩き付けられる豪華の荒波。
大地全てを覆い尽くしたそれは万物容赦なく火炎の海に沈め込んだ。
一切の容赦なく、一切の例外なく、焼き尽くすーーー……。
「聖闇・魔光」
然れど、純白にして紅蓮の衣がそれを赦すはずなどなく。
全ての炎は彼女の衣に暗い尽くされ、荒野の枯草一片燃やすことなく消え失せた。
その衣の中に、眼光の果てに。
「一筋縄じゃいかないわね、やっぱり」
「全力で行きますよ、ダリオ。……えぇ、全力でね」
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