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獣人の姫  作者: MTL2
白の世界
686/876

刻々と動き始めて

《大聖堂・元老院会議室》


「さて、者共よ。集ったな」


その場に居たのは各々、一国を相手にしたとしても戦える猛者達。

[道化師]、保持者メンテナマンとした者達と、大罪人の模倣として罪の称号を与えられし[傲慢]デュー・ラハン、[強欲]ダリオ・タンター、[嫉妬]バルド・ローゼフォン、[憤怒]グラーシャ・ソームン、[色欲]ヌエ、[怠惰]ユキバ・ソラ。

さらに三賢者が模倣者である天霊達、オロチ、ヴォルグ、レヴィア。

その上、[全能者]にして[全属性掌握者]ハリストス・イコン。

四天災者[断罪]ことダーテン・クロイツ。

そして全ての根源、ゼル・デビットの身に宿りし天上の神、ツキガミ。


「あー、悪いけどよぉ。デモンは今治療中で居ねぇぞ」


「……あの男は主戦力じゃ。殺すでないぞ」


「へいへい」


ユキバは席を立ち上がり、踵を返す。

保持者メンテナマンはそんな彼に何処へ行くのかと問うが、答えが返ってくることはなかった。

ただ、その背はふらふらと揺れながら、奥の部屋へ、消えていく。


「……全く、調子でも悪いのかしら」


「放っておけ。元よりあの男に協調性などという物を期待はしておらん」


結果、二名ほどの欠席が出こそしたが、これで彼等は総集結したことになる。

少数精鋭。その数こそ多くないが、現状、最大級の戦力を持つ者達が一堂に会しているのだ。

ただ、各々の理念があれど、一つの目的の為に。


「して、貴様等を集まらせたのはこの男の紹介と今後の目的を知らせておく為である」


「目的、とは言いますけど……、現状はツキガミ様を復活させるというだけでは?」


「うむ、[憤怒]。それもあるが……、[嫉妬]よ」


「バルドで構いませんよ。その称号は私には大層すぎる」


そうは言えども、やはり彼の表情は一縷として歪まない。

決して和やかとは言えぬ空気の中で皆の視線を集めども、だ。

始めに問うたグラーシャは彼のそんな様子に何処か不気味ささえ覚えながら、言葉に耳を傾けるべく少し前のめりとなる。


「さて、現状として組織的な観点で見れば我々と戦えるものは居ないと言って良いでしょう。個々での戦力で見れば多少拮抗する部分もありますが、全体的に見ればそうではない」


「……その上で、何が問題なの?」


「我々の目的は等しく世界の救誕です。その為にツキガミ様の御力を借りるわけですが、まぁ、これは一旦置いておきましょう」


「だから、よぉーく解んないんだけどさぁ。私達に倒せない相手が居ないってのが現状なんでしょ? だったら何が問題なの、ってば」


「まぁ、落ち着いて下さい。[強欲]ダリオさん。問題はその後ですよ。世界を作り直すという問題点に関しては四割ほど完了しています、が。未だ東国のサウズを拠点とする反抗組織レジスタンスやハリストスさんが造ってしまった神……、あぁ、スズカゼ・クレハの問題などがあります」


皆の気色が、変わる。

この場に居る者は少なからずスズカゼ・クレハという人物に影響を受けているのだ。

目的を潰された者、謀っていた者、利用した者、仲間を潰された者ーーー……。

様々であれど、彼女に対して油断は出来ないというのが同一の見解だろう。

何をするか解らない、果てしなく面倒な存在。

それでいて運命の行く末を握る、鍵。


「……神を造った、というのはどういう事です?」


「まぁ、端的に言ってしまえばスズカゼ・クレハという器があり、本来ツキガミ様は其所に入るはずでした。しかしゼル・デビットの妨害によりツキガミ様は今、ゼル・デビットの肉体に入っている」


「その間、空となる器は大監獄に封じていたはずですが」


「そうです。しかし大監獄で一悶着あったようで。結局のところ空の器に別の魂が入ってしまったんですよ」


「それは、つまり」


「えぇ、一度スズカゼ・クレハを殺して中身を入れ替えないといけません」


空気が、沈む。

不可能ではない。彼女を殺すことは、出来なくはないはずだ。

しかし神の器である彼女を迂闊に傷付けることは出来ず、またその当人も何をするか解らない存在。

こうも悪条件が重なると、自ずと手を上げて我こそがと名乗りは上げられない。

しかし、このまま放置しておく訳にもーーー……。


「俺がやる」


一人、名乗りを上げたのは。

その身を白き布地で縛り上げ、疲労と苦痛に歪んだ眼を無理矢理開く獣人。

傍目に見ようとも瀕死である事が解るのに、その者は己の肉体を引き摺ってその場に踏み入ってきたのだ。


「……[暴食]か」


「俺が、スズカゼを殺す。一度はこんな状態にされたんだ。仕返しぐらい、赦されるだろう?」


「ならぬ」


だが、オロチは其れを赦さない。

元よりこの戦乱に見せられた男を放置することさえ、本望ではないのだ。

ただ戦いを求める[暴食]とその絶対的な力を持つが故、手元に置いているだけのこと。

これ以上スズカゼ・クレハという存在へ迂闊に近付ける訳には、いかない。


「デモン、貴様にはサウズ王国の反抗組織を相手取って貰う。貴様ならば軽くひねり潰せよう」


「……雑魚を捻り潰して何が楽しい? この一年、俺はその遊戯に欠伸してきたんだぜ?」


「貴様の役目は次第にこういった物が多くなっていく。甘美なる餌を前に我慢の一つもしてみせろ」


獣は牙を剥き、その場でオロチに襲い掛からんがばかりの殺気を漏らす。

然れど今の彼にとって、怒りは己の体を傷付ける刃に等しい。

開いた傷口から漏れる鮮血に、デモンは思わず剛脚の膝を折った。


「……スズカゼの討伐に関しては[傲慢]デューと[強欲]ダリオに一任する。[色欲]ヌエと道化師、[暴食]デモンはサウズ王国の反抗組織を潰せ」


皆が立ち上がり、その命に従うが如く歩き出す。

ただ残されるのは全てを眺め、静かに微笑むハリストス。

そして己の無力に苛まれ、牙を突き立てるデモン。

悪魔は笑う。己の目の前に残された獲物を前に。

ただ、その甘美なる言葉を、囁くように。



読んでいただきありがとうございました

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