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獣人の姫  作者: MTL2
滅国の跡
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滅国跡地

【シーシャ荒野】


「私が送れるのはここまででス」


地平線の中に凹凸が見える荒野で、獣車の操縦席に乗っているレンはそう述べた。

獣車から降りたスズカゼは彼女へと頭を下げ、礼を述べる。


「ありがとうございました。余りの速度に途中で私は獣車から落ちかけるしデイジーさんが吐きかけましたしサラさんは硬直してましたしファナさんですら俯いてましたけどありがとうございました」


「いやぁ、やっぱりぶっ飛ばすのは獣車の浪漫ですヨ!」


「止めろと言っただろう、レン。貴様の運転に慣れてないとアレは無理だ」


「それでは皆さん慣れる方向デ。あ、帰りも迎えに来ますかラ」


「もうホント勘弁して貰えませんかね」


「では帰りもよろしくお願いしまス!!」


スズカゼの言葉など聞かずに、レンの操作する獣車は、凄まじい土埃を巻き上げながら走り去って行った。

ジェイドはその土埃を煙たそうに振り払ったが、他の者はそんな余裕などなく、ただ俯いているだけだった。


「……吐きそうだ」


「もう少し頑張ってくださいよ、デイジー。近くに川があるはずですから、ほら、森も……。フフッ」


「しっかりしろ、サラ。近くに川も森もない。あるのは荒れ地だ」


「……ファナさん、大丈夫?」


「…………」


「ファナさん? ファナさん!?」



【シーシャ国跡地】


「……はぁ、どうにかですね」


シーシャ国までの道のりでどうにか酔いを覚ました彼女達は、この跡地へと来ていた。

周囲の建物は瓦解こそしてはいないが、周囲にツタが這ったりカビが生えたりと。

正しく跡地と呼ぶに相応しい状態となっている。


「油断するなよ。盗賊団共が住み着いているはずだ」


だが、瓦解していないという事は清潔感はともかく移住地としての機能を果たしていると言う事だ。

魔法による下水道処理などは不可能であろうが、野宿よりも何百倍もマシだ。

滅国したこの国は、言わば荒地に転がる豪華な掘っ立て小屋。

盗賊団や追い剥ぎのような、国に居着けない者共が住み着くには絶好の場所だろう。


「しかし、妙に静かですわね。ここならば狙撃だと完全に射程距離ですわよ」


狙撃者らしいサラの言葉は、確かにそうだ。

現在の距離ならば狙撃者による狙撃が行われてもおかしくはない。

勿論のこと彼女等とてそれに対する手は打ってある。

ファナの魔術大砲を表面的に広げた、簡易的なバリアを張っているのだ。

これならば狙撃でも数発程度ならば耐えられるだろう。

だが、現在はその狙撃の様子もなければ、人の気配すらしない。

本当にこの豪華な廃墟の掘っ立て小屋と化した国に人が居るのかどうかすら怪しくなってくる。


「……これ、本当に居るんですか?」


「居る」


ファナはそう断言し、ただでさえ鋭い眼光をさらに細める。

彼女の視線の先には廃墟の側にある足跡が映っていた。

砂もまだ乾き切っていない事から、比較的、新しい物なのだろう。

この風が吹き荒ぶ廃墟でその砂を濡らすのは雨だろうが、周囲は濡れていない。

つまり、そこを濡らしたのは水。

人が零した水なのだ。


「泥の上に出来た足跡、ですか。……何か縁がありますね」


「泥に縁があるならば泥濘にはまるぞ、姫。泥などで躓いて貰っては困るな」


「あははは……。気を付けます」


率先するようにスズカゼは、じりっ、と一歩を踏み出す。

何処に敵が居るか解らない状況で下手に動くのは得策ではないだろう。

だからこそ、こうして地道に動いていくしかない。

相手が仕掛けてくれば、こちらも応戦する。

ただの旅人共と高をくくってくれるならば好都合だ。

舐めてかかってくれば、返り討ちにしてくれる。


「……スズカゼ殿、相手はまず先手を取ってくるはずでしょう。地の利は相手にあるのですから、恐らく暗躍的に動く」


スズカゼやデイジー達はこの地に始めて降り立つ。

対する盗賊団は日にちこそ不明だが、恐らく数週間は滞在しているだろう。

だとすれば相手の取る戦法は地の利を生かした隠密戦だ。


「と、思うだろ?」


だが。

彼女等の予想は大きく外れることとなる。


「愚か愚か! 固まっていれば勝てるとでも思ったかい?」


陽気に叫ぶその男は。

黄土色の頭髪を揺らしながら、犬のように尖った牙を剥き出しにして。

茶褐色の双眸を細め、口元を歪ませる。


「その発想がぁーーー……」


右手を額に、左手をスズカゼ達に。

如何にも奇妙な恰好を付け、その男は思案するような唸り声を上げる。

彼が口を開くまでの間、数秒。そして、男は言葉を述べる。


「愚かッ!」


言い終えた男は満足げに息をつくが、その述べ口上を待つほど、こちら側は優しくない。

ジェイドは彼が唸っていた頃には既に地を蹴って疾駆していた。

男が最後の決め台詞を言い終えた頃には既に、ジェイドの切っ先が彼の眼前へと届くかどうかといった状態だったのだ。


「愚か、だな」


しかし、その切っ先は男へと届かない。

それはジェイドが刀を止めたのでも、男が止めたのでもなく。

大地より出現した、木の根が止めたのだ。


「なっ……!?」


「刀を振れば相手の首が飛ぶか? 刀を振れば血飛沫が舞うか? 愚か。その単調的な思案が非常ォーーーーーーーっに! 愚か!!」


木の根はジェイドの振った刀の切っ先に絡みつくだけでなく、彼の足下から全身へと伝達し、その頑丈な根で彼の全身を締め付ける。

一瞬でジェイドの全身は木の根に覆われ、彼の自由は奪われ、その黒き体毛すらも芥子色の中に消え失せて。


「まず一人。さて、次は誰かな?」


その男の左手は。

木の根の塊を超えて、スズカゼ達へと向けられていた。


読んでいただきありがとうございました

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