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獣人の姫  作者: MTL2
虚ろなる世
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闘争を喰らう

【大監獄周辺】


「くかははははははッッッッ!!!」


嗤叫が轟き、豪腕と大鎌が交差した。

破砕の一撃は風でいなされ、刹那に逸れて瓦礫を破砕する。

然れどフーの表情に安堵はない。否、むしろ切迫さえ。


「……ッ!!」


始めに往なしたときは完璧に逸らしたはずだった。

それが、今では自身の頬へ擦るほどに接近している。

適応しているのか。この戦闘の中、奴は自身の魔術に。


「どうしたよ」


彼女の眼前に、構える。

喰い込むが如き体制にして、その男の拳は、眼前へと。


乖離エアーーー……ッ!!」


「詠唱破棄で何が斬れる?」


拳撃はその身を穿ち、跳ね飛ばす。

その一撃が彼女の臓腑を貫かなかったのは偏に風圧の盾があったからだろう。

塔の中枢に撃ち込まれ幾多の亀裂を走らせる彼女を前に、デモンは己の口端を歪め、踵を返す。


「……まァ、そこそこだな。つっても三武陣(トライアーツ)全員で一度はツキガミを退けたっつーしなァ。次に相手する時は三人組とやりたいモンだ」


彼はボリボリと頭を掻き毟りつつ、大監獄の中へと歩んでいく。

頭上の塔にめり込んだ一人は緩やかに剥がれ、大地へと落ちた。

薄れゆく意識の中、彼女の瞳に映ったのは自身が刻んだ幾多の斬痕。

肉だけではない。骨さえも、絶ったはずだ。

首根に刻まれた斬痕もまた、それを示すはずだというのに。

その男はただ、平然とーーー……。


「……敵わないと思うのだが、どうだろう」


落下と共に、彼女の意識は闇へ劣る。

幾ら刻もうと猛攻を止めない破壊の化身。

その男は正に[暴食]。幾多の戦乱を喰らい、幾多の戦闘を欲す、暴食。

その為には己の身など厭わず、己の傷など存在せず。

デモン・アグルス。その男は正に、闘争の化身だった。



【大監獄】

《第二階層・廊下》


「ッ……」


クロセールは誰も居ない廊下を背に、途切れる息を必死に落ち着かせていた。

果てしなく面倒だ。連中は自分の領域をしっかりと弁えている。故に、面倒だ。

奴等は自身を次階層へ行かせない為だけの手段を講じる。勝とうなどとは一縷として思っていない。

何かがあると言うのか? 時間を稼げば、何かが。


「いや、そうか……」


一つだろう。

奴等が時間を稼ぐ目的は、たった一つ。

スズカゼ・クレハのーーー……、覚醒だ。


「させて、なるものか」


嘗て七人の大罪人を、否、人類を超えた神と精霊達。

奴等は、或いは仮説であるが、神と精霊達は故に歴史を改ざんしたのだ。

己等の望むように世界を創るため、改変する為に。


「しかし、異変が起こった……」


若しくは異変が起こったからこそ改変させたと言うべきか。

ツキガミは、一度封印された。殺されたのではなく、封印されたのだ。

それを示すように、[ツキガミ様]という童話がある。

そして[5つの宝石]という童話も、また。


「……リドラ氏の調べた通り、という訳だ」


[ツキガミ様]はツキガミという神が命を創るが、命は勝手に増えすぎてこの世界を圧迫してしまう。故にツキガミ様は次に死を創った、という話。

[5つの宝石]は少年が世界中で起こる天変地異を鎮める為、世界中を回って5つの宝石を集める、という話。

この二つは関連している。ツキガミは言うまでもないが、5つの宝石に関しては、違う。

この宝石というのは嘗てツキガミが生み出したという三賢者と同等の存在であった、五神の有していた五つの紋章のことだ。

そしてこの五紋章とはツキガミの半身を表す五大属性の事だろう。

奴等はそれを使って、ツキガミの半身を、魂を蘇らせ、そして。


「そして、器……」


魂だけでは復活は有り得ない。

故に、器を求めた。その魂が入る器を。

そしてそれこそがスズカゼ・クレハという存在であり、奴等が選んだ選択肢でも、ある。


「……させるものか」


今、スズカゼを殺さなければツキガミは完全に復活するだろう。

最早連中の準備は完全に整っている。過去の再編という舞台の中で、三人の天霊による三賢者の模造、七人の者達による七つの大罪の模倣。

全ての舞台は整った。後は、奴等が器に魂を入れるのみ。


「それだけは、絶対に……!」


足下に転がる、爆薬の筒。

彼は氷結を展開すると共に、疾駆と回転を持ってそれを回避した。

紅蓮の爆炎を前に思い出すのは彼女の姿。あの、嘗て戦った忌々しき姿。

あんな物をこの世に出せる物か。必ず、必ずーーー……、止める。



《第一階層・通路》


「……ッ」


オクスは己の義手が軋んでいるのを感じていた。

この四年間、師匠という整備士の居ない中、クロセールに頼って稚拙な整備しか出来なかったのだ。

軋むのも無理はない。

そして、その軋む義手でこの連中を相手取れたのは運が良かったと言わざるを得ないだろう。


「まだだ」


だが、未だ残る者あり。

幾多の看守が伏す中、その者は立っていた。

鋭利なる刃と等しき切れ味を持つ紫緑の鞭は撓り、彼女の怒りを刻むが如く壁面を切り裂いた。


「まだ落ちんぞ、私は」


「……その執念、尊敬に値する。しかし私と貴様では実力の差は余りに大きい。ここは大人しく下がるのが利口な判断ではないか」


「例えそうだとしても、私は下がらない。この大監獄を任された身として、そんな愚かしい判断など決してしない……!!」


「ならば此所で沈め」


凄まじい駆動音を裂くようにオクスは疾駆する。

幾多の屍の上を猛進するが如く、その白銀の義腕を振り被って。

ただ、鞭を構える看守長へ、一撃を。


「良い女共の戦いはそそるなァ」


然れど、一撃は停止する。

豪腕の元、一切の破砕を容易く受け止められて。

幾多の屍を砂塵が如く舞い散らせ、停止したのだ。


「……何のつもりだ、デモン・アグルス。貴様は上で戦っていたはずだ」


「そういうな、看守長さんよ。急いで走ってきてやったんだぜ?」


自分を護る為などではないと彼女は確信する。

この男が来たのは横取りだ。いいや、この男からすれば争う子犬を横から喰らっただけなのだろう。

ただ、当然の様に闘争の中へと。


「……貴様」


「やろうぜ、[白黒の騎士]」


デモンはいつも通りの笑みを浮かべる。

例え如何なる状況であろうと、祝福するように。

闘争のみを欲す、笑みを。


「俺を、愉しませてくれよ?」



読んでいただきありがとうございました

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