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獣人の姫  作者: MTL2
虚ろなる世
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救うための道


「まず、だ」


ムーが机の上に広げたのは一枚の地図。

大陸の地図でもなければ周辺の地図でもない。この塔、大監獄の地図。

本来、看守には第一階層から第三階層の詳細な地図が渡され、それ以上は通路しか描かれていない地図が渡される。

重要な会議や通達の際は最終層まで入るので階層は解るがーーー……、今はそれ以前の問題だろう。


「お前の言うスズカゼは最下層に居る。これは間違いねぇ。シシッ」


「あの女が居るのかぁ!?」


「こ、ココノアちゃん、今は大事な話し中だから向こうに行ってよう? ねっ?」


シャムシャムに連れて行かれるココノアを横目に、シンは再び視線をムーへと戻した。

彼女が言うにはスズカゼ・クレハがこの監獄の最下層に居るという。

しかし、自分でさえ風の噂を辿って、どうにか辿り着いたと言うのに彼女はどうやってーーー……。


「一年前ぐらいか、それより少し後ぐらいか。この監獄に絶対逃がすなって女が来たのさ。シシッ。近くに置いておくには都合が悪いとか何とかって話を盗み聞いたりしたんだが……、シシッ」


「それ大丈夫なんスか……?」


「この地図を見ろよ。最下層までの道のりがびっしりだ。……何でだと思う?」


「……了解したッス」


シンは切に思う。

この女性を敵に回してはいけない、と。


「シシッ。それでお前の居るトコだが、今はこの第一階層だ。そして奴が居るトコは最下層……、あぁ、要するに第五階層になる」


「そんなに距離はないんスね」


「だと思うだろうが、最近になって妙な設備が取り込まれたんだよ。シシッ。魔力施錠とか何とか……」


「……もしかして、ッスけど。それを取り入れたのは妙にへらへらしたボサボサ髪の男じゃないッスか?」


「その通りだが……。よく知ってるな、シシッ」


やはり、か。

ここにも、当然ではあるが、奴らの手は伸びている。

魔力施錠。確か四年前に基地としていた場所にもあった装置だ。

制作者はユキバ・ソラ。皮肉にもこの魔剣の制作者であり、嘗ては自分の仲間だった男。

ーーー……いや、それを言うのであれば全ての黒幕であったオロチやレヴィアもそうだ。デューもダリオも、ヴォルグやヌエでさえ。

皆が全てを知っていながら彼女を陥れていた。

自分は、それを赦すことなどーーー……。


「ッ……」


今は、私怨に呑まれるべきではない。

自分が考えるのはスズカゼを救う事だ。その後もその先も、考えるにはまず彼女を救わなければならない。

そして、その為に協力してくれる人も居るのだ。ならばよそ事を考える暇などないだろう。


「この魔力施錠っていうのは特定の魔力が無ければ開かない扉なんスよ。だとすれば最下層ともなれば相当厳重に封がされていると思うッス」


「シシシッ、やっぱりお前ただ者じゃねぇな」


ムーはそう言いつつも地図の上にペンを走らせていく。

彼女が記す幾つかの印は直線的ではなく、何処か湾曲的だった。

いや事実、遠回りしている。この道を行けば早いのにという順路が幾つもあるのだ。


「……これは?」


「シシッ、ここにゃ厄介な責任者が居てよ。看守長ってんだが……、あの女はメチャクチャ強いぞ」


「どれぐらい、ッスか?」


「先輩の自慢話で聞いたんだが、ここの囚人数百人が暴動を起こしたことがあってよ。シシッ、眉唾だが看守長はそれを一人で抑え込んだらしいぜ。シシッ」


いや、事実だ。

仮にも奴等にとってスズカゼ・クレハは重要な存在。

だとすれば簡単に奪われるような場所に置くはずがない。

ということは最大の難関は看守長、という事かーーー……?


「魔力施錠に関しての解除魔力の込められた許可書は第三階層まであるぜ、シシッ。本来は……、な?」


ムーが地図の上にバラ撒いた許可証は全部で四枚。

本来ならば幹部相当にまでしか渡されぬはずのそれを、彼女は平然と出したのだ。

地位を知らぬシンでさえ、平然と異なる数を出してきた異常性は解る。

これはどうしたのか、と。そう問おうとした時、ムーが先手を打つように口端をキパッと裂く。


「一年もありゃ充分だぜ、シシッ。あのバカ共の尻ぬぐいする方が余程大変だ」


改めて思う。この女性を敵に回してはならない、と。

シンは自身の頬端から流れ落ちる冷や汗を手の甲で拭い、許可証を一枚一枚見回していく。

刻まれた数字は一から四。五は無いが、ここまであれば上等だ。


「……残る最下層の鍵は、誰が?」


「看守長と予備スペアが一枚。会議室まで行く時は毎回看守長が解錠すっからな。シシッ」


ならば獲得すべきは予備となる。

看守長とは戦わない方が得策だろう。相手がどんな実力者かは知らないが、無駄に消耗する理由はない。


「その予備は何処に?」


「第四階層の監視室だ」


こんこんとペン先で叩かれるのは四層の最奥にある一室。

そこに到るまでは一本道であり、周囲に分岐する道はない。

当然ながらの処置だ。ここを作った設計者は余程良い性格をしていると見える。


「……まず、俺達が目指すのはここッスね」


「シシッ。狙い目は明日の昼だ。看守共が一番油断するからな」


シンは頷きながら、地図の上に視線を這わせていく。

この先だ。この地図の、先。最下層。ここに、彼女が居る。

一年探し求めた。いや、四年前からずっと探していた。

彼女が、居る。


「……ありがとうございます、ムーさん」


だから、始めよう。

彼女を救うために、次は自分が彼女を救うために。

今、始めようーーー……!



読んでいただきありがとうございました

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