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獣人の姫  作者: MTL2
滅国の跡
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獣人の行商人

【サウズ湖のほとり】


「……あの、この状況は何?」


気まずそうに呟くスズカゼ。

物言えず視線を逸らすデイジー。

相変わらずにこにことしている物の、何処か気まずそうなサラ。

蛇すら睨み殺すような眼光で湖を睨むファナ。

何と言う事はない、興味のなさそうな視線で木々を見るジェイド。

彼等を囲む空気は非常に悪い物で。


「何と申せば良いのか……」


「どういう状況でしょうねぇ……」


事の発端は彼女達が出発する、という事だけだった。

何、どうという事は無いごく普通の事だ。

シーシャ国へ出発するのだから出発するのは至極当然だろう。

けれど、その際に少しばかり問題があったのだ。


「獣車が不足しているんだ。仕方あるまい」


そう、通常ならば彼女達は獣車に乗って件のシーシャ国まで行くはずだった。

しかし、彼女達が出発する直前にゼルへと密勅があったのだ。

メイアの下したそれは至急ベルルーク国へ騎士団を率いて迎え、という物だった。

何でも一時同盟だの何だのという厄介ごとを持ちかけられたらしい。

今は停戦中とは言え、いつ再び大戦の火蓋が切って落とされてもおかしくはない。

それを支えているのが四天災者という個人である以上、不安定な平穏である事に変わりは無いため、一時同盟だのという条約を持ちかけるのは何ら不思議ではない。

だが、この時期であるという事が問題なのだ。

10年という年月が過ぎ去った今、それを持ちかけてきたのは何故か。

国力が安定したため? 国内の経済や政治が落ち着いたため?

否、ベルルークのような軍事国家故に考え得る可能性は一つ。

再び戦火を巻き起こすという事だ。

勿論、それは可能性でしかない。

だが、メイアはその可能性も考慮してゼル一同を出立させたのである。


「……獣車が不足しているからと言って、行商人を使用するというのはどういう事だ? しかも、獣人のだ」


行商人とは各地を渡り歩く商人の事である。

定住地を持たず移動し続ける為、移動手段として利用する者も多い。

今回、この国にも訪れていた行商人が居たため、彼等もそれを利用する事となったのだ。

尤も、獣人の行商人なのだからジェイドも居た方が何かと融通は利く。

そのせいでファナの機嫌がかなり悪くなっているのではあるが。


「……あ、来ましたよー!」


彼女の機嫌の悪さにより非常に気まずくなっている空気を吹き飛ばすように、スズカゼはそう声を張り上げた。

このサウズ湖で待ち合わせをしていた行商人が漸く来たのだ。


「いやぁ、お待たせしましタ!」


荷台を引く獣車を操作するのは褐色色の小さな耳をぴょこんと飛び出させた女性の獣人だ。

小柄な体格は立ち上がっても120センチほどしかないだろう。

その小柄な体格に似合う可愛らしい顔は現世で言うレッサーパンダを思わせる。

また、少しばかり言葉が鈍っているのは様々な国を渡り歩いているからだろうか。


「レン。久しいな」


「お久しぶりでス! ジェイドさン!!」


レンと呼ばれたその獣人は獣車から降りてジェイドへと小走りに歩み寄っていく。

その小さな体躯ではジェイドの腰元までしかなく、まるで大人と子供のようだ。


「すまないな、足に使うようなマネをして」


「いえいエ! ゼルさんにはパワルの宝石を買っていただきましたからネ! 何なら今の荷物を少しぐらいなら差し上げますヨ?」


「それは遠慮しておこう。後で料金を請求されてはこちらも払えないからな」


「そ、そんな事するはずないじゃないですカ-! やだナ-!!」


取り敢えず、スズカゼはレンの笑顔が妙に引き攣っていた事は見ないことにした。

取り繕う彼女を尻目にジェイドは荷台へと乗り込み、それにサラが続いて慌ててスズカゼとデイジーが入り、最後に舌打ちしながらファナが入る。

彼等の姿が荷台の中に消えたのを確認し、リンは大きく安堵の息をついて獣車の操縦席へと戻っていった。



【サウズ荒野】


「うーん、良い風だな!」


「うふふ。デイジーはまるで田舎娘ですわねぇ」


「だ、誰が田舎娘だァ!!」


リンの操作する獣車は凄まじい勢いでサウズ湖のほとりを走り去り、既にサウズ荒野へと来ていた。

そんな速度だから凄まじい風も来るわけで、荷台から少し顔を出せば頬を揺らすほどの風圧が来る程である。


「残りどのぐらいで着くんですか?」


「あと数日だな。やはり距離がある」


「この速度でも数日ですか……、やっぱり距離はあるんですね」


「海を越えないだけマシだろう。海を越えるとなると数日どころでは済まないぞ」


「……獣人の臭いに誘われて水獣が食いつくからな」


ファナの毒気に、ジェイドは気にすることなくそうだな、と同調した。

それがさらに彼女の不機嫌を誘ったのか、ファナは眉根を寄せて鼻を鳴らす。

獣車内部の空気がさらに気まずくなり、先程まで窓から顔を出してはしゃいでいたデイジーまで顔を引っ込める始末である。


「仲悪いですわねぇ」


「い、色々あるのだろう……」


「仲が良い方が色々と楽しいですわよ?」


「そうだな……。解ったから静かにするんだ、サラ……。これ以上、妙な波を立てるな……。余計な事は言うなよ? 絶対だぞ? 絶対だからな?」


「…………」


「…………」


「……懐が」


「深いことは良い事だなァ!!」


「あ? 何ぞや言うたかや? 巨乳か? 巨乳が良ぇんか?」


「誰か助けてくれぇえええええええ!!!」


読んでいただきありがとうございました

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