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獣人の姫  作者: MTL2
決戦・後
652/876

四天災者に抗うは

「どうした」


オロチの豪腕による拳撃は灼炎の障壁を破し、先にある者へ岩拳を放つ。

然れど届かぬ。自身より数倍細い腕により容易く掌握され、砕かれる。

力などではない。純粋なる魔力の奔流によって止められ、破砕されたのだ。


「その程度か」


続く二撃、水撃。

高水圧により刃より鋭い斬撃の嵐がイーグを襲う。

全方位から迫る透明の殺意は一雫として到ることはない。

水流は灼炎を消さず。叛して白煙となりて消え逝く。

だが、二撃。オロチとレヴィアの連撃はその男の障壁を破し、両腕を塞ぐ。

刹那にして燃え上がる。刹那にして耀き飛翔する。

紅蓮と耀剣の双斬。一切の防御なくその身に、刃、斬り込む。


「その程度かと問うているッッッッッッッッッッ!!!」


斬撃は振り切られた、が。

刃が男の身を裂くことはない。紅蓮の尾が全てを薙ぎ払うが故に。

その男は述べていた。全力を出す、と。

その上で望んでいた。未だ己の知らぬ天上を見せてみろ、と。

彼にとって本気で戦えた相手は存在しない。同様に、他の四天災者もそうだ。

彼等が戦えば大地が裂け天が割れる。例え一縷の刃を振るったとしても大陸は滅び、芽吹きは失せる。そう、ロドリス地方のように。

彼等にとって、少なくとも彼にとって力とは枷でしかない。幾億幾千の戦場を越えようと、その実力は全て驕りであり、偽りでしかない。

故に望む。この最高の場面で、自身の未だ知らぬ力を、望む。


「……まるで、悪魔じゃねぇか}


灼炎の中に、尾を揺らす。

白き牙は狂嗤に歪み、眼に灯る紅蓮は禍々しい。

その身を覆う鎧が如き灼炎でさえ、揺らめく幻想にあらず。

ただ、殺戮の権化。


「醜いな。魔に呑まれておるわ」


四肢を黒く焦がした大男、オロチは大地に降り立ちて口端を豪快に拭う。

鮮血が焦げ痕を濡らすが、そんな物を気に留めるはずもない。

眼前の魔人を前に、そんな物を。


「それすらも喰らっている。……最早、人間という種の領域ではないわ」


オロチがそれを嫌悪するように、レヴィアもまた火炎に焼け焦げた衣服で口元を覆う。

彼等の言うように、イーグは最早人間ではなかった。

その種別を何と称すべきか。悪魔か魔人か怪物か。

否、否、否。

名も無きそれには既に与えられている。嫌悪すべき、畏怖すべき、憎悪すべき名が。

四天災者ーーー……。その、名が。


「オロチと、レヴィアだったな。お前等、アイツを倒す手段、思いつくか」


「無理を言ってくれる。あんな化け物、儂では敵わん」


「でも私達ならどうにかなる、でしょ?」


「……ふん」


不機嫌そうに鼻を鳴らそうとも、オロチは否定しなかった。

この場に居るのはサウズ王国最強と呼ばれた男と大国を相手に戦い続けた少女とそれを支え続けた二人だ。

勝てるはずはない。勝算もない。勝率も完全な零だ。

だが、それでも、どうにかなると。その確信だけは、ある。


「案が、ある」


オロチはそう続け、自身の思考を述べていく。

皆は待ち構える四天災者から視線を外すことなく、それに耳を傾けた。

決して大手を振りながら称賛出来る計画ではない。むしろ、否定こそして然るべきだ。

然れど否定はしない。そこまでしなければ、抗える相手ではないから。


「良いか。誰かが四肢を喰らわれるやも知れぬ、或いは死ぬやも知れぬ。然れど止まるな。止まれば犠牲は気泡に帰すぞ」


応の言葉は出ない。視線も交わさない。

然れど、皆が頷き、覚悟を決める。

その表情に一縷として曇り無し。


「征けッッッッッッッ!!」


咆吼轟き光と焔が舞う。

音すら置き去りにする彼等に疾駆にイーグは拳を構える、が。

彼の視界が捕らえたのはゼルとスズカゼではなかった。

天を覆う、掌。曇天の中に君臨する巨掌。


天護星掌(ウァルム・アース)ッッッッ!!」


掌は雲を裂き、天へ到りて振り下ろされる。

絶対的な質力は最早それだけで狂気。大地を砕くだけでなく、大地を創るほどの、それは。


「……はっ」


僅かに、嗤う。

四天災者は僅かに、嗤った。


「やれば出来るじゃないか」


指先よりも小さな、その掌の何億分の一しかないような存在。

それを圧殺すべく振り下ろされた一撃は、最早。

何の意味もなく、燃え果て、崩れゆく。


「いいや、意味はあったッッッ!!」


燃え果て、崩れゆく瓦礫。

その最中より放たれる幾千の水弾。

一発一発が嵐の如く降り注ぎ、大地に風穴を開けていく。

その速度たるや、一発でも迎撃すれば数十発が追撃となって迫る程であり。


「燃やされる前に穿つ、か」


確かに間違ってはいない。

例えどれほど巨大な水球であろうとも、イーグの灼炎は燃やし尽くす。

ならば数、ならば速度。間違った選択肢ではない。


「だが猿知恵だな」


波紋が、裂く。

空を裂く波紋。灼炎の波紋。

放たれたそれは嵐の雨粒など容易く燃やし、オロチとレヴィアを灼炎の業火に巻き込んだ。

悲鳴を上げる暇はない。苦悶の声を上げる暇もない。

刹那にして決着は着いた、かに思われた。


「そこだァアアアアアアアアアッッッ!!」


灼炎の波紋を放った刹那。

それを狙っていた、スズカゼは刃を振り抜いた。

一分の狂いもない斬撃。全ての上に成り立った、斬撃。

然れど。


「……失望させるのか? また」


斬撃を払ったのは尾だった。

全て手の中。彼等が練った策も、何もかも。

全て四天災者、その存在の手の中に。


「……ゼルは何処だ?」


零れ落ちた一滴。

手の中から、その縁から一滴だけ、零れ落ちる。


「一撃だ}


スズカゼの髪を揺らす、風。

否、それは余波。全てを超越した斬撃による、余波。


「満足かよ、四天災者[灼炎]}


裂ける。

イーグの口端が、脇腹が。

溢れ出るは鮮血。噴き出るは嗤叫。

その四天災者は、ただ。

人に、在らず。



読んでいただきありがとうございました

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