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獣人の姫  作者: MTL2
滅国の跡
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滅国に宿る障礙

【サウズ王国】

《第三街東部・ゼル男爵邸宅》


「シーシャ国?」


「あぁ、そうだ」


ゼル邸宅の執務室には、ゼル本人とリドラ。

そして、彼等の後ろの机で資料の山に埋もれたスズカゼの姿があった。

いや、彼女が埋もれているのは正確には資料ではない。

高さ30センチはあるであろう、ジェイドから与えられた宿題の数々だ。

ここのところ、色々と忙しくて出来なかった宿題。

ジェイドはそれを免除することはなく、休んだ分はしっかりとやらせているようである。

まぁ、それもスズカゼからすれば堪った物ではないのだが。


「シーシャ国と言えば……、最近、盗賊団に襲撃されたんだっけか?」


「あぁ。そのせいで他国との輸出入ラインは全滅。国民も散り散りとなって……、滅国した」


「つっても、それも四国大戦の最中だろ? あの頃は盗賊だの追い剥ぎだが横行してたし、珍しい話じゃない。……まぁ、一国っつースケールは別にしてもよ」


「あぁ、いや。私が言っているのはそれではない。……実は、その国に最近、妙な連中が住み着いているらしくてな」


「どうせ盗賊辺りだろ? 放っとけ放っとけ」


「いや、そうもいかない」


リドラはゼルの前に地図を広げ、そこにペンで線を引いていく。

それは東のサウズ国の領地と北のスノウフ国の領地を記す物だった。

何と言う事はない、元から地図に書いてあるような物だ。

しかし、ゼルはリドラの書いたそれを見て、疲労感に染まるため息を吐き捨てる。


「スノウフ国との国境線か……」


「そういう事だ。ただでさえスズカゼの一件がある。今、あの国と問題を起こすのは非常にマズい」


「だから早急に解決しちまおう、と?」


「その通りだ。今ならばスノウフ国の領地に侵入した盗賊団共を我々が処理して置いた、という事で恩も売れる。尤も、これはあくまでオマケだがな」


「本質は早急にスノウフ国との関係性を絶つ事か……。……となると、俺達、騎士団の役目だな」


「いや、メイア女王は今回もスズカゼに赴かせるそうだ」


「はぁ!? 問題の当人をか!?」


「もう彼女がクグルフ国の一件を解決したというのは他国でも周知の事だ。その理由もある程度広まってしまっている。ならば今回の問題で下手に隠せば相手に疑問を抱かせる、と判断したのだろう」


「確かにスズカゼの症状も傍目には、それこそお前並の鑑定眼でないと異常があるようには見えねぇだろうが……」


「そういう事だ。体を慣らすにも悪くないだろう。……誰が着いていくか、は本人に選ばせると良い」


「俺はいつも通り行けないからなぁ。俺が行くなら騎士団丸ごと動かさなきゃならんし」


「ふむ、地位を持つというのも大変だな。……スズカゼ、聞いた通りだ。護衛は好きに選べば良い」


「……あの、この宿題を片付けてくれる護衛は」


「「居る訳ないだろう」」



【サウズ王国】

《第三街北部・ファナ子爵邸宅》


「……何だ、貴様等は」


明らかに不快そうな表情のファナの前には、二人の人物が居た。

一人は地面に正座してファナを見上げ、もう一人はその人物の後ろで頬杖を突きながら微笑んでいる。


「私は第三街領主の元護衛、デイジー・シャルダでございます!!」


「それは知っている。貴様等は何をしに来たのか、という事だ」


「はっ! 我々はスズカゼ殿の護衛をしておりましたが……。前回の失態から役目を解かれるのであります。元よりファナ殿の代役でしたから」


「……だから?」


「なので! これからも彼女を護衛していただくファナ殿にご挨拶を、と!!」


「……その任を解かれるというのは、命令か?」


「いえ。ですが、この次第ですと必然……」


「何日、護衛した?」


「え?」


「奴を何日護衛した、と聞いている」


デイジーは困惑しながらサラに視線を向けるが、彼女は相変わらず微笑んでいるだけだ。

ファナの質問の意図は解らないが、意味は解る。

取り敢えず答えないのは失礼だろうと、デイジーは口籠もりながら答えを出す。


「ほ、ほんの数日ですが……」


「ほんの数日程度、奴に関わったなら充分だ。解るだろうが」


「……何がでしょう?」


「あの女がその程度で貴様等の任を解くか」


吐き捨てるように言った彼女は踵を返し、家の中に入ろうとする。

だが、そんな彼女とデイジー達を呼び止める声があった。


「す、スズカゼ殿!?」


「丁度良かった! 実はお願いがあるんですけどーーー……」


スズカゼが述べたのは、シーシャ国での一件を解決するために着いてきて欲しい、との事だった。

その用件自体は別に何の驚きはない、彼女達も頷く程度だ。

だが、デイジーだけはスズカゼが依然と変わらず自分達に接してくれることに言いしれぬ驚愕を感じていた。

自分は彼女を騙していたのに、と。

どうしてこうも普通に、明るく接してくれるのか、と。


「……うふふ」


「さ、サラ?」


「いえ、予想通りだった物で、おかしくて」


「貴様、解っていたのか!?」


「だって、スズカゼさんがそんな事言うなんて想像出来ませんもの。第一、それを命ずるなら貴女が机に土下座した時に言い放ってますわ」


「そ、それはそうだろうが……」


「懐が信じられないほど深いのですわ、彼女。人として完成はしてないけれど、心としては完成してると思いますわよ」


「サラ……」


「まぁ、懐は深いというか平らなんですけれど……」


「台無しだァ!!」


読んでいただきありがとうございました

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