戦場は躍動す
【雪山岳】
「……ッ!!」
戦乱に踊る者達が皆、止まる。
ゼルは輝剣を、バルドは幾刃を、ネイクは双牙を、デモンは豪腕を。
魔力を持つ者だけではない。ただ、戦場に踊る彼等全てが感じずには居られなかった。
先程まで渦巻いていた魔力の奔流とは文字通り桁が違う。
殺気も、闘争も、何もかもが、桁違いだ。
「スズカゼ、じゃねぇな……」
「これは……、少々厄介だね」
「おいおい、楽しませてくれるねェ」
「……これは」
ネイクの踵が僅かに動く。
それを合図として四つ巴の戦況が再び動く。
彼を折ったのはデモンの豪腕。その身を屈折させるが如き衝撃。
壁面へ激突し土煙を噴き上げる中、一撃を放ち終わったデモンが着地すると共に穿たれる幾千の刃。彼は喰らうまいと跳躍するが、追随する如く輝剣がその身を襲う。
「ハッハァ! これだよ、これ!! お前等高が殺意にビビってんじゃねぇよ!! もっと楽しもうぜ!!」
「そう勝手な事を言われると困りますね、暴食者め」
「俺は[破壊者]だ。違えるなよ、仮面野郎」
デモンの破砕がバルドを襲う、が。
幾多の岩盤が抉れようとその身一つ抉れることはない。
空を舞うように回避した彼を追撃することも、また、ない。
「ッ……」
一方、デモンに弾かれたネイクはその身を蝕む苦痛、そして毒を実感していた。
この面子の中で戦えるのは単純に魔具が、首狩の双牙があるからだ。
対価は命、恩恵は力。
それでも求めた。己の生き様、使命、覚悟のために。
何故だ? 何故それを求めた?
単純な話だろう。言い訳や御託などで霞みはしない。
ただ一つ、あったからだ。
「イーグ将軍ッ!!」
ネイクは疾駆する。音より疾くして、奔る。
彼の向かう方角は言うまでもなく異様な魔力の奔流の中心だった。
「ッ!」
あの場所にはスズカゼが居る。
ただでさえ四天災者という異端が居るのだ。そこにネイクが行けば、終ぞ生きる芽さえもーーー……。
「行かせるかッ……!!」
「お前がな」
ゼルの眼前に現れたのは戦乱の獣。
これ以上楽しみを減らしてなるものか、と。
その豪腕を振り抜きて、破砕する。
幾千の刃の柄を、そして幾千の刃を。
「……どういうつもりだ、仮面野郎」
ゼルへの一撃を止めたのは他の誰でもない、バルドだった。
彼は依然として表情一つ変えることなく刃を仕舞い、次撃の為の魔力を収束させていく。
何故か、とは問わない。ただ好機であると捉う。
故にゼルはその場から離脱した。ただ対峙する破壊者と仮面だけを、残し。
「……チッ、二人も。お前じゃ不足だぜ、仮面野郎」
「まぁ、そう言わずにここでゆるりと時間を潰そうではありませんか、デモン・アグルス。序でに消えて貰うにしては、彼は惜しい。……ですが、都合が良いのですよ」
「都合? そんな物の為に俺の楽しみを奪ったのか……?」
喰らう。
魂を、戦場を、戦人を、喰らう。
その者は破壊者であり、暴食者である。
故にバルドは知っていた、その者の求める闘争の意味を。
故にバルドは知ったつもりでいた、その者の求める闘争の意味を。
「……時間潰しで死ぬのは無様だぜ」
「成る程、これは少々……、覚悟を決めますか」
【雪原】
「……ッ!」
青年は眼前の光景を見ていた。
その者、豪腕を持ち歩み来る。一縷として歪みなく。
幾度斬っただろう。もう数えていない程に、斬った。
然れど奴は一滴として鮮血を流していない。斬った刹那は流れども、それが痕を残すことはない。
驚異的な回復力故か、それともーーー……。
「思考事か? 侮られたものだ」
頭蓋貫く昇拳。顎先から脳天までを貫いた破壊は青年を天まで跳ね上げる。
空を裂き雲を裂き虚空の空まで跳ね上がったその身。体勢を立て直す暇などなく、その者は等しき領域まで到った。
「破砕のゥウウウウウウウウウウウウウウウッッッーーー……」
魔力の収束、筋肉の躍動。咆吼に等しき破砕の輻輳。
シンの脳髄から降りてくる伝令は、如何なる飾りも持たずしてその言葉を全身へ伝えた。
ーーー……ヤバい、と。
「アッッムズゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッッッ!!!」
刹那、シンは自身の裂傷全てを無視して眼前へ魔剣を傾けた。
腕は裂け骨肉は砕けども、傾けた。そうしなければ、死ぬから。
「が」
時が止まったようにすら思える。
魔剣の刀身より伝わる振動が指先から腕骨、肩へ響き。
拳の一撃が沈み、刃を超えて臓腑に衝突、臓腑を揺らす。
やがて震動は破砕となりて臓腑が潰れ、鼻口腔から血が噴出。
重力という理さえも威力とした一撃は振り下ろされ、やがて。
大地に破砕を、刻む。
「黄昏の劫刻」
破砕の刹那、衝撃が岩盤を跳ね上げた直後。
全ては止まる。一切の鮮血さえ流れず、誰も物を言うことはなく。
衝撃と躍動に苛まれていた世界は、ただ、刹那の中に世界を構築する。
「……む?」
豪腕は降り散らばる瓦礫の中、岩盤しか砕かぬ拳に眉根を顰める。
確実に捕らえたはずだ。その身を破砕の中へ掌握し切ったはずだ。
だと言うのに何故、居ない?
「無事ですか、シン君」
その男はそこに居た。
瓦礫の中、亀裂を伝う海水の上に、シンを支えながら立っていた。
己の戦友に任せたはずの、その男が。
「貴様……、[操刻師]!!」
「……ここからは僕達が相手です。オートバーン・ビーカウン」
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