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獣人の姫  作者: MTL2
決戦・後
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輝剣と幾刃と風弾と

「おぉォォオオオオオオオァッッッッッ!!}


輝剣が天を裂き、破壊の一槌を崩す。

一撃必殺のそれを回避しつつ、バルドとネイクは弾乱する瓦礫の中を疾駆。

天に跳ね上げられたそれを足場として跳躍し、光輝を纏いし者へ幾千の槍と双対の弾丸を撃つ。


「邪魔だァッッ!!}


だが、その程度が光輝を纏いし者を殺せるはずもなく。

腕の一振りのみで破壊され、殴り散らされる。

無論、バルドとネイクもそれを理解している。故に、次の一手を放つ。


風駆(ヴィーラン)六式(シクト)」」


ネイクの足場であった瓦礫が、砕け、散る。

疾駆の衝撃に耐えきれず微塵も残らず果てたのだ。

それに比例するが如くの疾さ。牙と、弾丸と、刃。


「ッ……!?」


まず始めに異変を感じたのはバルドだった。

刹那の後にゼルもまた、異変に気付く。

彼等の視界に映ったのは弾丸だった。故にそれを弾いた、が。


「何っ……!}


腕を、斬られていた。

弾丸を弾き逃しただとか瓦礫の破片で切られただとか、そんな物ではない。

弾く動作を取らなければ腕ごと取られていたであろう軌道。そして、自身の背後で幾千の亀裂と共に弾け飛ぶ岩盤。


「……外しましたか。中々に難しい」


かちり、と彼は眼鏡の位置を直す。

ネイクの頬端は自身の加速により瓦礫で切れ、衣服でこそ見えないが、手足には幾つもの痣が出来ていた。

一発一発が必殺に等しい威力を放つ攻撃。しかし、それは正しく捨て身の一撃。


「隙だらけだ」


しかし、必然。

威力の高い一撃は多大な隙を生む。

無論、迎撃や状態も然りだ。捨て身の一撃を放ったネイク、体力及び魔力消耗の激しい状態であるゼルも然り。

故に、気付かなかった。

自身の足下より、亀裂を伝う雫が如く忍び寄る、魔力に。


「出でよ、刃」


棘、と。そう例えるべきだ。

植物の産毛のように数える事は出来ぬ程の、幾千の棘。

それ等はゼルとネイクという、棘の量に比べれば砂粒程度でしかない物達を、貫通すべく。


「……舐めるなよ}


だが、不可能。

ゼルの身を貫くはずの刃は氷が如く解け、消える。

ネイクの身を貫くはずの刃は確かに存在していた、が。

それ等が彼を貫く事はなく、ただ、その切っ先を牙の切っ先と合わせるばかり。


「やはり容易くはいかないね」


彼等はそれを切っ掛けとして再び距離を取る。

三者三様に構え、距離を。然れど等しく揺らがぬ殺気を持って。

彼等は知っていた。互いが決して相容れぬ事を。

彼等は理解していた。今、ここで退かねば必ず皆が死ぬだろう、と。

実力は決して均等ではない。この集団の中で言えばゼルが頭一つか二つは抜きん出ている。

然れどネイクの覚悟、そしてバルドの経験。

ゼルの実力との狭間を埋めるに到る物ではない。

ではない、が。埋めている。無理矢理にでも、彼等は。


「…………}


「ふぅ」


「これは、少し……」


彼等は理解していた、ここで退かねば死ぬという事を。

然れど、退けない。退けるはずなどない。

彼等は背負っている。例えそれが不鮮明な物で、あったとしても。


「……風駆ヴィーラン


動いたのはネイク。

彼の殺気と疾音、その双方は同時に放たれた。

ゼルとバルドが視線、否、意識を向けた刹那。

バルドの眼前に、双対の銃口。


十三式サテート


撥ねる。顔面が、跳ね上がる。

バルドの両眼を穿つ一撃。故、撥ねる。

身体ごと後方へ倒れ込む彼に対し、ネイクは一切の暇無き弾丸を叩き込んだ。

射撃射撃射撃射撃射撃射撃射撃射撃射撃射撃、迎撃。


「ッ……!」


迎撃の隙を生んだのは彼の刹那に等しい停止だった。

過剰挙動、及び魔力放出による破壊。身体の細胞全てが悲鳴を上げるのを無視し、動き続けた故の対価。

彼の潜在能力以上を引き出した魔具、首狩の双牙(シオ・ファング)が与えし恩恵と、対価。


「やれやれ」


バルドの眼は抉れてなどいない。

彼の皮膚、紙一枚の厚さとない隙間に召喚された幾枚もの刃による防御が為に。

全て防ぎ、ネイクの隙を突いて一撃を叩き込んだのだ。


「危ないことをしてくれる」


ネイクの脇腹に突き刺さった、一本の槍。

臓腑にこそ到っていないのは、奇跡的にも骨で止まったからだ。

然れど、それが一撃で止まるはずなどなく。敵の存命を赦すはずもない。


「何処見てやがる}


無論、ゼルが見逃すはずとて、ない。

彼はバルドの後方よりネイクごと貫くべく輝剣を撃つ。

然れどそれが放たれることはない。

否、正しくはバルドへ、と言うべきだ。その一撃は放たれ山峰を砕いた。

ただしゼルより遙か離れたその場所にて。


「ーーー……ッッッ!!」


再び彼等を散開させたのはネイクの一撃だった。

風撃纏いし弾丸は瓦礫の中を斬る、斬ったのだ。

ゼルの一撃のように穿つのではない。バルドの一撃のように貫いた訳でもない。

斬った。白雪積もる大地を、斬ったのだ。


「何て一撃だよ、おい……!}


「捨て身だけはある」


彼等は再び散開し、迫り上がった岩盤、砕け残った山峰の欠片、焼け焦げた木々の上へと降り立った。

それらの距離は均等ではない。負傷も等しくはない。

然れど未だ彼等の殺意は衰えず、戦意は折れず。


「……ケハッ」


故に気付かない。故に気付けない。故に気付くべきではない。

ただ闘争を求むばかりの獣が迫っている事を。狂乱に魅入られた獣が、乱入してくる事など。


「楽しそうな事してんじゃねェェェエエエエエかァアアアアアッッ!!!」


三つ巴の、中心。

荒れ果て、岩盤が剥き出しとなって乱れた大地。

そこに強大な、余りに強大な杭を撃ち込むが如く、その者は現れる。

轟音、破砕、崩壊。そして、狂喜。


「なァ!! テメェ等ぁあああッッッ!!」


その獣、デモン・アグルスは。



読んでいただきありがとうございました

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