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獣人の姫  作者: MTL2
決戦・後
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闇に呑まれし白面


【雪原】


「な、何だアレは……」


デイジーはその光景に絶句せざるを得なかった。

魔力を大して持たぬ自分でも解る。眼前で起こるその光景の禍々しさが。

黒き兜のデュー、そして白き面の男。

対峙した彼等の様は余りに禍々しい。双方が有す、その魔力故に。


「デイジー……、今は団長への伝達を優先しましょう。あの人は先へ向かいましたわ」


その禍々しさに気圧されるデイジーの背を押したのはサラだった。

確かに眼前のそれは禍々しく、恐ろしいだろう。

けれど、それに気圧されてはいけない。自分達の成すべき事は未だ残っているのだから、と。


「……そうだな」


デイジーは震える脚に芯を入れ、強く雪地を踏み潰す。

揺らぐな。弱者の強さを無くしてはいけない。

心に決めたのだろう。弱者は弱者の強さを持つ、と。

ならば震えるな。奔れ、奔れ、奔れ。

伝えるのだ。スズカゼ殿を助けて欲しい、と。

伝えなければ、無くしてしまうから。


{……行ったみたいだね}


黒兜は首無し馬の身を籠手で撫でる。

滑らかな毛並み、闇のように沈む馬身。

静かに、漆黒の鋼鉄が、その指先が、撫でる。


「……態と、見逃したのか」


{彼女のように何の力も資格も持たない存在が、時として何かを動かす事もある}


雪が、散った。

白面の男、道化師の疾駆は風を超える。

紫透明の結界による加速ーーー……、そして攻撃。


{君も変わったね。三年で何があったんだい?}


無言。答える事はない。

頭骨、鳩尾、太股。紫透明の結界を利用した三連撃。

然れどその一つとしてデューに届く事はない。漆黒の大剣による、防御故に。


「…………」


結界が、曲がる。

大剣の狭間を縫うように、甲冑の隙間から這いずる様に。

その様は正しく蛇。デューのように闇が如きへどろとはまた違った、禍々しさ。


{随分と細部の操作が出来るみたいだね}


だが、それは漆黒の籠手によって容易く砕き割られた。

当然だろう。先程[蛇]と形容したように、その速度は余りにノロマ。

獲物を前にして疾駆すら出来ぬそれが、どうして喰らえよう。


{もう少し速さがあれば脅威だよ}


闇が、蠢く。

漆黒の甲冑が背より這いずるが如く、闇が。


「…………」


道化師は瞬く間に闇へ呑まれ、白銀の中に黒を濁す。

周囲の雪景色は消え失せ闇に食い尽くされた。上下左右すら解らなくなる程の漆黒。闇の世界。

だが、彼は迂闊に動かない。四肢一つすら、動かさない。


「……」


闇自体は幻惑ーーー……、殺傷能力はないだろう。

だが、あの男がこんな子供騙しのような幻影だけを見せるとは思えない。

ならば、何がある? ならば、何とする?


「……来い」


道化師の周囲に幾十もの結界が出現する。

全方位防御の為、或いは全方位攻撃の為の布石。

例えこの目眩ましの何処から攻撃しようとも、必ず防ぐ。


「ッ!」


直後、闇夜より這い出た巨大な刃が眼前より迫る。

彼は狙い通りそれを結界を用いて防御、束縛。

そこから流れるように闇の中にある本体を攻撃、するはずだった。


「が、ぁっ……!!」


首、胴、腰、脚。

各部を貫く幾百の刃。

一切として逃れぬ隙間なき程に、闇より、這い出る。


{君がこの程度で死なないのは知ってるさ}


闇に浮かぶは黒の焔。

融け込むような世界に、焔が見える。

流れ出る鮮血の紅を喰らうかのような、焔。


{緩やかに、行こうじゃないか}



【雪山岳】


「……何だ、これは}


その光景が見たゼルはただ絶句するばかりだった。

眼前の広がるそれを何と形容すれば良い。陥没? 崩壊? 雪崩?

いいや、違う。そんな物ではない。これは、正しく灼炎。

燃え盛る炎が大地を食らいつくし、大陸一角を切り取ったかのように象っている。

後方の白銀、前方の紅蓮。まるで幻想のようにすら思える、景色。


「成る程、化け物と称すには未だ足りないね」


そんな彼の隣に降り立ったのは、仮面。

一縷として変わらぬ表情のまま、嗤っている。

然れどそこに殺意はない。他の感情も、ない。

ただ嗤う。仮面が如く、嗤っているだけ。


「……まだ、邪魔をするのか}


「せざるを得ないね。私には私の役目がある」


仮面、バルドの手に槍が携えられる。

光輝を纏うゼルもそれに呼応するが如く、剣を構えた。

一触即発。彼等が刃を交わすのに必要なのは合図のみ。

例え小石一つ転がったとしても合図と成り得る程の、緊迫。


「漸く」


彼等の緊迫は斬撃となりて解き放たれる。

然れどその斬撃が交差する事はなく、緊迫を破ったのは小石ではない。

斬撃が弾いたのは、緊迫を破ったのは弾丸。

双対の牙より放たれた、弾丸。


「会えましたね」


光輝纏う者と笑嗤の仮面の間に降り立ったのは、双対の牙を持つ者だった。

ただ現れただけであれば、彼等とて違和感を感じる事は無かっただろう。

その者の身体に刻まれた紋様さえ、無ければ。


「……何だ、それは}


「何、限界リミッターを解除しましたのでね。少々寿命が縮んでいるんですよ」


刹那、ゼルとバルドの身体が跳ね上がる。

回避と受撃。それ等が重なった故に、数十の距離を跳ね飛んだのだ。

ただの弾丸ではない。魔力に魔力を加重付与した弾丸。

一発で人体を砕くに余りある威力を放つに違い無く、その速度は最早意識外へ到っていた。


「三つ巴、か}


「成る程、これはこれは……」


彼等は対峙する。

白銀を、或いは紅蓮を背にして、対峙する。

光輝、仮面、双牙。

三つ巴として、彼等はーーー……、殺意の元に。


読んでいただきありがとうございました

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