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獣人の姫  作者: MTL2
決戦・後
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幾千の刃と光の刃

【雪原】


その姿を何と形容すべきだろうか。

鬼? 否。それ程に偶像たり得はしない。

光? 否。それ程に優柔たる物ではない。

怪物? 否。それ程に幻影たる者ではない。

バルドは思想する、思い出す。この男が四大国の中で名を馳せた男であった事を。

サウズ王国最強の男ーーー……、四天災者[魔創]ことメイアウス女王が居なければの男(・・)等という要らぬ言葉は付かなかったであろう、男。

彼の強さの要因は何か。

魔法石を組み込んだ超技術の賜である義手? そんな物なら苦労しない。

長年の戦闘と経験で培った超人的な身体能力? そんな物なら苦戦しない。

如何なる逆境にも負けない異常なまでの精神力? そんな物なら苦行しない。

この男の強さーーー……。それは道具、身体、精神、全てを超絶的に収めるその魂。そして、彼自身という存在だ。

余りに圧倒的。自分などが敵うはずもない存在。

だが、故に。それ故に、戦う。この男ならば、と。あのお方の目論見通りに。


「其所だ」


ゼルの足甲を貫いたのは白銀の槍だった。

地面に、真っ白な地面に忍んだ刃。それは高速で視界の移動する戦闘中に目視出来る物ではない。

無論、事前に仕込んでいたにせよ武器召喚を用いてその場に誘導したにせよ、一撃必殺の場でそれを意識して戦うなど、相当な精神力を用いるのだがーーー……、今まで大国を騙してきた男にとっては造作もない事なのだろう。


「それがどうした」


だが、だ。

憤怒に駆られた怪物を、果たしてそれだけで止められようか。

答えは否。高が脚に風穴を開けられ革靴から鮮血が吹き出しているだけだ。

見ようによっては踏み込みがより強靱に固定されたとさえ言える。

そう見るほどに、今の彼は、戦人であった。


「去ね」


バルドの鳩尾に叩き込まれる全力の拳撃。

魔力放出、踏み込み、義手の強度による三重加速(ブースト)

臓腑を潰す? そんな甘ったるい物ではない。

刹那、砕ける。バルドの後方にあった山が、容易く、積雪が如く。


「ーーー……ッ!!」


衝撃はない。その身に痛みは無かった。

確信がある。その身に痛みは無かった。


「……危ないね」


ゼルの肩口を貫く、刃。

それは今し方鳩尾ごと半身を吹き飛ばしたはずの男から放たれていた物だった。

否、吹っ飛ばしてなどいない。その男の腹部から下半身に掛けて傷一つなどありはしない。

武器召喚ーーー……、それは一部とは言え次空を操る魔法。

故に、透過させた。自身の身体の後方へ、全ての衝撃を、透過させたのだ。


「私のような弱者に本気を出すものじゃないよ、ゼル。尤もそれを要求したのは私なのだけれどーーー……」


刃が翻され、傷を広げる。

苦痛はゼルの表情を僅かながらに歪め、その仮面の笑みを映えさせた。

いいや、幻覚だ。その笑みは変わっていない。

戦い始めてから、一度として変わっちゃいない。


「……何故だ」


故に、解らない。

どうしてこの男の表情は一度も変わらない?

変わるはずだ、変わらなければならないはずだ。


「何故、メイアウス女王を裏切った……!!」


ゼルの口から出たのはその者の名前だった。

国名でも四天災者でもなく、ただ一人の女性。

バルドと自分に手を差し伸べーーー……、例えその裏に隠す気もない貪欲なまでの国への思いを持っていようとも、救ってくれたその人物の名を。


「繰り返すようだけれど」


仮面は笑う。

一度として、その表情を変えず。


「裏切るは語弊だよ、ゼル」


私は、と。

僅かにそう続けた時、漸く仮面が歪んだ。

歪むように、嗤った。


「見捨てただけさ」


肩に突き刺さる刃が爆ぜる。

骨肉を捨て去った煌輝の身体に刃など喰らうはずもなく。

煌鉄の剣帝(アウロン・エイゼルデ)ーーー……、殺戮殲滅の徒に、喰らうはずなど。


「漸く使ったね。それを」


刹那と称すには余りに疾かった。

バルドの視界に、或いは聴覚に情報は届かない。

気付いた時にはもう、彼の視界は白銀に覆われていた。

殴られたのか蹴られたのか、斬られたのか。

いいや、それ以前に未だ自分は生きているのか、どうか。


「っ……」


身体は動かない。痛みもない。

だが意識はあるーーー……、どうやら生きているには生きているようだ。

尤も、この状態から動くには少々辛い物があるのだが。


「全く……、手荒な」


再び視界が暗転し、青色を映す。

彼は気付いた。自身の体が浮遊していることに。

視界が白ではなく、青色に染まっていることに。

その身が雲とを突き破り、天高く舞い上がっていることに。


「冗談にしても笑えないね」


直後、理の元に彼の身体は急速に落下していく。

息が出来ない。平衡感覚が保てない。体制の立て直しが出来ない。

いや、違う。それ以前にーーー……、遙か下方で構える、その男が。


「地獄で償ってこい、バルド・ローゼフォン}


義手に装填されていたのは剣だった。

いや、纏装と言うべきかーーー……、どちらにせよ剣である事に違いはない。

天より墜ちる自身へ向けられた、一本の剣。

必殺の、剣。


封緘せし(セル)ッ……!」


「遅い}


世界の果てが、穿たれる。

天へ轟く光の一閃。回避、防御、共に不可能。

絶対的な一撃だった。決して、回避など出来ぬーーー……、一撃。

故に。


「あぁ、全く。危なっかしい」


迎撃なら、出来る。


「頼みますよ、バルドさん。僕だって暇じゃないんだから」


「えぇ、申し訳ない。ーーー……助かりましたよ。デュー君」



読んでいただきありがとうございました

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