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獣人の姫  作者: MTL2
決戦・前
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激昂と憤怒

「おぉおおおおぁああアアアアアアアアッッ!!!」


「はぁあああああァアアアアアアアアアッッ!!」


踵落としが岩盤を跳ね上げ、ファナの身体もまた空を舞う。

そして反転した彼女の腕より放たれる魔術大砲。

ヨーラはそれを頭一つ分で回避し、大砲の軌道を縫うように跳躍。

未だ空を舞うファナの顔面へ脚撃を叩き込み、そして。


「ちィッッ!!」


魔術大砲の出力が極度に上昇しファナの身体を弾く。

それは回避であると同時に捨て身に近しい移動。

地面に叩き付けられた彼女を待つのは、兵士達による銃弾の嵐だった。


白炎の盾(シェオ・フォーファ)ッッ!!」


自身の身を覆う白炎。弾は燃え、溶ける。

同時にその華奢な体を劈く衝撃をも喰らい尽くす。

喰らい、尽くそうとも。


崩脚撃(シヴロー・ザ・レコラ)ァアッッ!!」


その上より絶える事無く振り下ろされる崩撃の墜槌。

弾丸さえ溶かす白き炎の盾だろうと、その墜槌は容易く突き破る。

その元に転ぶ、身さえも突き破るのだ。

否、盾や身だけでなく、さらにその下。大地であろうとも水面のように、容易く。


「させるかぁあああああああああッッッッ!!!」


墜槌を迎撃したのは魔術大砲だった。

然れど、盾を展開しながら放つそれに如何ほどの威力があろうか。

確かに一度はその加速を殺した。然れど競るようにして迫り来るそれを止める事は出来ない。


「ぐ、ぅっ……!!」


周囲からは銃弾の嵐。頭上からは崩壊の脚撃。

彼女の全身が悲鳴を上げ、精神は死を覚悟する。

肉体が砕けそうだ。肉は萎え骨は軋み臓腑は揺るがされる。

魔力さえも、このままでは消耗し切るのを待つだけだろう。


「ッ……!」


啖呵を切り、敵の兵士共を殺してやったのは所詮挑発だ。

そして今は望み通り敵は全て自分に向かって来ている。

これで良い。奴等を先に行かせる事こそ自分の役目だったから。

役目は果たした。敵を引き付け、奴等を先行させられた。

だから、もう良い。この局面で両の手を下げ、この女に裁かれるのも、また一つ。

一つ、だが。


「ぁぁああああああああああああああああッッッッッッッッ!!!」


ケジメはまだ、付けていない。


「ッ……、かっ……!?」


僅か。

それこそ拳一つ分にさえ満たぬほど、僅か。

然れど、それは確かに押し返していた。

ヨーラの魔方陣を背負って強化された一撃を、押し返していたのだ。


「狂ったのであればッッ!!」


叫ぶ。

寡黙な少女らしからぬ、腹底を押し出すかのような絶叫。

彼女の眼光は確かに眼前の女性を見ていた。

自身が放つ一撃でも、それと激突する脚撃でもなく。

狂ってしまった、と。狂っていた、と。そう嘆いていた女性の瞳を。


「道に戻る事もなくッ! 己の現状を嘆くばかりで如何ともしないのならッッ!!」


じり、と。

彼女の絶叫に呼応するが如く、脚撃は、じりじりと。


「そのまま死ねッ!! ヨーラ・クッドンラァアアアアアアーーーーーーッッ!!!」


タガ(・・)が、外れた。

崩壊の脚撃ごと、その主ごと焼き尽くすほどの魔力の奔流。

全てが直接腕へ流れ込みーーー……、ヨーラを穿ったのだ。


「ぁがっ……」


憤怒。端的に言えばそれだけの事だろう。

自身の置かれた状況に抗わぬヨーラの姿が、ファナにとってはどうしようもなく被って見えたのだ。

何も出来ず、ただ泣くしかなかった自分の姿に。

両親を強盗に殺され、業火の中で囀るしか無かった自分に。

故の同族嫌悪。故の、憤怒。


「ーーー……はぁッ」


極大の魔術大砲を放ち終わった彼女は、全身から火炎と黒炎を放ちながら墜ちていく彼女に視線をくれるよりも前に、大きく息をついた。

通常の数十倍近い魔術大砲だ。それに比例しただけの魔力も放出しただろう。

一度に放つには、余りに強大すぎる。それこそ自身の身体を蝕む程にーーー……。


「……あ?」


それは正しく対価だった。

自身に勝る実力を持つヨーラを退けた、対価。

彼女の一撃を退けるには魔力を集中させるしかなかった。

それこそ、張っている盾から刹那ほど意識を逸らしてでも、だ。


「しまっ……」


脇腹の刺さるような激痛。それに混ざるが如く聞こえる兵士達の叫び声。

それは自分に弾丸が命中した事を喜ぶ声ではなく、地面に崩れ落ちた上官に駆け付ける為の悲鳴に近い声だった。

彼等とて仲間同士なのだ。血が通い肉が付き骨が立ち臓腑の躍動する、人間なのだ。

当然、仲間同士の絆がある。仲間を想う心がある。

人として、共にあろうという感情があるーーー……。


「……馬鹿馬鹿、しい」


溢れ出る鮮血を掌で無理やり押さえつけながら、ファナは再び盾を展開した。

何が感情だ。それを利用して激昂させたのは自分だろう。

捨てろ、慈悲など。奴等は敵だ。自身の国を滅ぼそうとする敵だ。

殺せ、たった今殺したように、殺すのだ。

そうしなければならない。それが、自分の生きる意味だ。


「……何て目ェしてんだい」


誰に向けた言葉だったのだろう。それは解るはずなどない。

だが、確かなことが一つ。決して変わることのない、確かな事が一つだけある。

それはたった今撃墜したはずの女がーーー……、生きて居たという事だ。


読んでいただきありがとうございました

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