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獣人の姫  作者: MTL2
決戦・前
584/876

その暗闇に広がる物は

《王城・廊下》


「流石は南国だな。資源が豊富だ」


「遠慮せずに肉を食えるっつーのはまるで夢みたいだ。凄ぇよな」


何と言う事はない雑談を交わしながら過ぎ去っていく兵士達。

彼等の隣を、具合が悪いのか腹を押さえた別の兵士が歩いて行く。

彼等は大丈夫かと声を掛けたが、その兵士は言葉の代わりに手で合図するばかり。

見れば顔こそ帽子で隠れているが、酷い脂汗だ。恐らく南国の豊富な食料に目が眩んで喰っては拙い物まで喰ってしまったのだろう。


「城門近くで医療班が待機してるぜ。エイラ中尉は居ないけどな」


「あの人が居ないと医療班のトコに行く気が起きないよな」


「天使だしな、あの人。辛い訓練もあの人が傷を治してくれるから頑張れるんだしよぉ」


「だよな。俺はあの人に胸があれば嬉しいなって」


「ばっか、お前。あの人はあの美しいおっぱいだから良いんだろ」


「はぁん!? お前巨乳に勝るモンがあると思ってんのか!?」


「美乳だろ、美乳!」


ぎゃあぎゃあと下らない言い争いをしている二人は置いておいて、だ。

ここで遭遇するのは計算の内である。しかし、まさかこんな下らない言い争いに巻き込まれるとは思わなかった。

胸は大きい方が良いに決まってるだろう、と。韋駄天はそう思案しながらただ冷や汗をだらだらと垂らす。


「あ、引き留めて悪かったな。取り敢えず医療班のトコ行ってこい。大事な任務も控えてんだしよ」


「……悪、い。大、総統に連絡、しね、ぇと」


「ひっでぇ声だな。風邪か?」


「まぁ、な……」


よろよろと頼りない足取りで歩いて行く兵士、基、韋駄天。

兵士達はそんな彼の後ろ姿を見送りながら、不安そうに首を傾げるばかりだった。

それもやがて前へ向き直して、廊下を曲がっていく。


「……死ぬかと、思った」


さて、どうして彼がベルルーク国軍兵士の恰好をしているかというと、だ。

これも潜入するための前準備と称したスモークの提案故の事である。

因みに兵士の衣服はスモークがくびり殺した兵士から奪ってきた。


「……さて、と」


スモークの述べた計画はこうだ。

先ずこの恰好のまま調子の悪い振りをして城内を歩き回る。

それである程度の情報を集めたら脱出、と。単純な作戦だ。

ただし最も気を付けるべき事は兵士との遭遇だ。

一度目は先のように体調不良で誤魔化せる。二度目は今から行くと誤魔化せる。

ただし三回目、或いは兵士の顔を覚えている司令官並の者達であれば、遭遇した時点で詰むのは確実なのだが。


「ある程度情報は集められたか……?」


今のところ、調べられたのは大凡の兵量ばかり。

たったそれだけだ。尤も、それだけだから怖い。

考えてみればおかしいのだ。今、北国では既に戦乱が起こっている。

だと言うのに、この国の兵士達は肉がどうだ酒がどうだ海がどうだ、と。

そんな事しか話していない。


「東に攻め入るんじゃなかったのか……?」


攻め入るのであれば既に兵士達は上から下への大騒ぎのはず。

しかし、彼等は余りにのんびりぐーたらとし過ぎている。

ならば、何だ? どうして彼等はこんなにも穏やかなのだろう。

彼等は東に攻め入るつもりはない? この国を拠点としているのか?

司令塔にするつもりだというのなら、それも有り得るだろう。

だが、そうだとしても無駄すぎる。サウズ王国をどう攻めるつもりだ? まさかスノウフ国を攻める兵士をそのまま行かせるつもりか?


「冗談だろ、幾ら何でも無謀すぎる……」


スノウフ国には四天災者も居る。それを攻めた後の兵士を使って行かせるなど有り得ない。

攻め終わってから行かせる、と? 馬鹿な、それはサウズ王国が石のように動かないと仮定した場合の話だ。

もしそのまま迎撃されれば、簡単に瓦解する作戦ではないか。


「おいおい、何を考えてやがんだ……?」


物の見事にサウズ王国の、さらに言えば騎士団長達の目論見は外れている事になる。

彼等の予想としては北のスノウフ国に攻め入ったベルルーク国軍、そして南国のシャガル王国を侵略したベルルーク国軍が途中で合流、或いはサウズ王国にて合流し一気に攻めるという目算だった。

しかし実際はどうだ。南国のシャガル王国を侵略したベルルーク国軍はここに根を張ると言わんばかりに滞在しているではないか。


「……いや、待てよ。まさか」


そう考えれば辻褄は合う。いや、それどころか全ての話が通る。

兵量など関係ない。時間も、計画も何もかも、関係などない。

全ての話が、一点で終う。


「おいおいおいおい、これじゃぁ、もう……!」


「そう、意味はない」


こつり、と。

韋駄天の隠れる倉庫に差し込む光と音。

そして、鬱陶しいほどに舞い込む白煙。


「けれど君の行いは我々の計画を壊してしまうかも知れないんだ」


こつり、こつり、こつり。

その足音は幾つにも増えて、白煙は暗闇の中を満たし。

同時に、殺気は暗闇の中に充満して。


「誰かは知らないし、興味もない。けれどね、君のように忍び込まれて情報を流されてはとても困る」


「……バボック、大総統」


「だから、うん。まぁ、何だ。……ここで死んでくれないかな?」



読んでいただきありがとうございました

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