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獣人の姫  作者: MTL2
西国にて鐘は鳴る
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西の出迎え


《A地区・正門》


「……それで、本当に走ってきたんですか」


「別に問題はなかった」


「途中でゼルさんが毒蠍に尻刺されたぐらいですよね」


「お前等がそれを見捨てて行こうとしたから一人で手当てすることになったぐらいだな」


「と言うわけで大して問題は無かったさね」


「いや、何かがおかしい」


スズカゼ一行を出迎えたのは整然と並んだ兵士一同及び、その中心で姿勢を正すネイクだった。

本来であれば、まぁ、もっと軍隊らしい出迎えをしたのだが、流石に大量の荷物を抱えた一行が平然と走ってきたのでは流石に動揺せざるを得ないワケで。


「ま、まぁ、取り敢えずD地区まで向かいましょう。応接室であれば荷物も置けますから」


「あぁ、序でに水浴びもさせてくれ。体中砂だらけだ」


「勿論です。では、皆さんこちらへ」


ネイクに引き連れられ、スズカゼ達は兵士の道を歩んでいく。

左右に無言で並ぶ兵士達は完全武装しており、その引き締まった空気は彼等の中に多少であれど緊迫の空気を産む。

尤も、それを感じ取るのは精々ファナぐらいで、他の図太い面々は平気な顔をして歩むばかりなのだが。



《C地区・軍訓練場》


「……ん?」


ゼルはふと、違和感を覚える。

前回来た時は兵士達の鍛錬による騒音が溢れていた、C地区の軍訓練場。

そこにはまるで何かを落としたかのように、静寂しかなかったのだ。

誰一人として姿はなく、何一つとして騒音はない。

誰も居ない閑散とした空間が、地平線まで広がるようなーーー……、静寂。


「兵士は、居ないのか」


「先の出迎えのためですよ。それだけではなく、今はスズカゼ伯爵達が来訪中ですし」


「前は訓練してただろうに」


「あの時は四大国条約締結前でしたからね。まぁ、多少は変わったという事です」


「……だと、良いがな」


「バボック大総統の事ですか?」


無言の返答は頷き。

ネイクは自身の内にある、用意された答えを述べた。

既に問われるであろうと理解していたが故の、用意された答えを。


「あの方は変わりません。恐らく、世界が引っ繰り返っても」


「だろうな」


解っている。あの男が、変わる訳などないことを。

終ぞ目の前に迫るあの男の言葉を前に、自分はどうすべきなのだろう。

或いはスズカゼ一人で行かせるのも手だろう。自分が居れば、あの男は何の遠慮も無くすだろうから。


「イーグ将軍は、何処に?」


「あの方は裏手の砂漠に居ます。考え事があるとかで」


「……奴が居れば多少は抑えが効くと思ったんだがな」


「今はロクドウ大佐が居ますし、そう吹っ飛んだ事は言いませんよ」


「ロクドウが?」


「えぇ、ゼルさんに会いたがっていました」


「俺は会いたくねぇな。あんなイカレ野郎」


「イカレ野郎ですか。立場上同意は出来ませんが、否定はしません」


「だよな」


何と言う事のない言葉を交わしながら、彼等はC地区を抜けていく。

誰も居ない閑散とした空間に響くは彼等の足音と言葉のみ。

故に、気付かない。ゼルは、気付かなかった。

いいや、ゼルだけではない。スズカゼもファナも、ヨーラもネイクも。

誰一人として気付かない。

自分達を見定める眼が、静寂の中で蠢いていることに。



《D地区・軍本部・廊下》


「……ネイク」


「いえ、私は彼女に味方します」


彼等はさらに進んでD地区の軍本部、の門前。

そこから先に通さないと言わんばかりに手を広げる女性を前にスズカゼ達はどうにも立ち往生するしかなかった。

立ちはだかるのはエイラ。真面目な表情でこの先一歩も入れぬと言う覚悟を瞳に宿している。

当然と言えば当然かも知れない。軍医としてこの軍の清潔を請け負う身からすれば、今の砂だらけな彼等は正しく天敵。不潔の権化だ。


「取り敢えず水を浴びてください! 砂を落として! 汗や砂にはバイ菌がいっぱいなんですよ!!」


「お久し振りです、エイラさん」


「あ、スズカゼさん。お元気でしたか?」


「えぇ、お陰様で。……それで申し訳ないんですが、実は体の洗い方が解らなくて。やっぱりこういった事は軍医の方に手取り足取り胸取り股取り教えて欲しいんです」


「そうですね、体の洗い方にも色々ありま……、胸取り股取り?」


「スズカゼ・クレハ? 何なら私が教えるけども」


「ヨーラさん手ェ出そうとすると脚でヘッドロック掛けてくるじゃないですかヤダー」


それはそれで気持ち良いんですけどね、と付け足したスズカゼにファナは割と本気で身震いを、ゼルは最早諦めに満ちた遠い目を見せる。

兎も角、彼女の言う通り砂だらけ汗だらけのこの身で大総統と面会するワケにはいかない。まず水浴びなり何なりして身体の汚れを落とさねばならないだろう。


「でしたら、ここの離れに浴場がありますのでそちらでどうぞ。男風呂女風呂別れてますよ」


「別れてなきゃ使わな……、近くに井戸とかある?」


「えぇ、まぁ」


「じゃ、スズカゼはそこで良いだろ」


「ちょっと待って扱い酷くないですか?」


「この国まで荷獣車で来た時点で予測しろよ」


ブツブツと文句を言いつつも、一行は浴場へ移動することになる。

その際、ヨーラが浴場でスズカゼが欲情しないよう私が見張るわと言い張り、皆の顔が真顔になったのは言うまでもない。

序でに本人も数秒後に気付き、真顔になった事も付け足しておこう。



読んでいただきありがとうございました

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