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獣人の姫  作者: MTL2
西国にて鐘は鳴る
556/876

砂漠へと辿り着きて


【ベルルーク砂漠】


「…………」


サウズ王国より出発して数週間。

途中の村で滞在して様々な物資を補給、及び休憩、及びスズカゼが女性を追いかけ回すという問題を起こしたりしたので少し遅れたが、まぁ、予定の範疇である。

問題点はこの砂漠超えだがーーー……、ヨーラという心強い仲間が居るはず、なのだが。


「走れば良いさね」


「……いや、ですからね?」


「走れば問題ないのよ?」


様々な野生生物が居る砂漠を走って越えるなど危険極まりない。

それに方向性の解らない砂漠だ。無闇に突っ込めば方向性が解らず遭難は必須。

また、水や食料だって置いて行くワケにはいかない。獣車の操縦者もここで引き返すとは思っていなかったため、かなり困惑している始末だ。


「ヨーラ、流石にここを走って抜けるのは無理だ。いや、俺達なら大丈夫だが荷物だってあるし、大総統に会う前に服を汚すワケにはいかねぇだろ。ここは獣車を使った方が良い」


「けど、砂漠を越えるには専用の獣車が要るさね。それに操縦者だって慣れてなきゃ柔砂の沼に嵌まっちまうよ?」


「そ、そりゃそうだが……」


「ちょいと走れば良いのさ。数日掛かるモンでもないし」


これでは堂々巡りになってしまう。

近場の獣車を雇う手段もなくはないが、契約や荷物の移しなど行っていると予定日数を超えてしまう。そもそも、使用できる獣車があるかどうかも問題だ。

獣車の操縦者だけ雇いたい所だが、それは彼等にとって無礼極まる行為である。


「……まぁ、ここで議論しても仕方ないですよ。荷物ぐらいでしたら私が持ちますし、走りませんか」


「いや、そもそも前の村でお前が女を追いかけ回して補導された所為で日数が押してんだけどな?」


「ありゃ仕方無かった。褐色おっぱいとか反則でしょう」


「お前の脳味噌ほど反則じゃねぇよ」


ぎゃあぎゃあと言い合う彼等だが、結局はヨーラの提案通り荷物は背負って運ぶことに。

総重量100kgは軽く超える物資の数々だが、スズカゼ、ゼル、ヨーラが分割すればあら不思議。片手で運べるお手軽荷物に。


「ファナは持たないのかい?」


「コイツの移動方法は火炎を纏っての移動だからな。燃えるだろ」


「萌えますね」


「発音がおかしい」


兎も角、彼等は呆然とする獣車の操縦者を置いて、走っての砂漠超えを決行することに。

かなり無謀だが、彼等の移動速度と体力を持ってすれば不可能ではないだろう。

ここから数日間に渡る野生生物との激闘やオアシスという誘惑を振り払う大激闘砂漠超え物語が始まるのだがーーー……、それはまた別のお話である。



【ベルルーク国】

《D地区・軍本部・大総統執務室》


「大総統、サウズ王国第三街領主スズカゼ伯爵一行をヤムが発見しました」


姿勢を正し、キッチリと整えられた衣服を身に纏う男性。

彼の言葉に初老の男は顎髭を摩りながら僅かに口端を落とす。

待ち侘びた品を受け取る老父が如く、僅かに。


「漸くだね、ネイク」


「はい、漸くですね」


「いやぁ、待ちくたびれた。何も我が国を最後にしなく立って良いじゃないか。ねぇ?」


「……まぁ、理由は解らなくもありませんが」


「ん? 理由って?」


「いえ、別に」


バボックは首を傾げつつ、高価な皮椅子の背もたれに大きく腰を沈め込んだ。

ゆったりと息を吐いて体の力を抜きつつ、目の前にある大仰な箱へ手を伸ばす。

今にも落ちそうな指が掴んだのは一本の葉巻だった。

見事な焦げ色と螺旋の巻かれた、一目で高級品と解る品。

彼はそれを口先に加えて先を毟り、火を灯す。


「…………うん、美味い」


「煙草を味わうのも結構ですが、兵士にはもう通達するので?」


「あぁ、出迎えの準備を滞らせないように。女の子もしっかり用意してあげてね」


「解りました。女性兵士は下がらせましょう」


「……前からだけど、君って時々辛辣じゃない?」


「常識的なだけですよ」


ネイクは手元の資料にペン先を走らせ、次々と何かを書き込んでいく。

どうやらそれは予定表らしく、スズカゼ達の歓迎についてびっしりと書き込まれていた。

やがてそれも記入し終わったのか、彼は踵を返してバボック大総統へ背を向ける。


「……あぁ、そうだ。ロクドウ大佐はどうしますか?」


「彼はゼル・デビットと気が合いそうだね。ゼルは彼に対応させると良い」


「了解しました。では、イーグ将軍はどうする御積もりで?」


「スズカゼ・クレハで良いじゃないのかな? 積もる話もあるだろうし」


「あるかどうかは知りませんが……。まぁ、了解しました」


資料を抱えて出て行く部下の背中から視線を外し、バボックは軽く椅子を回転させた。

手元にある煙草の先より零れる灰粉。自身の吐息に連れ去られ、それは虚空の中へと消えていく。

彼の中にあるそれ(・・)もまた、灰粉のように、虚空へと。


「……さて、と」


用意したるは幾枚かの資料。

この世界の、きっと自分含め数えられるほどの人間しか知らないであろう事実。

門外不出どころではない。こうして資料に纏めることすら、本来は禁じられている事実。

然れど、自分はこうして資料に纏めた。ここにない情報も頭の中に入っている。

これで充分だ。あの少女に存在を知らしめるには。

四天災者という、その異常性をーーー……。



読んでいただきありがとうございました

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