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獣人の姫  作者: MTL2
西国にて鐘は鳴る
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団長と西の使者と


《第三街西部・食事処[獣椎]》


「……何だかんだ言って、私が一番長く居たのかね」


「そうなるな」


ファナの来訪にて西への旅路を話し合って数日後。

第三街の食事処、獣椎にてゼルとヨーラはボレー酒を片手間に話し合っていた。

何と言うか、枯れた中年同士の話にすら見える。まぁ、実際は老衰した若人二人の話なので内面的な意味では間違っていないのだが。


「ピクノもモミジも帰ったから、最後の方は一人でねぇ。楽しみと言えばサウズ王国騎士団を鍛えることばかりで……」


「王城守護の方は貴族共がうるさいからな。ただ、育てるのは良いが何でお前が団長とか呼ばれてんだ?」


「何でだろうね。普段はこういう育成ってのはオートバーンの仕事なんだけどさ」


「ひっ」


「……あの大男の仕事なんだけどさ。あの男はアレでも割と育成は上手いし、純粋な実力は私よりも高いさね。あんな性癖だけれども、性格としては人望もある。だからまぁ、任せてんのさ」


「アレでか」


「アレでよ」


ボレー酒の泡沫が弾け、ゼルの頬に水滴を飛ばす。

彼は親指でそれを拭き取りつつ、目の前で獣椎の店主が作るフェイフェイ豚の焼き肉の香ばしい薫りに鼻先を掻く。

思えば彼女との付き合いはそれ程長くない。他の面々に比べれば騎士団のこともあって、色々と話会う機会は多かったのだが。

それでも、まぁ、決して仲が良いというワケではないだろう。

こうして話し合っているのも、ヨーラの誘い無くしては有り得なかった事だ。


「アンタ、どう思う?」


「あん? 何が?」


「この国の体制についてさ。他国の人間が聞くことでもないけどさ」


「……体制、か」


端的に言えば、この国の順序は単純である。

頂点であるメイアウス女王、その下に大臣などの重職貴族が付き、さらに下には一般的な貴族及び王城守護部隊、そして一般市民及び騎士団、最下層には獣人と犯罪者、と。

非常に単純な物ではある。ある、が。ヨーラが言っているのはそこではないはずだ。


「四天災者が統治者という事か」


「……まぁ、そうさね」


四天災者は人間ではない。無論、認識上の話ではあるが。

彼等の絶対的な力は嘗ての四国大戦を冷戦状態に持ち込み、やがて終結させた。

それ程の力が、彼等にはある。人類全ての力を終結しようと至れないほどの、力が。


「お前の所と、ベルルークとスノウフは四天災者を戦力として見ている。将軍と聖堂騎士団長……。国家から見れば例え死んでも構わない、戦力という位置だ」


「そうだね」


「だが、この国はメイアウス女王を統治者として、女王として置いている。彼女が死ねば国は死ぬ。嘗てメイアウス女王は言った。私が国だ、と」


「例えでも何でもなく、その通りさね」


「……で? 何で急にこんな事を言い出したんだ?」


「スズカゼ・クレハさ。一応、第三街の統治者だろう」


「形だけのな。まぁ、お前の言いたい事は解るけどよ」


「どう思うかしら? あの子とメイアウス女王の共通点」


メイアウスとスズカゼの共通点。

強大な力を持ちつつ、誰かを率いる立場であるということ。

そして、それが決して替えの効かない立場であること。

メイアウスとスズカゼの異なる点。

それは、メイアウスとスズカゼが率いている物の、違い。


「何も、思わない」


「……そう。羨ましいわね、この国は」


「何?」


ボレー酒の器に指を這わせ、自身の眉間にドレッドヘアーを滑らせた。

何処か艶やかな彼女のその仕草を視界に収めながら、微かに視線を逸らす。


「人員だけじゃないのさ。こう言っちゃ何だけども、この国は余りに贅沢過ぎるわ。魔力さえあれば起動する素晴らしい設備の数々、強固な城壁を持って段階的に区切られた国、豊富な資源と温暖な気候……」


「まぁ、砂漠とアルカーっつー化け物に囲まれたベルルークからすりゃ、宝石箱に見えるかもな。だが、人員はそっちだって豊富だろう。四天災者[灼炎]は当然として、性格はアレだが政治者及び戦略者としては最高峰の部類に入るバボック大総統、知識や国政に富んだロクドウとネイク、そしてお前もそうだ、ヨーラ。……、まぁ、あのチビは仕方無いけどさ」


「オートバーンは?」


「知らないそんな人知らない」


「あ、う、うん、そうさね」


凄まじく震えるゼルを隣に、ヨーラはボレー酒の器に指を掛けた。

そしてただ一言、ため息混じりと言うよりは、ため息を吐くように。


「……まぁ、生まれる国が違えばとも思った、ただの愚痴さ」


女らしからぬ一気飲み。そして豪快な吐息。

ゼルはその隣でちびちびとボレー酒を煽り、つまみであるフェイフェイ豚の焼き肉を待つ。

余りに老衰。内面は五十に到るのではないかと思うほどに枯れている。

年相応ならもっと騒ぐ物ではないかと獣椎の主人は内心思うのだが、まぁ、あの人物達にそれを求むのも無理があるのではと思う。


「あ、パリコ草の渋々漬けよろしく」


パリコ草の渋々漬けは老人に人気の胃に優しい料理である。

年相応ならもっと肉を喰うのではと思うのだがーーー……。まぁ、噂に聞く彼の胃疲れには相応しいのかも知れない。

取り敢えず、フェイフェイ豚の焼き肉から油を減らしておこうと思う。



読んでいただきありがとうございました

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