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獣人の姫  作者: MTL2
御礼崩壊
537/876

彼等の決着は黒に沈む


【ギルド本部】

《南部・広場》


「……こんな、事が」


「……ッ!」


彼等は、対峙していた。

オクス・バーム。三武陣(トライアーツ)の一人にして両腕に義手を持つ獣人。

本来、獣人の持つ反射神経や身体能力に合わせて、師匠が作った凄まじい能力を持つ義手を装備している。

彼女の戦闘力は一国の軍隊を相手にしようと、一つの大山を相手取ろうと引けを取ることはない。

フー・ルーカス。オクス同様、風の魔術を操る三武陣(トライアーツ)の一人。

奇っ怪な口調の彼女だが、風で不可視とした大鎌を操る彼女の戦闘力と攻撃力は非常に高い。

武器が見えないという点、風の補助による高速移動が出来ると言う点。

この二つが彼女にとって、最も優れていると言えるだろう。


「……あぁ」


だが、しかしだ。

今回は相手が悪すぎたと言える。

大赤翼(ビーレヴィ)ーーー……。総合力で言えば三武陣(トライアーツ)と同等の実力を誇る彼等。

この場に居ないグラーシャを除いたとしても、それは三武陣(トライアーツ)も同様だろう。

いや、彼等にとっての差は頭脳役の持つ戦闘力の差だ。

その点で言えば既に三武陣(トライアーツ)と差を付けている。

また、彼等個人でさえ、それを凌駕する要因を持つのだ。


「そうだね」


ハーゲン・ティール。大赤翼(ビーレヴィ)の一人にして音速の魔法を持つ男。

その仰々しい見た目に等しく、戦闘力も非常に高い。

彼の鉄壁すら凌駕する防御力は本人の技術に合わせて音という衝撃を操る魔法により、完全な物となる。

例えオクスの全力とて、彼によれば防ぐことも可能だっただろう。

正しく音速の盾。それを穿つなど、選りすぐりの強者でさえ難しい。

フォッカ・ロルルー。ハーゲンと同じ大赤翼(ビーレヴィ)の一人。

獣人特有の身体能力を極限まで鍛え、攻撃力防御力移動力全てを高水準に保つ、戦闘兵器に等しい存在。

オクスと撃ち合ったとしても耐えうる強靱な肉体は、ただそれだけで鎧となる。

裸一貫で一軍隊の中に放り込まれたとて、彼は無傷で生き残るだろう。

その身に返り血を浴び、周囲を屍で覆い尽くして、だ。


「……どういう、つもりだ」


彼等は対峙していた。

数多に広がる瓦礫の中で、静寂を嘔吐する硝煙の中で。

その眼光を交わらせながら、対峙していた。


「デュー・ラハンッ……!!」


繰り返そう。彼等は対峙していた。

白銀の双義手を構えるオクスと、見えざる鎌を持つフー。

そして黒眼鏡を落とし、禿頭を照らすハーゲンと業火が如き鱗を猛らせるフォッカ。

彼等は対峙していたのだ。オクスとフー、そして。

首だけとなったハーゲンとフォッカは。


「……どういうつもりか、と?」


黒兜は立っていた。

ハーゲンとフォッカの中首を片手に持つ、彼は。


「敵を倒しただけですよ」


一瞬だった。

全力で隻腕に力を溜めるフォッカと対峙していたオクスとフー。

彼等の視界を覆ったのは他でもない、デュー・ラハンだった。

デューはここに来るまでに重傷を負っている。それは、オクスやフーも知っているし、フォッカもハーゲンも知っていた。

だが、フォッカが手を抜くことはなかった。例え立ちはだかった黒兜の男が全身に傷を負っていようとも。

一目で見れば直ぐに解るほど重傷を負っていようとも。


「えぇ、俺は」


そして、フォッカは。

刹那にしてその首と胴体を離すことになったのだ。


「敵を倒しただけです」


それに最も速く反応したのはハーゲンだった。

だが、デューの背後に重なっていたオクスとフーが急いで顔を出したその時には、もう。

デューの手に二つの生首が持たれていたのだ。


「フォッカは片腕を失っていた……、その上、拳撃の体勢に入っていたから貴様の攻撃を防げずとも仕方はない。だが、ハーゲンは違う。奴は万全に等しい状態だった。フォッカを相手取った直後に、奴の攻撃を退けられるはずがない!」


「そうですね、避けられなかった。いや、何より驚いたのは首を撥ねたと言うのにフォッカさんが一撃を放ってきた事ですがーーー……」


彼の鎧には手には微かな焦げ痕があった。

本当に微かな、焚き火に手を翳して火の粉を受けたのかと思うほどの。

焦げ痕とさえ形容出来ないほどに、小さな。


「貴様……、本当にデュー・ラハン、か?」


「えぇ、勿論です。これが(・・・)本当の俺です」


オクスとフーはただ言葉を失う。

彼の手に持たれている生首の体は既に喰われ果てた。

闇の底へと、喰われ果てた。


「出来れば……、えぇ、望むことが出来るのであれば」


兜に顔は隠れようと、声色は隠れない。

彼はどうしようもなく悲しそうな声と共に、その手元にある生首を静かに地へと置いた。

生首は沼地に沈むような速度で、ゆっくりと、闇の中へ消えていく。


「彼等を殺したくはなかった……」


どぷん、と。

ほんの小さな後悔を巻き上げて、闇は消え去る。

三武陣(トライアーツ)大赤翼(ビーレヴィ)冥霊(ハデスト)

ギルド主力の、多くのパーティー。

彼等は幼少の頃、この地でギルドという組織に育てられた。

戦争で国から溢れた者達で作られた組織で、戦争孤児がそんな人生を歩むのは当然だったのかも知れない。

当然だったから、こんな結末は迎えたくなかった。


「……行きましょう」


何処で道を違えたのかは知らない。

それでも、なお。

デューの表情は、兜に隠れたままだった。



読んでいただきありがとうございました

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