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獣人の姫  作者: MTL2
御礼崩壊
534/876

獣と鎌と禿と赤と


「さて、と。マジな話をしよう」


ハーゲンは自身の頭を撫でつつ、白手袋で汗を拭き取った。

彼の言葉通り、それは一時的な停戦の合図。

特に何かを言うでもなく、フォッカはそれに従って隻腕となった自身の腕を懐へと収め込む。

無くなった方の腕を手当てする為にそこから包帯を取り出し、縛り出したのをオクスとフーが止めるはずもない。

一時停戦中故に、今は体力を回復させることが出来るし、何よりハーゲンの話を聞く必要があるからだ。


「さっきもフォッカが言ったが、俺達の戦いは不も……、無意味だ。実際、この戦いの目的はサウズ王国第三街領主スズカゼ・クレハとギルド統括長ヴォルグだ。お前達じゃない」


「だが、我々はスズカゼ殿に恩がある。それを見逃すことなど出来ん」


「んじゃ、スズカゼ外そうぜ。もう別に良いだろ? 連中はうるせぇが」


「貴様等の背後にある組織か」


「それと有象無象の奴等な。やっぱりスズカゼに怨みを持ってる奴は多いらしい。どうにも殺せ殺せとうるせぇが、所詮は俺達に頼らないと何も出来ない馬鹿共だからな。放っておけばそれで良い」


「成る程、貴様等は中間管理と言ったところか。裏の組織と下々の連中の取り次ぎ。天下の大赤翼(ビーレヴィ)も大変だな」


「あぁ、ホントにな。だが、グラーシャの望みもあんだよ。アイツは親父との仲は最悪だったがギルド主力にして補佐派の副長的役として動いていた[魔老爵(アジェロン)]のヴォーサゴ老は尊敬していた。だからこそ、な」


魔老爵(アジェロン)殿を倒したのはスズカゼ嬢ではなく四天災者だと聞いているが」


「災害に恨み辛み吐く奴は居ても、復讐しようとする奴は居ない。それを発動させた奴が居るのなら、まぁ、恨み辛みの矛先は向くだろうよ」


「馬鹿馬鹿しい」


「馬鹿馬鹿しくなんてないさ。アレは災害だ。どうしようもなく、な。認識が違う」


今一度、ハーゲンは自身の頭皮を拭う。

その次に黒眼鏡の表面を手袋で拭いつつ、息をついた。

交渉決裂。会話の結果が如何なる物であれ、それだけは間違いない。

自分達と三武陣(トライアーツ)が戦えばどちらかが死ぬのは明白だ。だからこそ、戦いたくなかった。

嘗て戦争孤児としてこのギルドに拾われた自分達だからこそ。


「溢れ者だよなぁ、何処までも」


「……何がだ?」


「こっちの話さ……。フォッカ! 始めるぞ!!」


「おうよ」


片腕を結び終わったフォッカは再び構えつつ、燃え盛るような甲殻を軋ませる。

めきり、と。甲殻全てが逆立ち刃が如く天を刺す。

例え片腕であろうとも、その脅威を認識するには余りに充分であり。

オクスとフーの全身が警戒音に覆い尽くされ、一瞬で眼光を細めるのは必然。


「俺ァよぉ、オクス。同じ獣人でもお前みたく機械仕込みの腕なんざ持ってねぇし、闇月のように技もねェ。あるのは、ただ」


振り抜かれる豪腕。

オクスとフーを分断するかのように放たれたその一撃は、決して届かない。

元より十数メートル離れた位置だ。互いの声がどうにか届くという、その位置。

だが、二人は回避した。全力で左右に退避した。せざるを得なかった。

高が空圧。高が風圧。高が衝圧。空気や音の振動により放たれた、本来であれば産毛を揺らす程度の一撃。

然れど全力を出したフォッカによる一撃はーーー……。

ギルドの主力として数えられる大赤翼(ビーレヴィ)が一人、フォッカ・ロルルー。

その一撃は、そう。

高が空圧、高が風圧、高が衝圧であれども、二人の間を貫通し、建築物数百棟を抉り砕くには充分過ぎる。


「……流石だな」


「褒める言葉は要らねぇよ。両腕がありゃもっとマシな一撃撃てたんだがな」


「片腕を切り落としておいて良かったと思うんだが、どうだろう」


「お前アレだからな。この戦い終わったら義手の請求書ぶん投げるからな」


「全力で断りたいのだが、どうだろう」


「赦すかよ」


腕は引かれ、脇腹へと巻き込まれる。

隻腕の正拳突きだ。先のように有象無象な力任せの一撃ではない。

フォッカは言った。自分はオクスのような機械仕込みの腕は持ってないし、闇月のような技は持っていない、と。

だが、そうではないのだ。

彼にはある。ギルド主力の一員として戦えるだけの力が。

獣人として存在すべきである、本能が。


「……フー、防げるか?」


「無理だ。この一撃は、無理だと思うが、どうだろう」


本能は呼び覚ます。

獣が持つべき技を。自身の力を最も効率的に、最大限に放出する術を。

彼の構えは、ただ。片腕を失った生物としての危機感が呼び覚ました、一撃。


「私が弾く。代用品で何処まで凌げるか解らないがーーー……、無駄に回避して直撃されるよりマシだ」


「了解。補助したいのだが、どうだろう」


「頼む」


彼女達は構え、対峙する。

ハーゲンが手を出す様子はない。それが慈悲なのか傲慢なのか、或いは覚悟なのか。

それは解らないが、今、オクスとフーからすれば好都合以外の何物でもない。

故に、覚悟を決める。

今から放たれるであろう、先の一撃よりも遙かに強力な一撃に大して。


「さぁ、始めるぜ。この一撃ーーー……、受けてみろ」



読んでいただきありがとうございました

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