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獣人の姫  作者: MTL2
御礼崩壊
521/876

人選と書いて生贄と読む

【サウズ王国】

《第三街東部・ゼル男爵邸宅》


「てなワケなんでギルド本部行ってきます」


「おま……、急に……、お前……」


急な報告にゼルは顔を覆い尽くし、酷く肩を落としていた。

先のシャガル王国での一件に加え、謝罪中のスズカゼがギルドへ招待されたという事実。

何がどうしてこんな事になっているのかと考えるが、やはりその答えが出るはずもなく。


「私は別に構わないさね。距離的にも考えてギルドの方が近いだろう?」


「悪い……、ヨーラ。ベルルークにコイツを行かせるのはまだ先になりそうだ」


「この国の居心地の良さも解ってきたしね。まだ軍隊も未熟な奴が居るし、悪くない」


「軍隊じゃなくて騎士団……」


「いやぁ、ありがとうございます、ヨーラさん。出来るだけ直ぐ帰って来ますんで」


「急がなくて良いさね。どうせウチの大総統はそんな事考えちゃいないしね」


「ははは……」


兎も角、と。

ゼル曰く、メイアウス女王に許可を取ってくるが、返答は間違いなくさっさと行ってさっさと帰ってこいになる、とのこと。

なのでさっさと行ってさっさと帰って来い、だとか。


「どうせ謝罪じゃなく礼だしな。適当に受けて速攻帰ってこい。妙な事に首突っ込まず帰ってこい」


「そんな私が行けば必ず騒ぎが起こるみたいな言い方しなくても」


「起こるだろ、必ず」


「起こるさね」


即刻の返答。次に顔を覆ったのはスズカゼだった。

彼女のそんな様子を見ながら、ゼルとヨーラは大きくため息をつく。

口では面倒事を起こすなと言って居るが間違いなく起きるのだろう、と。

間違いなく起こすのだろう、と。


「あ、それで聞きたいんですけど。人を連れて行きたいんですよ」


「こっちも流石にお前単独で行けとは言えねぇよ」


「どうも。んで、連れて行きたい人選(イケニエ)なんですけども」


「今何か別の意味で聞こえなかったか?」


「気のせいじゃないかね」


取り敢えず、スズカゼは連れて行く生贄、基、人選を発表する。

特に問題ないとのことでゼルから許可が下りると、彼女は一度流湯(シャワー)を浴びてメイドの食事を食べ、邸宅から出て行った。

その間、実に十数分。ゼルとヨーラが騎士団の新たな訓練項目を考えている内にさっさと終わってしまったのである。


「あの子は台風みたいだわ」


「台風は途中で減速するし消滅もする。ありゃ暴風か爆薬だ」


「悲惨さね」


「全くだな……」



《第二街南部・旅館》


「と言うわけですね!」


「ヤダ」


「嫌です」


「拒否権はない。もう一度言いましょう、拒否権はない」


暴風か爆薬ことスズカゼが訪れたのは第二街の旅館、即ちメタルとデューの元だった。

ある程度ツテのある者、いっそのこと生け贄。成る程、条件にはしっかり合っている。

元よりギルドの一員であり主力にも数えられるデューならばツテは充分だ。さらにメタル、彼はまず死なないし、まぁ、生贄としては充分だろう。


「嫌だよ! お前と行ったら絶対巻き込まれるじゃん!!」


「ですよねぇ。あ、メタル。それクイーン攻撃力六千です」


「させるか。ルークとポーンで防御力一万!」


「あちゃー」


「訳解らないチェスで遊ぶより余程有意義ですよ」


「訳解らない言うなし」


「そうですよ、ちゃんと規則ルールだって決めてですねぇ」


「ギルドに行くまでの旅費は払うし向こうで食事だって奢るのに……」


「行くか、デュー」


「ですね。偶には顔を出さないと」


彼等はそそくさとチェス盤を片付け、旅の準備を行い始める。

この連中を釣るには飯を用意すれば良いと確信した所で、さて、後一人ほど誘いたい。

この二人は確かに色々な意味で頼りになるが、出来ればこちら側で口の立つ人物ーーー……。

そう、出来れば、こう、公私共に有能な人物ーーー……。


「ハドリーさんは……、まだ怪我してるし、メイドさんも……、万全じゃないし……」


となれば、だ。

後一人、思い当たり人物が居る。


「久々に、お願いしようかなぁ」


「スズカゼー! 用意出来たぁ!!」


「出来ましたよ! 久々に月光白兎でお酒が飲める!!」


「アンタ等は本当に食うことばっかだな……」



《第三街南部・小さな家》


「で、私の所に来た訳か」


「いや、そうでしたけど帰ります。ってか帰らせて」


第三街南部にある、ジェイドが対峙しているその家。

スズカゼはそこを訪れ、彼をギルドへ誘うつもりだったのだがーーー……。


「ハドリーさんの手当してあげてください。私は別に良いんで」


「いや、そう言うな。ハドリーも既に安定している。私なら別に」


「手当してあげてくださいよぉおおおおお!! 看病してあげてぇええええええ!!」


「まぁまぁ、そう言うな。では準備してこよう」


手際よく始末を終わらせ、残されるのは呆然と立ち尽くすスズカゼと何とも言えない微笑みを浮かべているハドリー。

少女はベッドで白い柔布に覆われた女性に視線を向けて、静かに微笑んでから

膝を突いて頭を突いて手を着いた、見事な土下座を見せた。


「マジでスイマセン」


「そ、そんな、顔を上げてください」


「いやマジで。本当に」


「わ、私なら大丈夫ですから……。あれ? 涙が……」


「ホントごめんなさぃぃいいいいいいいいいいいい!!」


その後、スズカゼの一発がジェイドの腹部に叩き込まれたのは言うまでもない。

そして彼がその理由を理解出来なかったのもまた、言うまでもない事だろう。



読んでいただきありがとうございました

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