閑話[貧困街のその後]
《貧困街・奥地》
「あ、あのお嬢ちゃんが……?」
「ボスが先代の……」
「……信じられねぇ」
デッドの述べた事実に、貧困街の者達はただ驚愕の色を表すしか無かった。
彼等からすれば先代は悪の化身だ。その息子であれば、シャークやモミジ同様、憎悪の対象になるだろう。
だが、部下達からすればデッドは頼れるボスだ。自分達を支えてきてくれたボスだ。嫌悪する対象には、ならない。
「お前達には黙っていて悪かったと思ってる。あの悪しき血が流れてることは、俺と妹のツバメからしても恥なんだ」
彼は、デッドは、先代の息子である事を述べても先代の思惑は述べなかった。
先代について知るのは王族と極一部の者だけで良い。あの男は悪の化身、愚王で良い。
奴は、それを望んだのだから。
「……ボス、俺ぁアンタのお陰で今まで生きてこれた。いいや、俺達は今まで生きて来れたんだ」
「確かに先代のせいで俺達はこんなトコで籠もることになっちまったけどよ。それとアンタは別だ」
「け、けどよぉ、それだと現国王もその妹も赦すことになるぜ?」
「それで良いんじゃねぇか? 先代の一族って事で恨んでたけどよ、考えてみりゃアイツ等だってこの国の為に動いてんじゃねぇか。俺の連れは海岸でシャーク国王にサーフィン勝負挑まれたって言ってたぞ」
「何やってんだあの国王」
部下達がシャークやモミジの認識について話し合う様子を、デッドはただ無言のまま見詰めていた。
時は、変わったのだ。もう前のように嫌悪し合う仲である必要は無くなった。
今は周囲に合わせているだけの連中も居るだろう。だが、そういう者もいつかは心を変える。
時間は掛かるだろう。一週間、一ヶ月、一年ーーー……。もしかすれば自分が生きている内ではないかも知れない。
それでも歩み寄ろうとすれば、いつかは互いに触れ合える。いつかはそれに賛同してくれる奴が出て来る。
それで良い。それを待つ。
自分はただ待つだけの人間ではないし、アイツもただ待つだけの人間では無くなったのだから。
「……ククッ」
変わる。この国は、変わる。
大国などと呼ばれようと、それは所詮外部からの言葉。
内部から英雄だ愚王だと呼ばれるのは変わらずとも、必ず、変わるのだ。
この国は、そう。
何の変哲も無い変遷を辿って、絆を得た国へとーーー……。
「あれ? でもそれを考えるとあのツバメちゃんって子、獣耳じゃね?」
「だよなぁ。今思い出すとかなり可愛かったような……」
「あ、俺ちょっとあの子のこと好きかも」
部下達の話題は国のことから段々とツバメの事へと変わっていく。
果てにはモミジカワイイとかシャーク兄貴カッコイイとか。
いやいやボスの方がとかどうやったらツバメちゃんと結婚できるかなとか。
皆が好き勝手に散々言う中、デッドは静かに立ち上がって、一言。
「手ェ出したら殺すぞ」
「「「そんな、お義兄さん!!」」」
その後、貧困街奥地で巨銃が乱射され、幾千の被害者を出した事は言うまでもない。
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