閑話[誰も居ない砂浜で]
【シャガル海】
《海岸線》
「夏だ! 海だ!! 南国だぁ!!」
水着姿のスズカゼは空に大きく手を伸ばしながら、貸し切り同然の海岸線で歓喜の喜びを叫ぶ。
全ての一件が終わって、漸くお望みの海水浴が出来るのだ。
待ちに待ちかねた水着と言うこともあって彼女のテンションは最高潮である。
「何で誰も居らんねんやァッッッッ!!」
ただし、彼女一人である。
「モミジさんは忙しいし、キツネビさんとタヌキバさんは隊長、基、スモークさんの手当があるし、デイジーさんとサラさんとツバメちゃんは逃げるし……」
モミジさんの引き締まった胸とお尻を撫でたかった。
キツネビさんとタヌキバさんのおっぱいに胸を埋めたかった。
デイジーとサラの巨大おっぱいを舐め回したかった。
ツバメちゃんのカワイイお尻を弄くり倒したかった。
「くそっ……! 何が悲しくて一人で海水浴なんかッ……」
そもそも海水浴など言ってしまえば合法的に女性の下着を視姦出来る行事ではないか。
他に誰か海水浴に訪れている人が居れば話は違っただろう。
だがどうだ? 先日の騒ぎのせいで外周している者は全く居ない。延々と続く美しき海の前に立ち尽くすのは自分ただ一人だ。
「もういっそのこと王城に戻って皆ぁ攫ってくっかァ……?」
「何を物騒なこと言ってんだ、お前は」
スズカゼの隣で呆れ返った声を上げたのはシャークだった。
彼の手にはしっかりとサーフィンボードが握られており、服装など今から何をするのか語るに充分なものだ。
「また仕事サボって来たんですか」
「馬鹿言え、今回は公認だ。仕事を一段落させたからモミジが許可出してくれたんだ」
「野郎が来てもなぁー! 女の子じゃなけりゃなぁー!!」
「お前ホントどんな精神状態してんだよ……」
「……女の子、だけだ。女の子を弄る権利は私にはないし、私が弄られる権利は女の子にはない。私にあるのは、女の子とイチャラブチュッチュする権利だけだっ!!」
「お前黙れよ。割と本気で」
下らないやり取りを経てシャークは波立つ海へ歩もうと砂を蹴った。
しかし、何かを思いついたのか足を止め、ボードを砂浜に刺してその場に座す。
何事かと首を捻りつつも、スズカゼは彼と同じく日に焼けた砂浜へ腰を下ろす。
「……色々あって言い忘れてたが、お前、今は各国を回ってるんだろう?」
「えぇ、謝罪のために」
「スノウフ国にはもう行ったそうだから、残るはベルルークか……。寄りによってあの国か……」
「まぁ、うん。言いたい事は解ります。私だって色々あったし、シャークさんだって四大国会議の時にボロクソ言ってましたもんね」
「そういうこった。言うまでもねぇがあの国は気を付けろ。バボックは言うまでもねぇが、もう一人あの国には異常人が居る」
「オートバーンさん?」
「噂には聞いてるがそいつじゃねぇ。ロクドウだ」
「……誰です? それ」
「ロクドウ・ラガンノット。大戦中じゃサウズ王国最強の男ゼル、スノウフ国精霊の巫女ラッカル、ベルルーク国封殺の狂鬼ロクドウと恐れられたモンだぜ」
「シャガル王国は?」
「言うなよ悲しくなるだろ」
「あ、はい。すいません……」
「兎も角、ロクドウには気を付けろ。あの男については話しか聞いてねぇんだが……」
「どんな人なんですか?」
「任務のためには全てを投げ捨てる、まるで機械のような男だそうだ」
「機械……」
機械、と。
今までそう言った人物は余り見た事が無い。
精々、ギルドのヌエというお尻が引き締まって胸が良い感じに少しだけ膨らんだミステリアスな女性ぐらいだろうか。
大抵が飄々としていたり生真面目だったり、人間性ある人物達ばかりである。
「で? 何でそんな人の話を?」
「……いや、気を付けろって話でな」
「気を付けろ、って……。あれ? そう言えば心配されたのって久し振りな気が」
「普段の行動が悪いんだよ、普段の行動が。俺だってツバメとモミジの一件が無けりゃ心配なんざしねぇっつーの」
「だったら普通にお礼言ったら良いじゃないですかぁ」
「それに託けて二人をくださいとか言うだろ?」
「当たり前でしょう」
「コイツに借りを作った方が馬鹿だな……。いや、それって俺じゃねぇか……」
シャークは顔を抱えつつ、サーフィンボードを胸に抱く。
今考えれば自分はとんでもない小娘に借りを作ったのでは無いか、と。
下手をすれば今回の騒ぎ以上の時に借りを返さなければならないハメになるのではないか、と。
考えれば考えるほど不安になり、遂には胃が痛み出す始末だ。
「……取り敢えずサーフィンしてくるわ」
「時間大丈夫ですかね? もうそこそこ経っちゃいましたけど」
「え? あ」
その後、王城に戻ってきたのは。
泣き叫びながらサーフィンボードにしがみついた国王と、それを引っ張ってくる他国の伯爵だったんだとか。
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