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獣人の姫  作者: MTL2
南の大国
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国王と王女と

《王城・王座謁見の間》


「兄さんッ!!」


「うるせぇ、国王と呼べ、国王と」


慌てて王座謁見の間へ入ってきたモミジを迎えたのは、宴会の後で二日酔いなのかと思うほどぐったりと王座に腰を沈めるシャークと、彼の隣に姿勢良く立つ隊長の姿だった。

見た所、外傷はない。それどころかいつもの兄の姿だ。

その事に安堵の息をつきたいが、今はそれ所ではない。


「狙撃されたって……!」


「スズカゼが守ってくれたよ。来ることと方向さえ解ってりゃ俺でも逸らせるさ」


「そういう問題じゃありません! 今すぐに城の周囲を……!!」


「やめとけ、無駄だろ。犯人だって解ってる」


「や、やっぱり……」


命知らず(デッド・アウト)のクソ野郎だ」


シャークの顔は酷く歪む。

憎悪ではなく、嫌悪に。


「俺は暫く隊長を付けて……、なぁ、この名前呼びにくくない?」


「失礼ながら、儂はもう名前を捨てましてのう」


「じゃぁ、何だ。スモークで良い。お前は今日からスモークだ」


「御意」


「で、だ。モミジ。俺はスモークと共に王城に籠もる。サーフィンも自重する。……自重する」


「本当に自重してくださいよ……?」


「うん……」


涙ぐんだ大の男にため息をつきながら、たった今スモークとなった初老の大男は周囲を見渡した。

成る程、良い部屋だ。防衛という点にとってこれ以上無いほどに。

この部屋を築いた人間は、否、築かせた人間は余程の怖がりだったのだろう。

いや、或いはーーー……、そうなる事を知っていた、か。


「兎も角、シャーク国王は儂が守りましょう。何であればモミジ様も部下に護衛させますが……」


「構うな。相手の狙いは俺だけだからな。お前の部下は街の見回りをさせてくれ」


「了解しました」


「んで、モミジ。お前はツバメに……」


「解ってます。ツバメの世話ですね?」


「いンや、接触するな。アイツは暫くスズカゼと共に行動させる」


シャークの何と言う事はない呟き。

それはモミジという女性を絶望させると共に、憤慨させるものだった。

当然だろう。大切な妹を人間性の危機に立たせるなど、聞き流せる話ではない。

それに、もしも大切な妹があの変態伯爵の影響を受けて目覚めてしまったらどうするつもりなのか。

と、幾らでも湧き出てくる文句を怒号と共に飛ばそうとした彼女だが、それを遮るようにシャークは語り出す。


「スズカゼは破天荒だが、その実、物事の本質はしっかり見てる部分がある。そうでなけりゃ、あんな地位であんな馬鹿やり続けて生きてる訳がねぇ」


「そ、それは確かにそうかも知れませんが……」


「それにアイツは人間でありながら[獣人の姫]と呼ばれるほどサウズ王国の獣人からの信頼を得ている。分け隔て無く接するアイツの姿は、獣人と人間の混血ハーフであるツバメには良い刺激になるだろうよ」


「う、うーん……」


「それに魔力だ。あの小娘はとんでもない魔力を持ってる。だろ? スモーク」


「うむ、間違いなく。儂も戦場では幾度か多大な魔力を持つ者を見てきましたが、アレは異常ですな。しかも余程に勘が良くなければ気付かぬように、何らかの膜で覆い隠しているようにも思える」


「って事で、アイツは魔力の扱いも出来るはずだ。……で? これ以上、何か文句はあるのか?」


「いえ、その、性癖が……」


「その点については心配すんな。流石にアイツも大国戦争を引き起こそうとは思わねぇだろ」


確かに、一国の王族を襲ったともなれば戦争が起きてもおかしくはない。

しかし妹のために国家の命運を平然と賭けている辺り、やはりこの男は妹思い(シスコン)が過ぎるように思う。

大事にされていると言えばそれで良いのだが、その、行き過ぎはどうにも……。


「ま、こっちはこっちでやること有るしな」


「やること? 何ですか?」


「んー、別に大した事じゃないんだけどなぁ。んー」


いつまで経ってもシャークの答えは煮え切らない。

んーだとかあーだとか、まるで赤子が囀るように訳の解らない事をもごもごと口の中で反芻するばかり。

都合が悪くなるといつもコレだ。他の人に対しては堂々と胸を張って反論するくせに、妹である自分とツバメにはいつもこうなる。

やはり、感じているのだろうか。

ーーー……負い目を。


「兎も角、それで動け! 異論は認めん!!」


「……はいはい、解りました。では兵士に貧困街の」


「そっちは関わらせるな、兵士には警備の強化と通常業務を命ずる。これは最優先命令だ」


「え? け、けれど犯人はデッド・アウトと……」


「諄い。これは最優先命令だ」


モミジが何度説得しようとも、何を言おうとも。

シャークは決してこの一線を譲らなかった。

何故なのかと問うても先のように口元を濁すばかり。

隊長、基、スモークへ視線で助けを求めても、彼は目を伏せたまま何も言わなかった。

結局、折れたのはモミジ。

いつまで経っても要領を得ない国王に対し、半ば怒る形で踵を返したのである。

やがて不機嫌そうに眉根を顰めて出て行く彼女を見送りながら、シャークは再び玉座に腰を沈め直した。


「大変じゃな、御主も」


「……うるせ」


不機嫌そうにそう呟いた男は、玉座の裏から手袋を持ち上げる。

そして腰に巻き付ける型の鞘を、数種。


「供は要るか?」


「要らん。……後は頼む」


「うむ、任された」



読んでいただきありがとうございました

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