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獣人の姫  作者: MTL2
南の大国
495/876

水浴びに忍び寄る


【洞窟】


「……うぉ、寒っ」


「洞窟じゃからのう。外より温度は遙かに低いぞ」


「でしょうね。あーぁ、外のテントで眠りたかったなぁー!!」


「女性陣全員から拒否されたのだ。諦めるんじゃな」


洞窟でしくしくと涙しながら蹲る少女の隣で、老体の男は薪をくべた。

表では獣車を操る男が獣に餌を与えており、静かに沈んだ風ばかりが吹いている。

平穏な夜、と言った所か。隣で女性の足を舐め回す妄想をしている少女さえ居なければ、平穏な夜のはずだ。


「何でやぁ……、ちょっと獣車から降りたら抱き付いただけなのに……」


「それが原因じゃろ。もう出発して数日が経つと言うのに」


大国間の移動は出発に日数を要す。

獣車の移動速度を持ってしても、高々数日で移動出来るほど生易しくはないのだ。

故に、殆どは野宿だったり簡易宿テントだったり、と。

食事だって簡易食品や現地調達となる。

まぁ、何が言いたいかというと、だ。

それだけ食事や睡眠にも苦労するのに、流水シャワーなど浴びれるはずもなく。

必然、身体を洗うには流れる川での水浴びになる訳で。


「……ククッ」


蹲って涙しているはずの少女は、口元を醜く歪めていた。

知っている。この辺りに河川があることは知っているのだ。

流れ込んでくる水瀬の匂い。聞こえてくる水のせせらぎ。

どれほど離れているかまでは解らないがーーー……、確かにある。

そして、そこに浸かる人影が一つということも。


「ぐふへへへ」


居る、居る、居るぞ。

デイジーかサラかモミジかタヌキバかキツネビか。

誰かが居る。誰かが居るぞ。


「あ、ちょっとお花を摘みに行ってきますねー」


露骨なまでの棒読み。

のそりと起き上がった彼女は、まるで羽虫が如き動きで隊長の隣を駆け抜けていく。

彼の伸ばした腕が僅かながらに少女の背を擦るも、捕まえることは出来なかった。

筋肉で覆い尽くされた指は捕らえきれなかった相手を惜しむように、緩やかに曲げられる。


「……逃げられた、か」


老体のため息がつき終わる頃には、もう。

少女は土煙をあげてその姿を消していた。



【河川】


「……居たぁ」


草むらに伏した少女は下をなめずりながら、それを見る。

月光に照らされ、その身を影に隠す女性の姿を。

身長は決して高くないし、胸も大きくはない。

しかし解る。見ずとも解る。美人だ。間違いなく美人だ。

恐らくは獣人、だろうか。耳らしきものが見えるが、髪型と言えなくもない。

……いや、この場に居て誰か、など。胸の大きさを見れば言うまでもない。

隠れ爆乳のデイジー、ほんわり巨乳のサラ、たぷんたぷん巨乳のタヌキバ、やんわり巨乳のキツネビ。

そして、美形おっぱいモミジ。

そう、大きさからして間違いなくモミジなのだ。

サウズ王国ではゼルから真顔で国際問題になると言われて覗けなかったのも、今なら事故という事で片付けられる。事故、事故だ。誰が何と言おうとも事故なのだ。


「フッ」


少女はいつにない速度で移動する。

常人には到底感知出来ない移動速度だ。音すら立てず、気配を殺して。

人間は欲望によって進化するというが、ここまでだと若干気持ち悪い。


「さぁ、お姿拝見……」


水面に沈みながら忍び寄り、彼女は一気に飛び上がる。

変態の跳躍力は凄まじく、月光を覆い女性を自身の影で隠すほどだった。

即ち、飛び掛かったのだ。女性からすればいきなり水面から飛び出た何かが自身へ襲い掛かったように見えただろう。いや、実際はそうなのだが。


「……ん?」


しかし、少女は途中で停止する。

空中で戸惑ったが故にそのまま女性を飛び越えて水面に直撃し、沈んでいく。

女性はただ困惑するばかりだが、水面から再び飛び出て来た少女に驚愕し、思わず腰を抜かしてしまった。


「モミジさんよりおっぱいが小さい……、けどお尻が小振り……。モミジさんじゃない?」


判断基準は兎も角、確かに女性は、否、少女はモミジではない。

顔や体格は似ているが、よく見れば別人だということが解る。

何より、髪型などではないその耳が、全てを物語っていた。


「……誰? でも良いから取り敢えずおっぱい揉んで良いですかね」


「ひぇっ……」


掌をわきわきと動かしながら迫り来る変態に対し、少女は詰まるような悲鳴を上げた。

当然と言えば当然だが、何処は怯え過ぎなようにも思える。

だが、それで変態が止まるはずもない、が。

鼻先を掠める弾丸は、別だ。


「……は」


少女が撃ったものではない。

自身の横から一発。狙われて撃たれたものだろう。

それ以上近付けば撃ち殺す、と。そう言わんばかりの。


「っ……!」


変態、基、スズカゼの目の前から少女は急ぎ逃げていった。

跳躍力や疾走力からして、獣人であることは間違いないようだ。

しかし、何処か、違和感がーーー……。


「何事ですか!?」


スズカゼの背後から慌てて出て来たのはモミジだった。

片手にナイフこそ持っているが、足下には替えの衣服がある。

恐らく水浴びに来たのだろうがーーー……、今の銃声を聞いて飛び出てきたのだろう。


「いや、大丈夫ですよ。女性のおっぱいを揉もうとしたら撃たれただけです」


「女性は無事ですか!?」


「ちょっと待って心配する方がおかしい」



読んでいただきありがとうございました

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