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獣人の姫  作者: MTL2
 
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閑話[兜と韋駄天]

【サウズ湖】


「い、嫌だ! 行きたくない!! 私は何もしていないぃ!!」


サウズ湖に響き渡るのは醜い悲鳴。

聞くに堪えず、思わず眉根を顰めてしまいそうな程の。

だと言うのに、その悲鳴の主の隣に立つ者達は何一つ表情を変えては居なかった。

否、どうでも良いので気にすらしていないと言うべきか。


「んじゃ、これで良いんだな? 冥霊(ハデスト)の旦那」


「その呼び方はやめてくださいよ、韋駄天さん。デューで良いですって」


「じゃ、デュー・ラハン。規約に従い、詐欺師モッコフ・バルバンチーナをギルドの大牢獄にブチ込んどくぜ。刑期や刑罰に関しては責任者であるゼル・デビット男爵に相談したいんだが……」


「あぁ、それは後日、資料にして送付してください。今はちょっとね」


「ん、了解した。と、こんな所だな」


韋駄天は様々な事務的報告を書き込んだ紙を懐に仕舞い、ぐっと背筋を伸ばす。

デューも彼に合わせて軽く関節を鳴らし、僅かながらに息を吐いた。


「しっかし、[獣人の姫]さんも騒ぎを呼ぶね。ついこの前にシーシャ国でやらかしたばっかりだろ?」


「この程度じゃありませんよ。もっとやってます」


「うへぇ、怖い怖い。付き合わされる方はとんでもないだろ?」


「退屈はしませんけどね。メタルなんかも楽しんでるみたいですよ」


「あぁ、アイツね。ギルドの時は四天災者に言伝なんてやらされて恨んだモンだが、まぁ、四天災者を見て無事で居られたってのも貴重な体験だと思えば……」


「ですね。それじゃ、そろそろお願いしますよ。俺も今回は少し疲れたんで早く寝たいし……」


「おー、任せろ。ってかデュー・ラハンよぉ。いつまでこっちに居るんだ? 割と長い間居るが、ギルドにゃ戻って来ないのか?」


「ん、まだ暫く滞在するつもりですよ。相方も帰ってこないし」


「ダリオ・タンターだったな。あの女に振り回されてんだろ?」


「あぁ……、そんな名前でしたねぇ」


「お前マジか」


「だって懐の何割持って行かれたと思ってんですか。暫く木の実生活だったのが、最近になって漸く回復したんですよ!?」


「……何食ってんの?」


「こう、獣を狩ってきて……」


「お前それギルド主力パーティーのすることじゃねぇよ」


「だってお金無いんですもの! こっちの鍛冶屋は高いし!!」


「ま、まぁ、ギルドの方は腕が露骨に出るから競争率低いしな……。つーか鉄鬼のオッサンが金つり上げないんだろ? 商業組の連中が嘆いてたぜ」


「あの人って頑固だから……。あ、鉄鬼と言えばシン君は元気ですか?」


「元気だぜ。最近は前にも増して任務をやってたり、三武陣(トライアーツ)の任務に着いていったり……。あぁ、女好きじゃなくなったな、そう言えば」


「大事件じゃないですか」


「理由は解らないんだけどなー。何か芯が通ってる感じがするってフー・ルーカスが言ってたぜ。シンだけにな!」


「そのギャグは言ってました?」


「ごめん俺が作った」


「何を馬鹿なことを……」


デューのため息を合図として、彼等の何と言うことはない雑談は打ち切られる。

韋駄天は態と乱暴にモッコフの腰を持ち上げると、それを樽へ詰め込んで、空気穴を通してから、綺麗に蓋をした。


「んじゃ、俺は行くわ。獣人の姫とメタルによろしく」


「えぇ、こちらもギルドの皆さんに宜しく。統括長は元気ですか?」


「……噂じゃ、獣人の姫を呼びつけることを計画してるらしいぞ」


「わぁ、聞きたくなかったそんなこと」


「だよな。俺も聞きたくなかった」


未だ喚く樽を抱え、彼は後ろ手を振りながら走り去っていく。

土煙に呑まれて直ぐさま見えなくなったその後ろ姿に、デューは苦笑を零していた。

苦い、それでいて、何処か嬉しそうな苦笑を。



読んでいただきありがとうございました

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