閑話[その後の彼女達]
【サウズ王国】
《第三街東部・ゼル男爵邸宅》
「……あの、最近、私って」
「言わないでください、ハドリーさん。何となく解ります」
「怪我ばっかりしてるような……」
「言わないでくださいって言ったのに……」
身を白き衣に寝かせたまま、ハドリーはそっと顔を壁側へと背けていた。
気付けば最近は怪我ばかり。生傷が絶えることも無い気がする。
確かに獣人暴動の時も似たような物だったが、今は、何と言うか、こう、違う気が……。
「でも、今回は私を守ってくれた為の傷ではないですか。ハドリーさんのお陰で私は比較的軽傷でしたから……」
「それは、そうですね……。怪我が無くて良かったですけど。でも、メイドさんだって打ち身なのに、私の世話なんて」
「こんな怪我で休んでいられませんよ。ハドリーさんのお世話の為にも、ね」
メイドは包帯を持ち、ゆっくりとハドリーの身体を起こす。
僅かな切り傷と擦り傷、そして何よりも全身に広がる打撲痕と片羽の弾痕。
リドラ曰く、治癒の魔法石などを用いても全治には一週間は掛かるとのこと。
その費用はゼルが出すそうだがーーー……、数百万ルグという金銭は決して安くないのに、それをポンと出す辺り、あの人も苦労性だなとは思う。
「包帯を巻き直します。服を」
「はい……。ありがとうございます」
ハドリーは柔布を脱ぎ、メイドに裸体を晒す。
生々しい傷だが、メイドからすれば狼狽えるような物でもない。
彼女は慣れた手付きで古い包帯を解き、ハドリーの身体に新しいものを巻いていく。
何せ全身に巻くのだ。いつもゼルの片腕や腹部に巻くのとは勝手が違う。
それでも何ら不自由なく巻いていく辺り、メイドも大分逸脱した物を持っていると言って良いだろう。
そして、彼女が漸くハドリーの両足の包帯を巻き終わった、その時。
「失礼する」
ノックもなしに入ってきた、その男。
漆黒の体毛に黄金の隻眼を持つ、その獣人。
少なくとも、この状態で最も入ってきてはいけない人物の、一人。
「ハドリー、具合はどうだ?」
「……へ、ぁ」
「目が覚めたと聞いたのでな。事後処理で来るのが遅くなったが、許せ」
「い、いや」
「嫌? 見舞い品の果物は嫌だったか? 好きだっただろう」
「ジェイドさん、出ましょうか」
「む? 何かマズいことがーーー……」
刹那、ジェイドの頬を擦ったのは鋏だった。
彼が反応出来ぬほどの高速で銀の刃が壁を突き、直角に突き刺さる。
その耳に届いたのは鋏が衝撃に揺れる、その金属音のみ。
「出ましょうか」
「………………うむ」
漆黒の襲来の後、残されたのは両手で顔を覆うほぼ全裸の獣人と、呆れに首を落とすメイド。
痛々しい静寂の後、やがて口を開いたのは悲しみに打ち拉がれる悲しき運命の悲しい獣人だった。
「……女性としての魅力がないんでしょうか、私」
「す、スズカゼさん呼んできましょうか?」
「嫌です……」
「ですよね……」
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