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獣人の姫  作者: MTL2
二人の護衛
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とある喫茶店にて


【サウズ王国】

《第一街北部・喫茶店ローティ》


「……うまっ」


午後の日差しが差し込む真っ白なテラス。

ガラス戸の外にあるその場所にはスズカゼ達の姿があった。

午後で、しかも昼も大分過ぎた頃の為か、彼女達以外の人影はない。

しかしその為にスズカゼは非常にリラックスした状態でそれを食べることが出来ていた。


「私のお気に入り、マシュールですわ」


マシュールとは現世で言うマシュマロみたいな物で、とてもふわふわとして綿菓子のように甘い。

しかし中身には生クリームが入っておりふわふわとした外を食べると、中から甘くて冷たいそれが出てくる仕組みなのだ。

しかもそれだけでなく、そのクリームがまた美味しい。

この甘いが少し酸味のある味は何なのだろうか、とスズカゼが考えていると、目の前でサラが飲んでいた紅茶を置いて語り始めた。


「お値段も非常に安価で、私の行きつけですの」


「へぇ、こんなに美味しいのに安いんですね」


数は二個と、非常に少ない。

だがこういう喫茶店では少ないのが普通なのだろう。

スズカゼが現世に居た頃に見た喫茶店特集では、自分の額ほどしかないさらに乗った野菜の盛り合わせのような物が千円もして驚いたのを覚えている。

だけれど、まぁ、こんな人差し指と親指の間程もないお菓子だ。

精々、300ルグとか500ルグ程度だろう。


「えぇ、たった8000ルグですわ。あ、二つだから16000ルグですね」


「これ吐いたらお金払わなくて良いのかなぁ」


「す、スズカゼ殿!? 何を言い出すのだ!?」


「ちょ……、1万6000ルグってなんぞ……。何ぞや……」


「スズカゼ殿! お気を確かに!!」


「あら、心配なさらなくても私が払いますわぁ。このぐらいならよく食べてますもの」


その言葉を聞いて、にへらとスズカゼの口元が緩んだのは言うまでも無い。

何とも現金な人物である。


「それはそうと、スズカゼ殿。聞けばゼル団長より強いのだとか」


話題を切り替えたデイジーの表情は、真剣な物だった。

ゼル邸宅の執務室でもジェイドに殴りかかろうとした彼女だ。

恐らく、実力だとか戦闘力だとかを人一倍気にするタチなのだろう。

だが、スズカゼはその事を聞いて苦笑するように肩を揺らした。


「まさか。あの人に勝てる気しないですよ」


「しかし、団長はスズカゼ殿に勝てる気がしない……、と」


「剣術だけなら、と思いますよ。だってあの人、獣人暴動の時に暴徒の波を裂いてましたし」


「……あら、妙ですわねぇ」


スズカゼの言葉に違和感を覚えたのか、サラは頬杖をついて小首を傾げる。

今の話の何処に妙な場所があったのだ、と言うデイジーの言葉に返すようにサラは呟いた。


「スズカゼさんは気絶していらっしゃったはずでは……」


「…………」


「…………」


「…………このマシュールっての、オイシイデスネ!」


「あの、スズカゼ殿? それが事実ならばあの暴動で貴方は獣人に協力していた事に……」


「ナンノコトカワカラナイ」


「大問題なのですが!?」


そう、実際のところスズカゼはあの暴動時に気絶などしていなかった。

いや、さらに言ってしまえばあの暴動で彼女を人質にジェイド達を王室まで攻め込ませる事も彼女の計画による物だったのだ。

勿論、ジェイドやハドリーの助言や経験なども考慮の内ではある。

だが、彼女が最も怒り、気に食わなかった事こそが原動力だった。

それこそが獣人差別だ。

スズカゼとて成り立てとは言え大学生だった身だ。

人権教育も無論のこと受けている。

差別など下らない、馬鹿馬鹿しいと彼女が思うのも必然で。


「だとすれば今の地位も仕組まれた事に……!」


結果、彼女は今の地位を手に入れた事になる。

それが大問題である事は言うまでもないだろう。

件の時も大臣が叫んでいたが、もし本当なら正しく仕組まれた事件だ。

スズカゼは人質に取られていたにも関わらず女王の人民差別に対し怒りを叫んだ英雄ではなく。

全てを仕組み、獣人の暴動を利用して地位を得た卑劣者になる事にーーー……。


「なるわけねぇじゃん」


と、その会話を打ち切ったのは呆れ顔の一人の男性だった。

スズカゼが食べている物とは少し色の違うマシュールを突く、一人の男性。

デイジーとサラは彼を見るなり戸惑いながら首を傾げたが、スズカゼは少し驚いたように目を丸くし、その人物へと声を投げかける。


「場違いですよ」


「第一声がそれとか止めてくんない!? かなり傷付くんですけど!!」


「いや、だってメタルさんの居て良い場所じゃないし……。……なんて言うか、下町の居酒屋辺りに居そうな」


「いや、居酒屋はよく行くけどさぁ……」


「……あの、スズカゼ殿? このお方は?」


「あぁ、メタルさんです。メイア女王の友人だとか」


その一言を聞いてデイジーは飛び上がり、サラはあらあらとのんびりとした声を漏らした。

メイア女王というこの国のトップの友人だ。

嘸や名のある人か、それとも地位のある人間に違いない、と思ったのだろう。


「ただの放浪者なんで気なんて使わなくて良いぜ。堅っ苦しいの嫌いだし」


「は、はぁ……。……しかし、先程の言葉の意味は?」


「あぁ、なるわけねぇじゃん、っていうヤツ? 考えてみりゃ当然だろ。過程と結果の差、ってヤツだ」


メタルは皿に乗ったマシュールをフォークで突き刺して、口へと運ぶ。

一口でそれを全て食べ、ふわふわの感触を感じながらも彼は会話を続ける。


「獣人達が必要としていてメイアが気に入ったのは、今の現状を声を大にして叫んだこの小娘だ。その過程がどうだったとか、どういう理由で、だとか関係ねーの。まぁ、勿論、具体案を出してそれが気に入られたって事もあるんだけどさ」


ごくん。

彼はマシュールを口内で味わい尽くさずに、半分ほど味わってから飲み込んだ。

もしスズカゼが彼の会話を聞かずにその状態だけ見ているならば、勿体ないと心の中で彼を侮蔑していた事だろう。

尤も、勿論のこと今はそれ所ではないのだが。


「第一、そんな事はもうメイアも気付いてるしジェイド達もアイツがどんな人間かを知った上でそれを許可したんだろうな。言い方は悪いがマジで博打みたいなモンだったんだろうし」


「博打とは……、どういう意味ですの?」


「現状変えれれば儲けモン。失敗すりゃいつも通り。そんだけの話って事だな」


「……その、言いにくいのですが、ジェイド・ネイガーとハドリー・シャリアは未だゼル団長の邸宅に通っているのでは? そんな、自分を博打道具として使った者を側に置くなど」


「それはないかな」


デイジーが言い終わるよりも前に、スズカゼは彼女の言葉を否定した。

ごく普通に、手元の紅茶を飲みながら、平然とした表情で。


「確かに利用されてた事を知ったのはつい最近ですけどねー。あの時は自分でそうしようと思ってたし、あの二人の表情はそんな物にも見えなかったし」


「……と言いますと?」


「絶対に諦めない意思、って言うかな。そういうのが宿ってたんですよ」


「……意思、ですか」


「ま、そういう事で協力したワケで。私は気にしてませんね」


「本人もこんな感じだからな。メイアもどうせ、そんな事を進言されてもハイソーデスカで終わらせると思うぜ。だってメイアだし」


デイジーは彼等の言葉に圧倒されるように、口籠もりながらも、はぁ、と返事を返す。

彼女とサラが思っていたよりも、スズカゼという人物の器は大きいらしい。

豪快とは言えないし繊細とも言えない。

ただ彼女は自分に正直で、自分を曲げない人間なのだろう。


「……フフッ」


「何がおかしい? サラ」


「いえ、考えている事は貴女と同じですわよ」


デイジーもサラも、考えている事は同じだ。

あぁ、この人物には仕える価値がある、と。


「それはそうとメタルさん。何でこんな場違いな所に?」


「まだ言うかお前……。いや、余りにやる事ないんで城内ブラブラしてたらバルドに仕事の邪魔って言われてさ? お小遣い貰ったから適当な兵士に聞いたオススメ喫茶店来てみたんだけど、量が少ないのなんの。味も良く解んないしさー」


「死ねば良いのに」


「酷っ!?」


デイジーもサラも、考えている事は同じだ。

あぁ、この人物は駄目なんだな、と。


読んでいただきありがとうございました

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