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獣人の姫  作者: MTL2
親と子と子と親と
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鉄の独白


《第三街東部・ゼル男爵邸宅》


「すいません、私の我が儘で……」


「いや、あの一発でこちらも鬱憤は晴れた。本音を言えば片付けてしまいたかったが、まぁ、姫の行動は決して間違いではないだろう」


ゼル男爵邸宅に、スズカゼ、ゼル、ジェイドの姿はあった。

全ての一件は既に終わり、こうして事後の話し合いを行っているワケだ。

ただ、そこで少女はまず平原でをぶっ飛ばした事に着いて謝罪から入っただけのこと。


「あのモッコフとかいう獣人……、空飛んでたな」


「姫の拳撃を真正面から受けたのだ。当然だろう」


事態は非常に単純な終わりを結んだ。

追い詰められたモッコフは前と同じく一応は筋の通った論理を繰り返すも、スズカゼにそれが通じるはずはなかった。

ただ、彼の独論場となっていたその場を動かしたのは、ジェイドによる告白。

ハドリーとメイドが撃たれたという、ただ一言か二言程度の告白だったわけで。

そして、それこそが、モッコフという獣人を城壁に激突させるほどの拳撃を生んだわけだ。


「おーい、ゼル居る-?」


「……ん、メタルか」


奥の部屋から口端にクッキーを付けながら出て来た男。

ゼルは彼に呼ばれて立ち上がり、席を外す。

未だスズカゼとジェイドが話し合っている中で、彼はメタルと共に扉の外へとその身を向けた。


「何だ?」


「あのモッコフとかいう野郎、デューに頼んでギルドの大牢獄にブチ込んどいたぜ。これで良かったんだろ?」


「……あぁ。スズカゼはそれを望んだ」


「殺してやりゃぁ良かったのによ。前までのスズカゼならそうしただろ?」


「小さかろうと子の親になったアイツだからな……。思う所があるんだろ」


「随分、簡単に崩れそうだけど? それ」


ゼルの眼光がメタルを捕らえ、殺気を零す。

彼は怯える素振りと共に謝罪の言葉を述べ、咳払いをしてから話題を戻した。


「だ、だってよぉ、スズカゼは仲間を大事に思う上で不殺を貫くんだろ? 無理だぜ、それ」


「知っている。いつか、それが崩れることもな。……だが、その時まで崩れさせないのが俺達の役目だ」


「……そういうお前等もタガ(・・)なんだぜ?」


知っている、そんな事は、と。

ゼルは微かに軋む義手の肩口をごきりと鳴らした。

知っているのだ、そんな事は。

いつかスズカゼの内面が破綻することも、ジュニアという存在が彼女を成長させるも壊す鍵にもなることを。

そして、その時に彼女を支えるのは自分とジェイド、二人の役目になるであろうことも。

自分達ですらーーー……、彼女にとってはタガであることも。


「……あっ、それとジュニアだけどさぁ」


「イトーに届けるんだろ。頼む」


「……ん、まぁ、無理にでも引き取らせるわ。スズカゼもその方が安心だろ」


「悪いな」


「俺だってこれぐらいするぜ。平和が一番ってな」


ケタケタと軽い笑いを浮かべ、彼は手を振りながら歩き去って行く。

礼すら求めていないのだろう。彼が振り返ることは、無い。

まぁ、そんな彼と擦れ違ったファナが微かに睨んだ時には流石に驚いて転びそうになっていたが。


「丁度、入れ違いだな」


「ふん。あの男の用件など知ったことか」


「まぁ、だろうよ。……で?」


「貴様の言っていた通り、騎士団と共に町中の爆弾を撤去した。とは言え、要所要所にしか仕掛けられていなかったから楽だったがな」


「助かるよ」


ゼルの礼が気に食わなかったのか、ファナは眉根を顰めると共に舌打ちを送る。

いつもの有り触れた光景にゼルは苦笑を送るが、今回はそれだけではない。

そのまま静かに腰を上げ、ファナに背を向けて、言う。


「ファナ。お前はかなり実力もあるし、曲がらない心を持ってる。それに、スズカゼとの付き合いも長い。……だから、頼みたいんだ」


「……何だ」


「アイツを支えてやってくれないか」


返って来るのは、やはり、いつも通りの反応。

だが、それでも良かった。それだからそ良かった。

変わらぬ日常が必要なのだ。スズカゼ・クレハという少女には。

帰って来る居場所こそ、必要なのだ。


「別に……、貴様が何を考えて居るかなど知ったことではないし、興味もない。奴が喧騒を起こす災禍となるのは最早周知の事実であり、周りも対応してきている。だからこそ、未だ、大事には成り得ていない」


「……あぁ、そうだな」


「だが、バルド隊長は仰っていた。いつしか彼女が、途轍もない災禍の根源となるだろう、と」


「…………」


否定は出来ない。

自分も予期しているからこそ、ファナに求めたのだ。

災禍の根源と成り果てても帰ってこれるだけの、居場所を。


「その時、貴様は」


「……さぁ、な」


静かに瞳を閉じて、意識を闇へと沈めていく。

ファナの呆れ声も舌打ちも、聞こえなかったワケではない。

しかし今、その答えを出す訳にはいかなかった。

一度抱え込むと決めたのだ。希望の旗になった少女を支えると。

物言わず忠義に尽くす獣人も居るのだ。自分が何かを言って逃げることなど、出来るはずなど、ない。


「……貴様の胃が悪いのは、間違いなくその性格のせいだ」


「それ言ったのリドラだろ」


「……ふん」



読んでいただきありがとうございました

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