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獣人の姫  作者: MTL2
親と子と子と親と
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変態と気を揉む者達の帰還


【サウズ平原】


「……いつまで落ち込んでんだよ」


「だって……、だって……」


「仕方ないことだろう。最早、必然でもある」


「けどっ……」


最早、獣車の影すら消え失せた平原。

彼等は徒歩で草々を踏み締めながら大国を前にしているが、その雰囲気は暗沌としたものだった。

ジュニアは嘆く少女の肩口で心配そうに唸り、その頬に首を擦り付ける。

慰められているのだろうと解っていても、少女はそれに構う元気すらない。

それ程に、悲しいことだから。


「オクスさんのおっぱいでパフパフ出来なかったんですよ……!?」


「俺達と三武陣(トライアーツ)で全力阻止したからな」


「法廷まで持って行かれたらどうするつもりだ。大国とギルド間の問題が大国伯爵による強姦など洒落にならんぞ。しかも同性のな」


「ご、合意の上だしっ……! 最後までいったワケじゃないしっ……!!」


「合意の上ならあんな怯えた目はしねぇだろうし、最後までいくとかいかないとかいう問題じゃねぇよ。何でかシンは楽しそうだったけど」


「そういう年頃なのではないか。……兎も角、スズカゼはサウズ王国に帰ったらメイアウス女王に土下座する練習でもしておけ。今回の一件が間違った行動だったとは言わないが、迂闊な行動だったと言える。せめてもう少しやり方を考えることだ。お前の無鉄砲さは時として長所にも短所にもなり得るのだからな」


「メイアウス女王に土下座して足蹴にされる……。あ、ちょっと良いかも」


「誰がヤり方を考えろと言った」


「上手くねぇからな。疲れてる?」


「割と。……まぁ、冗談ではなく謝罪は必須だ。あのバルドが報告を聞いて笑顔のまま何も言わず立ち尽くす程だからな」


「伯爵つったら国を出ることすら騒ぎになるほどの地位って理解しろよ、お前……」


「むしろ最近はサウズ王国に居ることの方が少ないですよね」


「大半はお前のせいだけどな」


気苦労を抱えながら平原を歩く彼等。

延々と続く緑の平原を歩く中、やがて大国の城壁の元に湖が見えて来た。

太陽の光を反射してオアシスのように輝く蒼面。その反射は少女達の瞳を細めさせる。

そして、細めたからこそ見えた影が一つ。

否、漆黒の獣が一人。


「あ、ジェイドさんだ。釣りしてる」


「ハドリーも居るな。何してるんだ」


「……豆粒しか見えないのだが。お前達はどんな視力をしているんだ」


まぁ、異常人二名に何を言っても仕方あるまい、と。

リドラがそう息付いた時にはもうスズカゼの姿は無かった。

残されたのは焼け焦げた土埃と振り落とされたジュニア。

もうツッコむ気力すら起きず、ゼルとリドラは他は異に視線を交わすと彼女の後を追って緩やかに歩き出した。


「あの馬鹿は、どうして、こう……」


「今更だ。ギルドの面々にも飛び掛かっていたようだし」


「訴えられるのは近いだろうな。……で、あの馬鹿についての見解だが」


「獣車で話した通りだ。何の為にギルドの面々の獣車にスズカゼを放り込んだと思っている」


「……だろうな、畜生。面倒事を連れてくるのが好きな奴だ」


「今回ばかりは面倒事を抱えていた、と言うべきかも知れないがな」


「上手くねぇって、だから」


兎も角としても、今回の一件は非常に面倒な物だ。

クロセールから聞いた話からしてもスズカゼ・クレハという人間が尋常でない事は明らかである。

前々から解っていた事ではあるが、あくまでそれは召喚者が居るだの何だのと言った、外部的な問題だった。

謂わば認識が爆弾を抱えた少女から爆弾の少女に変わった、と言った所だろう。


「……メイアウス女王には報告すべきか」


「すべきだろう。あの方は何か知っている可能性がある。元より魔力に関しては天賦の才を持つお方だ。スズカゼの魔力についても異常性を察知し、或いはそれについて見解を述べていただけるかも知れない」


「あまり頼りたくはねぇんだが……、背に腹は代えられないな」


「胃痛に関しては案ずるな。胃薬がある」


「いや、まぁ、それもあるが……。あの人は何を考えてるか解らねぇトコがあるあらな……」


これからの気苦労を話し合いながら、彼等はサウズ湖周辺へと足を踏み入れる。

そこでは鳥の獣人が乱れた衣服で胸を抱えながら後ずさり、黒豹の獣人は湖に少女を投げ込んでいた。

何があったか言わずとも解るこの説得力。彼等は最早、ため息を零す気力すらない。


「……何か釣れた?」


「変態が」


捕獲して返却キャッチアンドリリースか……」


「リドラ、お前疲れてるんだよ」


ご苦労と互いの気を励まし合う彼等の足下に這い上がってきたスズカゼと、それに飛び寄るジュニア。

頭を冷やしても駄目なんだろうなという皆の視線が少女に深々と突き刺さる中、彼女は衣服の下に思い切り手を突っ込んだ。

何の抵抗もない衣服に入り込んだのであろう、大振りな竜魚を草原に叩き付けながら、一言。


「魚類より女類が欲しいんやッッッ!!」


「……ジェイド、宿題ってまだ作ってる?」


「倉庫が二つほど埋まったが」


「よし、この馬鹿が暇な間の予定が決まったな」


「うむ」



読んでいただきありがとうございました

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