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獣人の姫  作者: MTL2
名も無き村で
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生涯の道に障害は無し


「…………」


少女は、手を組んでいた。

指を交差させ、腕に力を入れて、手首を怠けさせて。

絡み合った思考のように、ただ、一本の線とならず。

不可解な感情と、不可解な苛立ちに。

手を、組んでいた。


「……[獣人の姫]は何があったのだ? 師匠と話してから、ずっとあの調子だが」


「さぁ? 解らないッス。けどあの様子を見る限り、かなり重要な事を言われたんじゃ……」


「どうでも良いが、彼女が大人しいのはかなり有り難いと思うのだが、どうだろう」


「同意だ、フー……」


「少し静か過ぎる気もしますけどネ」


三武陣(トライアーツ)も、シンも、レンも。

彼女のその様子に声を掛けようとはしない。否、出来ない。

先の様子と余りに違いすぎているから。


「……その、何ていうか。スズカゼさん! 元気出してくださいッス! 貴方らしくないッスよ!!」


「……はぁ、…………どうも」


「駄目ッス。これ完全に駄目なヤツですよ」


「心ここにあらず、だな」


スズカゼは思案していた。いや、正しくは嘆いていた。

罰せられない想いや師匠に対する困惑ではなく。

己の、在り方について。


「……自分の、生きたいように」


自分の生きたいようにして、得た地位だ。

自分の生きたいようにして、殺した彼女だ。

自分の生きたいようにして、立っている大地だ。

ならばそれを護りたいと思うのは当然ではないか? ならばそれを手放したくないと思うのは当然ではないか?

今築いたこの地位を、失いたくないと。


「…………けれど」


それが、自分の生き方なのだろうか。

生きてきた。結果だ。得た。証だ。

それは自分の人生に与えられた物であって、得た物であって、生み出した物ではない。

嘗てはーーー……、そう、嘗て自分は編集を志していた。

誰かが人生を掛けて生み出した作品を世に広めたい、と。

そう思ったから。編集を目指していた。

けれどあの時ーーー……、忘れもしない、雨が降っていたあの日。

自分はこの世界に来た。来てしまった。

それから様々な事があって、今、ここに立っている。

立っている、だけだ。


「……進まなきゃならないのかな」


進まなければ、どうにもならない事は解っている。

いや、ここで立ち止まっても生きていけるだろう。

ただ老いていけるだろう。この平穏な世界で幸せに、老いていけるだろう。

大切な人々と共に幸せに暮らして、過ごしていけるだろうーーー……。

それも一つの在り方だ。それも一つの人生だ。

望むべき、平和なのだろう。


「止まることも、選択……」


止まれば、良い。

立ち止まって、周りを見回せば良い。

一休みを、そのまま永休としても、良い。

それが一つの人生ーーー……。


「嫌だ」


ただ、そう思う。

止まって、休んで、過ごして。

そんな人生は嫌だ。自分には解決すべき問題がある。

未だ自分の前には幾千数多の問題があるのだ。決して目を逸らしてはいけない問題が。

安穏として堪るか。こんな、平穏に身を浸して堪るか。

下らない正義感など知るか。下らない論理感など知るか。

彼は言った。生きたいように生きる、と。

自分もそうしてきたではないか。自分もそう望んだではないか。

英雄ヒーローなら、そうすべきだっただろう。主人公ヒーローなら、そうすべきだっただろう。

だが自分は自分だ。一人の、境界線上に立つ者(スズカゼ・クレハ)だ。

知ったことか。英雄譚や主人公論理など、知ったことか。


「よし」


少女は魔炎の太刀を抜刀する。

昔からそうだ。何かあると刀を振るってきた。

竹刀ではなく、今は真剣だけれど。

それでも、今の鬱憤を晴らすには事足りる。

そうあれかし。いつものようにではなく、生きるように。

怠惰に過ごすのでは無く、決められた平穏を望むのではなく。

自分であれ。自分のありたい姿であれ。

馬鹿でも阿呆でも。例え、それが地獄の道でも。

貫き通すことも、また、人生。


「……っし」


一回、二回、三回。

軽く、振る。

今までこうやってきた。こうしてきた。

道は開いている。歩みを止めたのは自分だ。

ならば再び歩もう。ならば再び歩いて行こう。

いつだって道は開いている。止まるのは世界じゃなくて、自分だけ。

ならば歩もう。ならば、走ろう。

止まってなるものか。いつだって、紅蓮の刃を携えて走ってやる。

常識破りは自分の十八番だろう。ならば、そうしよう。

そうあれかし。


「な、何をする気だ?」


「素振りじゃないッスかね? 構えがそれッスよ」


「何故、急に素振リ?」


「さ、さぁ? 解らん」


「彼女を理解しようとする方が無理と思うのだが、どうだろう」


全員はフーの言葉に同意するが如く、頷きを見せる。

まぁ、何やら自分で吹っ切れたようだし良かった、と。

シンが言う言葉にもまた、同意を見せて。

眼前で天陰・地陽(てんちめいどう)が放たれ、荒野に聳える山が消えたことに驚愕を見せて。

やり過ぎちゃったと可愛らしく舌を出す少女に呆然として。


「じゃ、ちょっと自分の思うようにやってきますんで」


そのまま魔炎の太刀を仕舞って、お話ししてきますねと笑みながら師匠の元へ行く少女を見送って。

少女の豪声と共に殴り倒されて転がって来た師匠を唖然と見て。

やがて、皆は静かに息をつく。


「誰か止めろ」


「無理」


「ですネ」



読んでいただきありがとうございました

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