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獣人の姫  作者: MTL2
名も無き村で
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材料探しに

「えー、何々……。[記憶を戻すには一般的に失った際と同等の衝撃を与えることが有効的とされているが、これは非常に危険である。外部からの衝撃は時として外傷を生み出すからだ。しかし内面的であれば、その危険性は幾分か減るであろう]」


「つまりリドラ氏の記すには内面から衝撃を与える為の薬を作れ、という事だな」


「最後まで読んでないんですけど」


「あの方の書物だぞ。一節を聞けば全て思い出す」


「凄いリドラさんオタクですね」


クロセールの輝く瞳と満足気な頷きを横目に、スズカゼは取り敢えず本の続きに目を通す。

これがマジで薬の作り方へ続いているから彼の異常さが怖い。

今更かとも思うが、リドラはこんなに有名人だったのだろうか。

否、彼が異常なだけである。


「えー、作り方は」


「[ホンホン草三枚を微塵切りにしチャポップ虫を潰して体液を混ぜ、ゲボロゲボンの心臓を磨り潰して混ぜて茹で込み、ドロドロになるまで煮て、液状化したそれを冷まして飲ませる]……、だな?」


「もうこれ本要らないんじゃないですかね」


「クロセール、したり顔でスズカゼ殿の役割を潰すのは色々と残酷だと思うのだが、どうだろう」


「運命だ」


「何が!?」


「と言うか話が進まないッスね」


「その材料ならこの辺りで採れるはずでス。手分けして探しに行きましょウ」


レンの提案、と言うか仕切り直しもあって、取り敢えずその材料を集めることに。

班分けとしてはホンホン草をオクスとシン、チャポップ虫をレンとフー、ゲボロゲボンをスズカゼとクロセールとなった。

どうして自分は女性とではないのかというスズカゼの憤りに対し、満場一致でお前だからだという答えが返ってきたのは言うまでもない。


「ホンホン草は山岳地帯に、チャポップ虫は森に、ゲボロゲボンは山沿いの川底に居るはずでス! 早く師匠さんの記憶を取り戻す為にも頑張りましょウ!!」


「おー」


「おー、ッス」


「……クロセール、乗った方が良いと思うのだがどうだろう」


「貴様はそれより師匠の介護をしているオクスを連れてこい。何も言わず決められてるぞ」


「あ、連れていますよ」


「行くな、[獣人の姫]。オクスが泣く」


「先っちょだけなら」


「何のだ……」



【荒野】


「てな訳ですけども、聞いて良いですか?」


「何だ」


時は少しだけ過ぎて数十分後。

何もない山裾の荒野にはスズカゼとクロセールの姿があった。

ただ二人、ゲボロゲボンなるものを捕獲しに行くために。


「どうして私と? 何も女性が嫌ならシン君と組ませりゃ良かったじゃないですか」


「そして行かせないという選択肢もあった……。その通り、私は故意に貴様と組んだ」


「解りませんね。私は確かに美人ですが」


「済まないが女だろうと男だろうと興味が無いのでな。あるのはリドラ氏の書物だけだ」


「それを並列させるのはかなりアレですけども。……ま、女性に興味ありゃ三武陣(トライアーツ)でにこやかにやってませんね、確かに」


「そういう事だ。男女間のいざこざで解散したパーティーは多い。それはともかく、私が貴様と共に来た理由は単純だ。貴様を知りたかったのでな」


「すいません、女性が好きなんです」


「いやそんな暴露はしなくても良い。あと堂々巡りになるから暫く相槌だけ打ってくれると嬉しいのだが」


「えー」


「……さて、と。私が知りたいのは貴様の出自だ。貴様がサウズ王国に住処を置いているのは知っているが、何処の出身かは知らない。私がサウズ王国出身である貴様にあの方の事を確認しなかったのは、懸命なリドラ氏であれば貴様には接触しないであろうと踏んだからだ」


「成る程、私に聞けば私が興味を持って近付くかも知れないと」


「その通り」


「まぁ、事前に知り合いだった訳ですけどもね。爆弾扱いしないでくださいよ」


「爆弾程度か」


「えっ」


「いや、当然だろう」


彼は思わずシーシャ国での光景を思い浮かべる。

スズカゼの言う通り、リドラに危険が及ぶことを嫌って彼女には話題を振らなかったのだ。

思わず語るに落ちてしまったが、どのみち、かなりの付き合いだったようだし安堵した部分があるのは事実。

だが、自分が知りたいのはそこではない。

スズカゼ・クレハという人間その物の。

あの様な化け物を宿した少女の、出自。


「私って記憶喪失なんですよ。それでサウズ王国の騎士団長に不審者扱いされて捕縛されて、私の正体を調べる為にその騎士団長が呼びつけたのがリドラさんでして」


「ふむ、記憶喪失か……。何だ、丁度良い。今から出来る薬を二人分作れば良いだけではないか」


「いや、ちょ」


「何、遠慮するな。記憶が戻るのは恐ろしいだろう。だが、まぁ、何だ。貴様の[濃さ]が記憶程度で左右されるとは思えん。もっと本質的なアレだろう?」


「否定はしませんけど結構です! 現状に満足してるんで!!」


「現状に甘んじるな。その先を目指すのだ。本や直筆サインだけでなく、実際に会って議論したいと!」


「いやそれアンタの願望!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる二人は歩を進め、何も無い荒野を歩んでいく。

然れど、騒がしい外面と違って二人の内面は冷め切っていた。

嘘がバレるという焦りとこれは嘘だろうという疑い。

その二つを隣接させる、その冷え。

決して表に出ることも、出すことも無い。

だが、その[冷え]は確実にーーー……、二人の心に痕を残していた。



読んでいただきありがとうございました

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