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獣人の姫  作者: MTL2
名も無き村で
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荒野を行く獣車内の喧騒

【荒野】


ふにふにと凹む少女の頬。

彼女の頬を突く女性は段々と癖になってきたのか、上機嫌で指を立てていた。

そんな様子を見るは呆れ返った様子の、琥珀色の眼を眼鏡で隠した男と両腕を失った豊満な胸を持つ獣人の女性。

ガタガタと揺れる獣車の中で、彼女達は他に眼をくれる物もないので、その光景をぼうっと見ていた。


「……どうだ、フー」


「駄目だな。起きる兆しすらないと思うのだが、どうだろう」


「遊ばず本気で起こせ、馬鹿」


「だが良い触り心地だと思うのだが、どうだろう」


「……いい加減に起きて貰わなければ困るのだか」


名もなき荒野を走る獣車に乗って、彼等が向かうのは小さな山にある小国。

いや、国と言うよりは村だ。地図が更新される際に存在を忘れられ、数年ほどその国の名前が無かったことがあるという経歴を持つ、何とも小さな国。

因みにそれが解決したのは[師匠]なる人物が移り住んだことを聞いたオクスがギルドに報告した為である。


「我々があの人の所に向かう事を説明せねばならん。シンは別にこのまま寝ていて良いが、[獣人の姫]には起きて貰わなければならんのだ」


「そうは言っても起きないと思うのだが、どうだろう」


「起こす簡単な方法がありますヨ」


そう、口を挟んできたのは獣車の行商人。

レンと名乗る獣人はどうやらスズカゼの知り合いらしく、簡単に起きる方法を伝授してくれた。

と言うのも、真正面に跨がって耳元に息を吹きかければ一発、だとか。


「……クロセール」


「いや、私は男だ。オクスかフーがやれば良い」


「私は両腕が無いし……」


「私は私で突っつくのに疲れた。と言うかオクスなら腕で支えなくとも大丈夫な筋力と体力があると思うのだが、どうだろう」


「だな。やれ、オクス」


「何故、私が……」


オクスは渋々スズカゼの上へと跨がった。

息を吹きかけるべく、軽く腹を膨らませる。

だが、彼女は聞いていなかった。

レンが小さく付け足した自己責任でお願いしまスという言葉を。


「スズカゼ殿ぉ~~~……」


フッ、と。

本当に軽く。それこそ蝋燭の灯火も消せないような吐息。

彼女に跨がったオクスが吹いた、小さな息。

それはスズカゼを目覚めさせるより前に、オクスの腰元に足を絡ませ腕で顔を抱き寄せるという変態を目覚めさせるハメになった。


「ちょ、スズカゼ殿ォ!? あ、うぅんっ!? んっ、んぅっ!?」


「うわぁ、まるで捕食光景だと思うのだが、どうだろう」


「と言うか捕食光景だろう。[獣人の姫]がオクスを抱き抱えて凄いことしてるぞ。あー、腕がないから逃げられないのか」


「うわー、胸メッチャ揉まれてると思うんだが、どうだ……。あ、鎧剥がされた」


「素肌に、あー、下着も剥がされたな」


「下半身入ったと思うんだが、どうだろう」


「普通に入ってるな。あ、オクスが項垂れた」


「陥落したと思うんだが、どうだろう」


「悲惨だな。[獣人の姫]が女色家という噂は本当だったのか」


「寝起きだからタガが外れていると思うのだが、どうだろう」


「やらなくて良かったな、フー」


「全くだと思うのだが、どうだろう」


「いや私から言っておいて何ですけど止めましょうヨ!?」





「……幸せな夢から覚めてしまったと思ったら何か縛られてたんですが」


「まだ良いじゃないですか。俺なんて荷物と一緒の扱いッスよ。雑過ぎて泣きそう」


全身を縄で簀巻きにされ一切の身動きが取れないスズカゼ。

荷物の山から足だけ出して動けないシン。

何とも悲惨な二人は放置で三武陣(トライアーツ)の面々はオクスを慰めるのに必死だった。

流石に獣車の隅で仲間がブツブツ言いながら笑い始めては放置する訳にはいかなかったようである。


「……ってか、スズカゼさん。記憶残ってます?」


「まぁ、この状況を見れば何かあったんだろうなぁ、とは。あの人達は誰です? 美人が増えてるし」


三武陣(トライアーツ)ですよ。ギルド主力の」


「あー、名前だけは聞いたことが……。あの人達に助けられたんですかねぇ」


「え?」


今の一言で、シンは思わず口端を結んでしまう。

彼女の口なりからして、記憶はないのだろう。恐らくは例の襲撃者達から助けて貰ったと勘違いしているのだ。

となれば自分が気絶しているのも彼等のせいだと思っているのだろう。


「……そ、そうッスね」


真実は、告げない。

告げない方が良いと、そう思った。

特に理由はないが彼女に真実を告げて何かある訳でもないしーーー……。

それに、あの状態は尋常ではなかったから。


「つーかシンさんも無事で何よりですね。怪我ないみたいですけど」


「何でッスかねぇ? 俺もこっちは記憶なくて……」


スズカゼの記憶云々で悩むシンだが、当の彼にも治療されたという、蘇生されたという記憶はない。

全てを知る三武陣(トライアーツ)達は彼女達に何かを言うつもりはなかった。ヌエに、ギルドに秘匿した以上、彼女達に告げることすらも避けるべきだと判断したからである。


「……あの、聞いて良いですか?」


「何ッスか?」


「息苦しくない?」


「意識朦朧としてきた」


「頑張れ」


「アッ、ハイ」



読んでいただきありがとうございました

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