閑話[瓦礫と影の中で]
【シーシャ国跡地】
「……」
その者は、地下に居た。
瓦礫が倒壊し、空洞の半分が埋まってしまった地下に。
少しでも動けば瓦礫雪崩を促し、今にでも埋まってしまうような近いに。
「……消えて、いる」
壁画は、消えていた。
否、彼女が見る目的の物が、消えていた。
最後の欠片がーーー……、消えていたのだ。
「……偶然、いや、必然ですか。我々の及ばぬ地に彼は居るとでも?」
影に潜んだまま、彼女は呟く。
誰の眼もなく、耳もない虚空の世界で。
漆黒の闇に沈みながら、思考を巡らせる。
「全ての準備は整っている。白銀の布地に皿を乗せ、器を置き、贄を並ばせた。だと言うのに、最後の雫は器に注がれないーーー……。いや、注がれて、零れ落ちてしまった」
瓦礫の上から礫が落ち、転がっていく。
それは雪崩を助長させ、大きな岩を一つか二つほど落とし込んだ。
重々しい唸音。然れど、彼女はそれに視線すらくれない。
「ギルドの中枢に入り込んだ。四国大戦の最中で餌も集められた。器を用意し、磨き上げた。全てを知る者達の情報も得た。……だと言うのに、彼は未だ我々の手に堕ちない。神々と天に輝いている」
全てが整った。
全てが始まるまで、時はない。
故あれば、あの方々が動き出す時も、また。
「……不安要素がない事は、ありませんが」
それでも、と。
彼女はそこから先を口に出しはしない。
それでもと言うには、その不安要素は余りに異端過ぎる。
過去の例外は、余りに異端過ぎるのだ。
「四人の災害、三人の例外……」
それが、計画にどう関わってくるのかは解らない。
けれど、それでも。
自分達は自分達の成すべきことを成さねばならない。
この世界をーーー……、救うために。
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