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獣人の姫  作者: MTL2
 
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閑話[断罪と紅蓮]

【スノウフ国】

《大聖堂・聖天礼拝堂》


「悪いね、今回は巻き込んで仕舞って……」


「どうでも良いんですけど、ダーテンさん。それを謝罪するならまずガグルさんと一緒にドラゴンに乗せた事を謝罪してくれませんかね。寒くて死にそうです」


「今はまだ温かい時期だから良いけど、もう少し後の時期だと本当に死んでたかもねぇ」


「悪意が! 悪意が見える!!」


大聖堂を歩く二人は軽く言葉を交わしながらも、確かな足取りで奥へと向かっていた。

一人は白き体毛についた粉雪を払いながら、一人は紅き刀に付着した霙を拭き取りながら。

奥へと、進んでいく。


「……それにしても、ダーテンさんって四天災者なんですよね? そうは見えないんですけど」


「メイアウス女王にもイーグ将軍にも言われるねぇ。この前、トレア海で海水浴してる時も僕は一人で潮干狩りしてたし……」


「潮干狩りする四天災者って……」


「貝が美味しかったよ」


「シロクマって貝喰ったのか……」


「魚の方が美味しかったけどね」


「あ、あぁ、はい」


話を聞けば聞くほど、この人が四天災者には思えない。

メイアウス女王のような威厳もなければ、イーグのような威圧もない。

ただ物腰柔らかな、優し気な獣人の男性だ。

然れど、鬼面族の元で見せた、あの威嚇。

それは間違いなくーーー……、四天災者の物だっただろう。


「一つ聞きたいんですけど」


「うん? 何かな」


「ダーテンさん、四天災者[斬滅]ってご存じ?」


「知ってるよ。大戦中は何度か戦ったしね」


「……どうでした?」


「僕、生きてるのが奇跡だと思う」


冗談交じりにそう述べる彼だが、相手もそう思っているんじゃないかとスズカゼは微かに呟いた。

四天災者同志の戦いと言うのは、未だ見た事がない。

然れど双方に死を覚悟させる物であるのは解っていた。嵐と嵐がぶつかり合えば、対消滅など決して珍しい物ではない。

否、最早、それは摂理でもある。


「僕は実際、直接戦闘は得意じゃなくてね。あくまで補助だとか群衆戦闘だとか、そういう類いなんだ。だから単独戦闘主体である[斬滅]やイーグとは大きく異なるね」


「……あれ? メイアウス女王は?」


「彼女は対群衆戦闘殲滅兵器で良いと思うよ」


「うわぁ」


「まぁ、本人の気質からして滅多に手の内を見せないからね。四天災者は誰も敵に回したくないけれど、僕としては最も敵に回したくない人かなぁ」


メイアウス女王は嘗て[斬滅]を敵に回したくないと言った。

所謂、相性だろう。五大元素もそうであるように、相性という物がある。

ダーテンは[魔創]を嫌い、メイアウス女王は[斬滅]を嫌う。

このまま順繰りで行けば[斬滅]はイーグを嫌い、イーグは[断罪]を嫌う事になるが……、まぁ、そこまで単純ではあるまい。多分。


「成る程……。それともう一つ。前々から思ってたんですけど、なんでダーテンさんは精霊を召喚出来るんです? 獣人ですよね? 魔力は?」


「あー、僕は確かに獣人だよ。けど天霊や精霊を召喚するのには魔具を使ってるんだ」


「魔具?」


「そうそう。君も見たことない? 魔法石を使った精霊召喚」


「……あー、使ったことあります」


「なら話は早いね。魔法石ってのは魔法の補助だったり主体になったりと用途は広いけど、要するに魔法を物質化した物なんだよ。それを発動するには微力の魔力が要るとされるんだけど、どうしてだか解るかい?」


「いんや、全然」


「清々しいね、君。まぁ、良いんだけどさ。……でね、少し例えを使うけど、魔法石を火薬だとしたら魔力は火なんだ。爆発を起こすには火を使うしかない。解るね?」


「そりゃ、はい。でも火を使わずに爆発を起こしてるんですよね?」


「うん。火薬を発火させるには別に火じゃなくても良いだろう? だから僕は大量の魔具を発動させる為に自身の許容量を使用してるんだ」


「何です? 許容量って」


「僕もよく解らないんだけど、小さい頃にお世話になった学者さんが言うにはね? 人間は知を求め獣人は力を求めた。ならば人間の知の代役として獣人の力が活用される事も不可能ではない。同じ[与えられしもの]なのだから、って」


「……う、うん?」


「その[与えられしもの]こそが許容量。要するに僕は魔具を魔力無しで使用する事によって来る反動に耐えられるだけの体を持っているんだ」


「物凄く省いていただいてありがとうございます」


「人に物を教えるのは得意じゃなくてね。大抵、こうやって省いちゃうんだ」


苦笑するダーテンはただ完全を眺めながら、漸く視界に映った絢爛な扉に片掌を突く。

本来ならば大の大人が両手で踏ん張って開く、その元老院への扉を。

己が主が待つ、その先へと。


「さて、お勉強の後は楽しい楽しい後始末の時間だ」


「何で私が他国の政治に首を突っ込まにゃならんのです」


「関わったからじゃないかな」


開かれた先に待つは、荘厳なる老人の数々。

皺に刻まれた不快の二文字を表すように、眉根を寄せる。

四天災者と獣人の姫はその中に歩み行き、中心で待つ老婆に微かな微笑みを見せた。


「さぁ、言い訳の始まりだ。準備は良いかい?」


「もう色々ブッ放しちゃ駄目ですか」


「うん、駄目」



読んでいただきありがとうございました

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