少女の虚言と真実
【クグルフ国】
《クグルフ城・応接室》
「……よ、よくぞご無事で?」
メメールの戸惑った表情も当然という物だ。
一件、何事も無さそうなスズカゼはともかくとして、だ。
非常に不機嫌そうなファナと、頬先を焦がしたメタル。
そんな二人の間に座ったスズカゼは非常に気まずそうに口端を歪めていた。
「さっき死にかけたけどな」
「……え、えぇ。そう言えばメイドさんの姿が見えませんが?」
「あぁ、今回使った外套を洗濯して貰ってます。城の設備を使わせて貰ってますけど大丈夫ですか?」
「はい。今回の外套も貸し出させていただいた物ですし……。そのまま外套をお返しください」
「ありがとうございます。……それはともかく。魔法石は破壊しました。精霊も妖精も、少なくともその存在は消え去ったはずです」
取り繕うように前のめりとなったスズカゼが零した言葉。
メメールはそれを聞いて安堵したのか、でっぷりとした腹を揺らしながら腰を椅子に深く沈めた。
「良かった……。あぁ、良かった。皆様には何と感謝を述べたら良いか……」
肩を震わせながら、メメールは太い指を組み合わせて額に押しつける。
彼は涙を抑えるかのように何度も何度も目頭を拭い、そして深く息を吐いてはまた吸って、再び深く吐く。
それでも瞳から溢れる涙を、喉から込み上げる嗚咽を抑えられないのか、彼は暫く喋れなかった。
スズカゼ達はそれを気にするでもなく待ち、やがて漸く顔をあげた彼はゆっくりと彼女達に語りかけた。
「今回の件では本当にお世話になりました……。我々で出来る礼があるのならば、何でも致しましょう。皆様は我が国の英雄だ」
メメールは召使いを呼ぼうと手元の鈴を持ち上げたが、スズカゼはそれを制止する。
遠慮なさらずとも、と少しばかり困惑したメメールに投げかけられた言葉は、彼の予想だにしない物だった。
「真実を話してください」
メメールの指先が震え、微かに口端がつり上がる。
それは一瞬の動作だったが、スズカゼは見逃さなかった。
彼は平静な表情でスズカゼを見上げ、苦笑するように小首を傾げる。
「真実とは……、今回の件についてですか?」
「そうです」
「……確かに採掘現場に盗賊団を見す見す侵入させてしまったのは我々に否があります。皆様に責められても文句は」
「違います。今回の犯人についてです」
「……えぇ、ですから盗賊団は既にギルドに手渡してしまって」
「盗賊団は本当に居ましたか?」
「な、何を……」
ただひたすらに、メメールは困惑する。
それはファナやメタルにしても同じだった。
シン、と静まりかえった室内に響き渡るのはメメールの荒い吐息の音。
そしてスズカゼの鋭い眼光。
「あー、スズカゼ? メメールの言ってる事に嘘はないと思うぞ」
その気まずい空気を取り払うかのように、メタルは微かな笑みを浮かべてそう言った。
彼が言うにはギルドへ護送された盗賊団の記録も確かにあるのは確認済みだ、と。
他国に赴くのだからそれぐらいの確認はしている、と。
「だから何だ。スズカゼ、お前が何を見つけたかは知らないが……」
「言いましたよね、メメールさん。貴方達は一度もクグルフ山岳に行っていないと」
「え、えぇ……」
「ですが、クグルフ山岳には多くの足跡がありました。大きさ的には全て大人の物で、一番大きいのは深く沈んでいるような……」
「盗賊団のでは?」
「えぇ、かも知れませんね。なので盗賊団の人数や容姿を聞いても?」
そして再び訪れる静寂。
メメールはスズカゼの問いに答える事は出来なかった。
喉を詰まらせて、言葉を枯らせて。
額から顎へと一筋の冷や汗を伝わせて。
「ここからは私の予想です。戯れ言です。妄想です。……聞き流してくれたって構わない」
スズカゼはそう前置きして、語り始めた。
彼女の一言は室内の空気をさらに静寂へと沈め、冷たくしていく。
「どうしてか、は解りませんが貴方達は魔法石の大元を発掘しようとした。それが今回の事件の発端。……だけど、そんな事が民に知れたら自分達の立場が危うくなる。だから盗賊団という存在をでっち上げて、お金か権力か、何にしろ何らかの手を使ってギルドに偽の記録を作り上げた。そして後は私達が解決すれば誰の手も借りずに事態は終結する。……その後がどんな事になろうとも」
「スズカゼ。そりゃ、言いがかりだ。足跡だけで判断するにゃ証拠がなさ過ぎる。ギルドへの偽装記録だって……、まぁ、過去に礼がないわけじゃねぇが、その為にどんだけ金が要ると思う? 馬鹿みてぇな話じゃねぇか。確かに批判も買うし批評もあるだろう。だが、そんだけ危険な橋を渉るよりは民に頭を下げた方が早い」
「それだけは絶対に出来なかった。……そうですよね、メメールさん」
「…………っ」
「どういう事だ?」
「後継者」
スズカゼとメタルの会話に割り込んできたのはファナだった。
今まで腕を組み、無言だった彼女は唐突にその言葉を述べたのだ。
「今、この国には貴様を尊敬する民こそ居れど、貴様の代わりとなる民は居ない。そういう事だ」
「……ファナさんの言う通りです。私達がここに来て挨拶させて貰ったときに、貴方は言っていました。獣人否定派の人間が後継者に着くのが怖い、と」
「つまり貴様は件の失態が露呈し今の地位を失う事を恐れていたのだ。もしも獣人否定派の人間が後継者に着けば、確実に国内で不和が生まれる。その事を、恐れていたのだ」
「……おいおい、流石に憶測だろ」
「えぇ。ですから、これは私の予想で、戯れ言で、妄想です」
―――――だけれど。
「だからこそ確認したい」
自分の言葉で、もしかしたらこの国は瓦解するかも知れない。
自分の言葉で、人一人を破滅に追い込んでしまうかも知れない。
自分の言葉で、自分自身を壊してしまうかも知れない。
だけど、それでも。
「メメールさん、私の言葉は予想で戯れ言で妄想ですか?」
知らなければならない。
理解しなければならない。
突き止めなければならない。
真実を。
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