閑話[ピクノのドラゴン教室]
《北国への旅船・第一船室》
「では、ドラゴンの飼育方法についての授業を始めるデス!」
「きゃー、ピクノちゃんカワイイー!!」
「ピクノさんこっち向いてー!」
「真面目に受けましょう」
「「はい、ごめんなさい」」
船員から借りた大きめの眼鏡を掛けながら、ピクノは授業を開始する。
生徒は変態共二名と真面目なメイド一名。明らかに関係の無い一名が混ざっているのだが、眼鏡のピクノ見たさに入ってきたんだとか。
……本来授業を受ける一名もその目的が大きい所がありそうだが、まぁ、いつも通りだろう。
「まずドラゴンはこの子を残して既に絶滅しているデス! スノウフ国にもドラゴンは居るデスけど、純粋種じゃないんデス」
「その通り。ドラゴンは文献の幻想物語の中に出て来たりして何かと精霊や妖精と繋がりが強いのよね。だからフェアリ教でもドラゴンを大切にする傾向が強いわ。そうでなくともドラゴンは大戦後乱獲された事もあって純粋種じゃなくとも絶滅危惧種だし、保護される傾向にあるわね」
「そうデスね。だから扱いは慎重に」
「ジュニアぁー、そっちのお茶取ってぇー」
「きゅぅ」
「……慎重にって言ったのに、デス」
「ドラゴンをお茶取りに使うなんて本国でやったら非難囂々よねぇ」
「す、スズカゼさん! お茶なら私が取りますからぁ!!」
お茶取り一つで騒ぎが起こる。
結局、そこにラッカルも加わって果てしなく面倒な事になったのだがーーー……。
ピクノの授業が終わらないという涙声一つで容易く収束するのだから、何ともブレない変態共である。
「ドラゴンの授業を再開するデスぅ……」
「……女の子の泣き顔って最高じゃないですか、ラッカル同志」
「全く持ってその通りね、スズカゼ同志」
メイドの満面の笑みによる牽制。
変態同志二名の姿勢強制。
「では、ドラゴンの簡単な生態について説明するデス。純粋種に限りますがドラゴンは魔力を食べるデス。そして睡眠を持って急速な成長を行うのデスよ」
「きゅぅ」
ドラゴン、基、ジュニアは同意するように頭を垂れて頬をスズカゼの二の腕に擦り付ける。
彼女はそれに応えてドラゴンを撫でながら、ピクノへ疑問を投げかけた。
「急速な成長って、どれぐらいですか?」
「そこまでは解らないデス、あくまで文献の内容デスので。……でも数年で山を越える高さになる事もあるそうデスよ」
彼女は思わずジュニアに視線を向ける。
この子が山ぐらいの大きさになってじゃれついてきたらどうしようか。
間違いなく潰れる。と言うか、餌とかどうなるんだろう。自分の魔力で足りるのだろうか。
「それと、ドラゴンは基本的に群れで行動するそうデスね。どうしてその子の卵だけ孤立していたのかは解らないデスけど」
「もしかしたら何か他の生物が運んでたのかも知れないわね。餌と勘違いしてーーー……、とか」
「成る程、有り得ない話ではないデス」
二人はそれを切っ掛けとして、何やらドラゴンの卵が孤立していた原因についての推測を開始した。
まぁ、話している内容自体はスズカゼにも解る。授業から議論に脱線したのも別に構わない。
ただ、違和感がある。とんでもなく大きな、違和感が。
「……メイドさん」
「はい? どうかしましたか」
「ピクノさんが賢く見えます」
「あ、あの方だって親善大使に選ばれる程なんですから、当然ですよ?」
「ぶっちゃけアホの子と思ってました」
「ほ、ほら興味あることに関しては頭良い方とか居るじゃないですか……」
「否定はしないっていう」
結局、この授業も途中からラッカルに乗っ取られ獣人の可愛さとロリっ子の可愛さについてスズカゼと熱く議論する事になるのだがーーー……。
これを記せばドラゴンの事を記した文献を遙かに超えるので、割愛する事にしよう。
読んでいただきありがとうございました




