閑話[ムーの秘密]
《北国への旅船・第三船室》
「ムーさん、こっちに!」
「いやいや、ムーちゃんはこっちよね?」
「スズカゼお姉様ぁ……」
「助けろ! おい助けろムー!!」
「……キシシッ、何だこれ」
一件も終わり、さて平穏とはいかないのがこの物語。
実際的にスズカゼとラッカルは平穏なのだが、超獣団はそうもいかない。
と言うのも夜更けに彼女達二人が乗り込んできて獣人の良さ会議を始めたからである。
スズカゼはカワイイだの何だの言うしラッカルは愛らしいだ何だの言うし。
シャムシャムは速攻でスズカゼの元に行くわココノアは即座にラッカルに抱き抱えられるわ。
何がなんだか解らない内に、またしてもこの部屋は阿鼻叫喚の巣窟となってしまったのだ。
「だぁーかぁーらぁ! ムーさんは私を選んでくれますって! これで二対一です!!」
「いやいやいや、ムーちゃんは私を選んでくれるわ。これで二対一ね!」
「……どっちに着く気もねぇんだけど」
「「それは許されない」」
「何でだし」
何故だ、何故こんな事になってしまった。
自分達はただ平穏に北国へーーー……、何か覚えあるなこの葛藤。
「って言うかアレね。ムーちゃん、室内なのに帽子被ってるのね」
「そう言われれば。上着は脱いでるのに」
「キシッッ!?」
ムーはその一言を受けて今まで以上の動揺を見せた。
具体的には部屋の端まで高速で後退るぐらいの動揺を。
さて、こんな物を見せられたからには止まらないのがスズカゼとラッカル、基、変態共。
二人は高速を越える音速で彼女へ迫り、取り囲む。
「脱ぎましょうか」
「脱いじゃおっか!」
「い、嫌だ! これだけは嫌だ!!」
ムーは壁を蹴り上げて彼女達の間を避け、反対側の隅へ回り込む。
あの恐ろしい包囲網から脱出しなければ、という本能的な行動だった。
しかし隅に着いて後ろを振り返ったときにはもう、二人はニコニコと彼女を囲んでいた。
「嫌だぞ!? これは絶対に嫌だぞ!!」
「まぁまぁ、そう言わず」
「大丈夫よ。恥ずかしいのは一瞬だから」
「おい止めろお前達! ムーはなぁ!! 大きなギョロ目が気になるからいつも帽子を被ってんだぞ!! 絶対脱がすなよ!!」
「お前やっぱ馬鹿だぁああああああああああああああああああ!!」
ココノアによる自爆性暴露は未だ健在也。ただし無差別。
暴露された当人は帽子を押さえて蹲り、ただただ肩を振るわせるばかり。
流石に悪い事をしたなぁ、と変態共は互いに視線を合わせ、彼女と同じ高さへ視線を落とし込んだ。
「そんなこと気にしないでください、ムーさん。私なんて人生を気にすらしてませんから」
「そうよ。カワイイは正義なの。人生もっと自信を持たないと」
「お前等みたいに恥も外聞も捨てた人生歩みたくねぇよ……」
悲痛なる呟きはやはり変態共に届かない。
この変態共をどうすれば良いのかと彼女が頭を捻っても答えは出ず。
ただただ、彼女等の変態さに苦しむばかりーーー……。
「皆さん、何時だと思ってるんですか?」
その変態共が消え去るのは実に数秒後。
寝支度を整えた、満面の笑みのメイドが現れた時だったんだとか。
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