盗賊団を捕まえる為に
「き、キシッ。本気かよ……」
「無論です。さぁ、皆さんに身構えて貰いましょうか!」
溌剌とした彼女と違い、乗員共々は全員が顔を引き攣らせていた。
そう、盗賊団の老夫婦と眼鏡の男ですら、酷く顔を引き攣らせているのだ。
本来なら悪しく笑むか、悔しそうに肩を落とすしかない彼等だというのにーーー……。
それでも、その顔は酷く引き攣っていた。
「す、スズカゼさん、本気ですか?」
「メイドさんの言う通りよ! スズカゼちゃん、そんな事したら」
「んー、その通りなんですよ。これは私の我が儘です。ピクノちゃんとジュニアを助けたいという我が儘。だから皆さんが駄目だと言うならば私は諦めます。まぁ、その後の海面がどうなるか知りませんけど」
「そうサラッと脅すの止めろよお前!!」
「スズカゼお姉様の為なら……、何でも賛成します……」
「シャムシャムちゃんは良い子ですねー」
スズカゼに撫でられて蕩けているシャムシャムはともかくとして、だ。
実際、彼女の提案は非常に危険な物である。
下手をすれば盗賊団だの何だのは別として、この船その物が沈むやも知れぬのだ。
故に、皆は賛成は出来ない。かといって誰かを助けたいという彼女の提案を無下には出来ないだろう。
だから反対も出来ない、というワケだ。
「助けるというのは賛成だけれども、流石にそれはちょっと危険なんじゃ……」
「いえ、これが一番確実なんです。そこの盗賊団の方々がほくそ笑まずに顔を引き攣らせてるのが良い証拠ですね」
「キシシッ。恐怖的なアレじゃないのか」
「否定はしない」
スズカゼは皆の静止も聞かず、その手に老爺の持っていた魔法石を握り込んだ。
既に砕けてしまっているため、その効力は発揮できないだろう。
魔法石は本来、それを発動する魔力を有す為に固形の形を取っている物と、その魔法を発動させる為の魔法式を組んでいる物がある。
この魔法石は幸運にも、いや、或いは不幸にも前者だ。
スズカゼはそれを理解して居らずメイドが説明するハメになっていたのだが、それは既に過去の話。
「……で、皆さんどうします? さっきのは冗談にしても、本当に皆さんの同意を得られないと出来る作戦じゃないんです」
「冗談には聞こえませんでしたよ……。けれど、私は賛成です」
「私も……、スズカゼお姉様の提案なら……」
まずメイドとシャムシャムが賛成の意を示す。
それに釣られるようにココノアはどうしようかとムーに相談するが、その当人は酷く悩んでいるように見えた。
間違いでは無いのだ。恐らく、彼女の言っている事は正しい。
だが、これを実行しろと言われて実行しようとはとても思えないのも、また事実。
「……スズカゼちゃん。その作戦はもしかしたらこの船を沈める事になるかも知れない。それでもやるの?」
「皆さんの同意が得られれば」
「そう……」
スズカゼの提案に対し、ラキは未だ悩んでいるようだ。
恐らく彼女の心持ちもムーと似たような物だろう。
幾ら何でもそんな事をすればこの船が沈んでしまうかも知れない。
魔法石を超過稼動させてブルレドワームを再び船におびき寄せるなど、そんな事をすれば。
「キシッ……、確かにお前の考えは間違ってないだろうよ。それが合図だってのも解る。だが、その砕けた魔法石をお前の魔力で超過稼動させたとして、集まったブルレドワームはどうする? 間違いなく前の数倍か、それ以上は集まるぞ」
「望むところです。……と言いたいんですけど、そうもいきませんよね」
「キシシシッ、当然だ。私達だってあんなの相手にしたくねぇ。そもそも[超獣団]でまともに戦えるのはココノアだけだぜ? 私とシャムシャムは技術専門だ」
「夜の?」
「黙れ」
しかし、このままでは埒が明かないのは確かだ。
スズカゼの手に乗れば危険はあるだろうが盗賊団をどうにか出来るだろうし、ピクノとジュニアを救う事も出来る。
だが、自分達の安全を考えるならば何もせず目的地に着くのを待つ事が最善手。
最善手だが……。
「……仕方ない! 私は賛成するぞ!!」
「キシシッ!? 正気か、ココノア!」
「だ、だって夢見が悪いじゃないか! 見捨てたりしたら……」
「それはそうだが……」
「それに、こうしてる間にもそいつ等は危ないんだろ!? だったら早く決断を出すべきだ!」
「キシッ! お前、状況解ってんのか!? ここで下手な選択すれば船ごと沈むかもーーー……」
「泳げば良いだろ!!」
「やっぱ馬鹿だお前!!」
ムーは自身の目元を隠す帽子を押さえ込みながら、机に突っ伏した。
スズカゼは馬鹿だ、ココノアはもっと馬鹿だ、シャムシャムは馬鹿じゃなかったが馬鹿になった。
残すはラキとかいう女性だがーーー……、彼女も悩んでいる。
他の船長や船員達も悩んでいる様子だ。押されるのは時間の問題だろう。
女が三人集まりゃ姦しい。馬鹿が二人集まれば馬鹿馬鹿しい。
それでは、三人集まればどうなるのか? 馬鹿馬鹿馬鹿しいだ。
「……好きにしろ」
最後の砦、ムーが折れた事で他の、ラキや船長、船員達も次々に折れ始める。
やがて皆の同意が、盗賊団の一味を除く皆の同意が得られた事で、スズカゼは遂に行動を起こし始めた。
甲板へと出て、魔法石の欠片を天高く掲げーーー……。
一切の際限なく、魔力を解放したのである。
「馬鹿! やり過ぎーーー……!!」
「え?」
結果がどうなったのかなど、言うまでもあるまい。
まぁ、ココノアが涙ながらに賛成した事を後悔したのは間違いないだろう。
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