現場捜索
《北国への旅船・第一船室》
「……調べろって?」
「獣人の嗅覚でお願いします」
「お前、私達を舐めてんのかぁ!?」
「出来ます?」
「出来るけどさぁ!!」
スズカゼが超獣団の面々に依頼したのは、ピクノとジュニアが消えた部屋で彼女達を捜索する事だった。
捜索と言っても、彼女達の獣人という種族を生かした超感覚で調べて欲しい、という事だった。
猫の獣人であるココノアの直感力、カメレオンの獣人であるムーの触覚、兎の獣人であるシャムシャムの聴覚。
如何なる証拠がなくとも、彼女達の超感覚を持ってすれば何か解るのではないか、という心持ちである。
「キシシッ。メイドの話じゃピクノっつーガキとジュニアっつーペットが居なくなったんだったな?」
「えぇ、その通りです。二人の持ち物はここに」
「ぱ、パンツと鱗……?」
「お前ホントこれ犯罪じゃないのか!?」
「緊急事態だから仕方ないんです」
ココノアが嫌々ながらパンツを、ムーが興味深そうに鱗を、シャムシャムはスズカゼお姉様のがと言いかけ、本気で脱ごうとしたスズカゼを二人が全力で止める。
そんな下らないやり取りを経て、彼女達はどうにか捜索を開始した。
ピクノが寝ていたベッド、先の襲撃か風か震動のせいか、何にせよ割れた窓を塞いでいたシーツ。ドラゴンが寝ていたはずの鞄。大して荒れたようには見えない室内。
様々な中を調べる中、漸く一息ついたムーがベッドへと腰を放り出した。
「どうでした?」
「キシシッ。あの眼鏡の男が言うとおり、抵抗の後は見られねぇな。まー、仲間が連れ去ったっつー方が余程信じられるぜ。ま、そんな事ないだろうけどよ」
「そうですか……」
「キシッ。つーかよぉ、何で私達なんだ? メイドも連れて来た方が良かったんじゃないのか? ……実際、私達の中で今現在まともに思考出来てんの私だけだぞ?」
「おい! 何かこの箪笥の取っ手が取れたぞ!!」
「あぁ、お姉様が寝ていたベッド……。ふふっ」
「……な?」
「否定はしませんね!」
まぁ、スズカゼ自身にしても意味なく彼女等を連れて来た訳ではない。
勿論、先のように彼女等の感覚を頼ったという点もある。だが、それだけではないのだ。
何より大きいのは、彼女達の目的についてである。
「キシシッ。正直に言えよ。疑ってんだろ? 私達を。……いや、正確には私達が協力してんじゃねーかって事を、か?」
「あ、やっぱり解ります?」
「キシシシシッ! 私をあの馬鹿と色狂いと一緒にすんじゃねぇよ。……色狂いはテメーのせいだがな」
「後悔はしていない」
そう、スズカゼは疑っていた部分があったのだ。
正直、眼鏡の男よりもこの三人組が怪しい、と。
彼女達自身ではなく、その職業柄を考えれば必然そうなるだろう。
彼女達は傭兵だ。嘗ては自分を殺そうとサウズ王国に攻め入った事もある。
傭われてピクノとジュニアを攫った、となれば有り得ない話ではない。
無論、彼女とジュニアを攫う手立てを依頼人が考え、眼鏡の男が言っていたようにその人物が外で身柄の受け取りを行えば筋は通るワケだ。
「まぁ、職業柄なんで確信はしてませんよ。貴方達は悪人には思えない」
「キシシッ。どうだろうな?」
「と言うか、悪人は[アレ]なら世界中平和だと思うんです」
「キシッ、言ってくれるな。割と気にしてる」
「ですよねー」
「キシシシッ。それはそうとして、私達は違うと一応は弁明しといてやる。そもそもお前と出来るだけ関わらないようにしてたのに、何でそんな依頼受けるっつーんだよ」
「えー、何で避けるんです? 寂しいじゃないですか!」
「…………」
「…………」
「はぁっ……、んっ……、スズカゼお姉様ぁああん…………」
「…………もう一回言ってくれる?」
「だが後悔はしていない!!」
「反省は?」
「ぶっちゃけやり過ぎた勘はあるかなぁ、って」
ムーが気苦労にため息をつきながら身をベッドに預けた。
全く、手掛かりはあったが、それはあのムカつく眼鏡野郎の理論を証明する物ときた。
全く持って腹立たしい。これでは、自分達に対する疑いがーーー……。
「ん?」
ベッドから微かに顔を上げた彼女はある事に気付く。
荒れていない室内、開け放たれた窓、音もなく消えた人と獣。
まず連れ去られたのはブルレドワームの襲撃があったときだ。
いや、寝ていたメイドが気付かなかったという事はそれよりも前かも知れない。
だが、それは無いだろう。今し方、自分が気付いた理論を持ってすればーーー……。
「……キシシッ、そういう事か」
「あ、何か気付きました?」
「キシシッ。思い出せよ? スズカゼ・クレハ。お前はこの部屋に入ったとき、私の視線の先にある紙を見なかったのか?」
「あー、何か注意書きがありましたね。ブルレドワームについてとか盗賊団ついて、とか。…………盗賊団?」
「キシシシシシッ。見えて来たんじゃねぇか? この事件の顛末」
「ブルレドワームが操られてるとすれば……。成る程、私の仮定は物の見事に崩れますねぇ」
「さて、ここまでやって私達がする事は何だ?」
「私はちょいとした[お話]を……。ムーさんは、そうですね」
スズカゼとムーが視線を止めた先には、スズカゼが眠っていたベッドの上で身悶えるシャムシャムと、多大な荷物の雪崩をモロに被って身動きが取れなくなっているココノアが居た。
二人はただ遠い目でそれを見詰めながら、静かに視線を合わせる。
「頑張ってください」
「キシシシッ。……畜生」
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