犯人は誰だ
「…………」
目の前で手を組み、スズカゼは膝をひたすら揺らしていた。
貧乏揺すりと言うよりは苛つきによる物だろう。
当然だ。自身の仲間二人が、正式には一人と一匹が行方不明なのである。
他の面々を操舵室に集めて各部屋を調べても出て来ない。船を停止させて外をある程度探してみても見つからない。皆に話を聞いても知らないとしか返事が返ってこない。
本当に、何処にも居ないのだ。
「す、スズカゼさん……」
「……話を、整理しましょうか。まず皆さんにはその時何をしていたのか聞かせて貰います」
スズカゼは静かに立ち上がり、全員を一瞥した。
おどおどと肩をすくめる老夫婦、気まずそうに顔を俯かせるラキ、眼鏡の奥にある瞳で周囲を眺める男、スズカゼに背を向けるようにして立つ三人組。
そして彼等を囲むようにして立つ船員達と、その後ろで腰掛ける船長。
それぞれの反応を見せながら、彼等はぼそぼそと零すように、老夫婦から話し始めた。
「わ、私達は甲板で話し合ってて……。それからはお嬢ちゃんの知る通りじゃな」
「あのブルレドワームが襲ってきたわね……」
「私も同じよ。スズカゼちゃんと話し合ってたら、アレが襲ってきた」
「三人の方は私も確認してます。では、残りの方々お願いします」
スズカゼの視線に、びくりと黒衣の三人組が反応する。
黒衣達の反応など知った事ではないと言わんばかりに、眼鏡の男は眼鏡を直しながら弁明を行う。
「……私は部屋の中で本を読んでいた。当然一人だから他に証明する者は居ないがね」
「そうですか、解りました。黒衣の人達は?」
「わわわ、私達はぐーたらしてただけだぞ!」
「キシシッ、その通りだ!!」
「スズカゼお姉様……」
「この三人は違いますね。では犯人ですが……」
「ちょ、ちょっとスズカゼちゃん!? 何でこの三人は違うの!?」
「ぶっちゃけ知り合いです。この三人に人を攫う度胸はあっても隠し通す知能はありません」
「何だとお前!? 私達の誰が馬鹿なんだぁ!!」
「キシシッ。お前だよ、ココノア」
「スズカゼお姉様……、あぁ、やっと会えた……」
「……知り合い?」
「[超獣団]。私の国に襲撃を掛けてきた人達でして。戦闘力はそこそこあるんですけど、余り頭は良くないです」
「しゅ、襲撃!? それって危険……」
「三秒でノされたぞ!!」
「キシシッ。いやそれ自慢出来ないからな」
「スズカゼお姉様……、早く私にご褒美を……」
取り敢えず、とスズカゼはその場を収束させる。
怪しいと思っていた黒衣三人組は嘗ての知り合いだった、というワケだ。
老夫婦はあの場所に居たし、ラキも居た。黒衣三人組は嘗ての知り合い。船長達が自分の船を襲わせるとは思えない。
ーーー……と、なれば。
「必然、犯人は私か」
眼鏡の男は眼鏡を外し、服裾でレンズを拭く。
彼のその行為に注視していた面々は、何処か重圧的な物を含んでいるようにも見える。
当然だ。先の騒ぎからして犯人が責められないはずがない。
だが、その視線には彼を責める意外にももう一つ理由があるだろう。
ブルレドワームを操っているのだとすれば、今この状況で襲い来る事も考えねばなるまい。
即ち、牽制の意味も込めているのだ。
「……その少女、ピクノと言ったか? それと、ジュニアという愛玩動物が消えたのだったな。何処から消えたのだ? そこの女性」
「え? わ、私ですか。……私は、その、恥ずかしい話ですが眠っていたんです。で、起きたらあの方は居なくて」
「つまり、その女性が起きないほど静かに連れ去られた、若しくは悲鳴も挙げられない状態だった……、というワケだ」
「そ、そうなりますね……」
「ならば単独犯は難しいのではないか? 少女が眠っていたのだとしてもジュニアというのは生物だ。物言わず攫われるとは思えんな。さらに少女が目覚めれば尚更だ。口を塞ぎながら暴れられないようにして、ジュニアも抑えながら運ぶ。……一人で出来ることか、これは」
「……むぅ」
「さらに言えば知り合いだとしたらどうだ? 少女を何らかの名目で連れ出し、先の騒ぎに乗じて外に船で待っていた仲間に引き渡す……。若しくは魔法で隠す。そこの三人組は獣人のようだが、魔法石を使えば難しい話ではないな?」
「ふ、ふざけるなぁ! 魔法石をそんな無駄遣い出来るか!! 明日の飯代だって怪しいんだぞ!!」
「キシシッ、その通りだがちょっとお前黙れ」
「……誰かを攫ったりなんて、しないです」
「口だけなら何とでも言える。他の面々、流石に老夫婦の方々とその女性は除くが、船員はどうだ? 船長や仲間に何か怨みを持っている者が居るならば、やってないとは言い切れないだろう?」
「我が船にそんな者は居らん!!」
「感情論だな」
眼鏡の男の反論に、誰もが息を荒げながら口を閉ざす。
確かに彼の言う通り物的証拠など無いのだ。謂わば論理だけ立てた、状況証拠というヤツである。
確かにそれだけで決めつけるワケにはいかないだろう。流石に[超獣団]の三人が攫ったとも思えないが、船員の方は解らない。
だが、ここで船員まで疑いだしては水掛け論だ。眼鏡の男の言う感情論で反するしかなくなってしまう。
「……どうしましょう、スズカゼさん」
メイドの不安げな声に、スズカゼは首を落とす。
確かにこの状態ではどうしようもない。犯人を見つけるどころか、ピクノ達の行く末も解らない。
どうすべきだ? この状況を打破するには、どうしたらーーー……?
「……ココノアさん、ムーさん、シャムシャムさん」
「な、何だよ」
「キシシッ、嫌な予感がするぜ」
「お姉様の頼みなら、何でも……」
「少し、手伝ってくれませんか」
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