襲撃を退ける最中の船内で
《北国への旅船・操舵室》
「えー、現在、この船は襲撃を受けています」
「な、何ですと!?」
「でも何か普通に迎撃できてます」
「な、何、え!?」
操舵室にはラキの姿があった。
彼女は現在の状況を伝えるために操舵室へと足を運んでいる。
船長や船員達は船の外を確認してそれを認めたが、流石に甲板で少女が一人戦っているという事については信じ切れないようだ。
因みに老夫婦については直ぐに自室へ戻らせた。と言うのも、流石に老体二人を連れ回すわけにはいかないからである。
「ぶ、ブルレドワームは本来、甲板に出た人の食物を奪う程度の凶暴性だぞ……? 人自体を襲うなんていつ以来だ?」
「い、いや、そもそも船体を呑み込むほどの巨大さなど聞いた事がない。俺はもう十年はこの船に居るってのに……」
「昔はよぅ居ったのだ。然れどかの四天災者様の御陰で大人しくなったと言うのに」
「そ、そうなのか!? 船長!!」
「うむぅ、我等の依頼に通りかかった四天災者様がのぅ……」
取り敢えず船長の昔話は置いておいて、と。
ラキはどうすべきかと思案する。
未だ甲板で戦うスズカゼだが、いつまでも続きはしないだろう。
このままでは、流石に彼女もーーー……。
「おい」
そんな思考を打ち切り、黒衣の一人が操舵室へと入ってくる。
皆の視線がそちらに向くと同時に、黒衣は視線を逸らすようにして周囲を見回す。
まるで、異変を探すかのように。
然れど目的の物は見つからなかったのか、黒衣は面倒臭そうにため息をついて船長へと近付いていった。
「キシッ。何だ? この異変は。船に何が起こっている?」
「う、うむ。どうやらブルレドワームの襲撃を受けたようでな……」
「ブルレドワーム? あぁ、あの注意書きがあった……。キシシシッ。で? 注意書きしてるぐらいなんだからいつもの事なんだろう?」
「今回は少し異常みたいなのよ。貴方も何か無かった?」
「キシッ、私達は何も無いぜ。残り二人は部屋でだらだら過ごしてる」
「……それは何よりね」
スズカゼが別れ際の前に呟いた、あの言葉。
操られているーーー……、と。ブルレドワームは操られている、と。
それ以上のことは言わなかったが、その一言だけで充分だろう。
自分と老夫婦は除くとして、残りの船員の誰か。
船に乗る前は寝ていたので乗員数は知らないがーーー……、それでも調べようと思えば調べる事が出来る。
「…………さて」
尤も、犯人の目星は付いている。
問題点は証拠が無いこと。このままでは如何に論を立てても意味がない。
且つ、スズカゼもいつまでもは戦えない。
早急に犯人を捕まえなければ彼女の身も危ないしーーー……。
「あ、終わりましたー」
ごく平然のように入ってくるスズカゼ。
空いた口が塞がらないラキ、何事かと仰け反る船長。
驚くほどに素早く逃げる黒衣、それに突き飛ばされ尻餅をつく船員。
まさか少女一人の登場でここまで場が停止するとは、誰が思っただろうか。
「あ、貴方……、人の覚悟を壊すのが上手いって言われない?」
「胃を壊すのが上手いとは言われますね」
苦笑にもならないほど頬を引き攣らせ、ラキは大きく肩を落とす。
何にせよ、彼女がここに居ると言うことは外のブルレドワーム共を殲滅し終えたという事だ。
さらに言えば自分の心配は本当に杞憂だったという事でもあるのだがーーー……、それは、まぁ、予想できていた事でもあるかも知れない。
「そ、それにしても、まさかあの数のブルレドワームを退けるなんて……」
「あー、確かにある程度は倒しましたけどね。殆どは多分逃げました。と言うか撤退しました」
「……どういう事かしら」
「そのままの意味ですよ、撤退したんです。こう、ざざーんと」
「ざ、ざざーん……?」
[逃げた]なら解るが[撤退した]と言われては意味が解らない。
いや、スズカゼが口にしていたように操られていると考えるなら、その表現も正しいだろう。
しかし、それでも撤退した、と言うのはーーー……?
「一気に襲撃が来なくなったんです。その後、本当に何事も無かったかのように消えまして」
「あ、あぁ、だから撤退ね。追わなくて安心したわ」
「水が冷たかったです」
「追ったのね……」
ラキは自身の額を抑え、がくんと首を落とす。
全く、この娘の奇想天外さに頭が痛くなる思いだ。
胃を壊すのが上手いというのは、どうやら比喩でも何でも無いらしい。
……いや、言葉の意味は比喩か。
「取り敢えず暫くは襲撃してこないはずですよ。霧のせいで周囲は見えないけど、まぁ、ある程度なら解ると思いますんで」
「それは何よりね……。だったら、早い内に犯人を見つけちゃいましょう」
「ですね。取り敢えず船に乗ってる人を全員集めてーーー……」
扉が突き飛ばすように開かれ、操舵室には騒音が鳴り響く。
ラキや船員達はまたかという風に見ていたが、飛び込んで来た人物はとても余裕がある様子ではない。
その人物が知っていた顔だから、またスズカゼの心からも余裕は無くなっていった。
「め、メイドさん!! どうしたんです!?」
「ぴ、ピクノ様が……! ピクノ様がジュニアと共に消えました!!」
「……はぁあああああああああああああああああああああ!?」
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