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獣人の姫  作者: MTL2
いざ北国へ
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フェアリ教における世界の成り立ち

「これがブルレドワーム。東北の微妙な海峡に居る、触手型の生物デス」


「……グロいですね」


「私も実際に見るのは滅多にないのデス。食べられないデスよ」


「いや、流石に喰おうとは……」


スズカゼはブルレドワームを掴んで窓の外に放り投げ、メイドは割れた窓をシーツで塞ぐ。

ピクノが言うのにはあの生物は群体で動き、知能はまぁまぁ高いらしい。

今し方飛び込んで来たのは恐らく[はぐれ]。ごく稀に居るそうだ。

餌が取れず最後の手段として船を襲撃したのだろう、だとか。


「さて、それはそうと授業を再開するのデス! ……何の授業デスか?」


「フェアリ教ですよ、ピクノ様」


「そうデス! フェアリ教デス!! では、フェアリ教の歴史について説明するデス!」


「果てしなく不安だけどお願いします」


「それではピクノ先生のフェアリ教教室を始めるデス!!」


真顔で持ち帰りOKかなと思案するスズカゼを他所に、ピクノ先生のフェアリ教教室が開始される。

ちょっと間抜けな彼女だが、熱心に進行するフェアリ教の事だ。

黒板もチョークも無くとも、充分に説明することは出来るだろう。


「フェアリ教は今現在、世界最大の宗教と言われているデス。スノウフ国という大国で進行されている事もあるけど、何より伝承について古来から続く物とされているのが大きいデスね」


「伝承、ですか。……ツキガミ様?」


「あ、知ってるんデスか?」


「前に御伽噺で読んだことが……。確か命を創ったは良いけど余りに増えすぎるんで死を創った、って話でしたっけ」


「その通りデス! ツキガミ様はまず命を創ったけれど、人々は母なる大地を圧する程に増えすぎてしまったデスよ。だから彼は三人の賢者と五人の神様と共に死を創ったデス。その三人の賢者と五人の神様は[三賢者]と[五神]と呼ばれているデスね。三賢者は空、地、海。五神はそれぞれ五大元素に際した神様と言われているデスよ」


「ふむふむ、成る程。……あれ? 三賢者と五神は御伽噺に出て来なかったような」


「御伽噺デスから、難しいトコは省いているんだと思うデス。それを言えば七人の大罪人とかあるデスし……」


「七人の大罪人?」


「憤怒、強欲、傲慢、怠惰、暴食、嫉妬、色欲。七つの大罪になぞらえた、ツキガミに逆らいし悪の大罪人デス。彼等はツキガミ様の創る世界の断りに反し、悪逆の限りを尽くしたと聞いているデス」


「あー、要するに悪役ですね。で、その大罪人はどうなったんです?」


「三賢者と五神によって封じ込められたとか何とか。でも大罪人達のリーダー的存在であった男の剣は魔剣として現存しているそうデスよ」


「えっ、マジで!? 何処ですか!!」


「あ、あくまで噂デスよ? と言うか何でそんなに興味津々なんデスか……?」


「聞いたなら、振ってみたいな、魔剣をね」


「普通はそう思わないデスよ……。それに、その魔剣は最早神話級武具デス。魔法石や魔具の上を行く、御伽噺の類いデスよ。それぐらいになると所持者を選ぶと言われているデス」


「所持者を選ぶ、か……。私は選ばれますかね?」


「さぁ、それは解らないデス。それに選ばれても良い事なんて無いデスよ? 嘗ての、神話時代の悪人が持ってた物デスからね。何でも命を喰らうんだとか……」


「浪漫がありますね」


「その反応はどうかと思うデス」


それはそうとして、と。

大分ズレてしまった話を戻すように、ピクノは軽く咳付いた。

その時に唾液が気管に入ったのは本気で咳き込んでいたのがまた可愛いなぁ、とスズカゼはほんわかと彼女を見ている。


「ツキガミ様はそれから世界を平定する為に精霊を創ったと言われているデス。精霊は妖精を産み、妖精は自然を培った……。そうして世界が出来ていったんデスね」


「ほうほう、成る程成る程。……じゃぁ、人間と獣人は?」


「え?」


「あ、いえ。人間と獣人の差は何処から出て来たのかなーーー……、って」


「面白い所に着眼するデスね! 人と獣人の差は容姿や身体能力以外に魔力にあるデス。その差はツキガミ様が命を創った時に、人は知恵を求め獣は力を求めたが故にこうなった、と言われているデス。これには批判的な人も居るデスけど、神様はその後に共に助け合い生きていけ、と言ったとされるデス。だからスノウフ国には獣人差別が無いんデスよ。……でも、残念ながら嫌う人が居るのは事実デス」


「やっぱり獣人差別は根強いんだねぇ……。ピクノさんはどう思います?」


「私は差別は嫌いデス! ガグルもキサラギも大切な仲間デス!!」


スズカゼは微かに微笑み、ピクノの小さな体をひょいと持ち上げた。

そのままベッドへと腰掛けて膝の上にピクノを乗せ、その柔らかくて小さな頭を優しく撫でる。

こんなに小さい子供が胸を張って人も獣人も大好きだ、と言える。

それは何と素晴らしく、何と有り難い事だろう。

自分が嘗て目指した物を、そして辛くも手に入れた物を、この娘は持っている。

スズカゼはそれがどうしようもな嬉しく、どうしようもなく微笑ましかった。


「な、何デスか?」


「ううん、何でも」


スズカゼは微笑み見ながら彼女の頭を撫でる。

優しい手付きの元、ピクノが眠りに付くのはこれから数十分後の事である。



読んでいただきありがとうございました

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