少女と騎士の模擬戦
【サウズ王国】
《第二街南部・第一訓練場》
皆々の耳を劈く金属音が鳴り響き、白銀の刃が空を舞う。
多くの騎士が囲む中で数十分に及ぶ彼等の激戦に決着が着き、多大な歓声が飛び交った。
ある騎士はその勝負に拍手を、ある騎士は隣の騎士と勝負について論議を、ある騎士は見た物を忘れない内に鍛錬へ、と。
皆がそれぞれの行動に移る中、数十分の戦いを終えた彼等は共に近付き一礼と共に近場へ腰を下ろしに行った。
「お前、本当に人間止めたんじゃねぇの……」
「いやいや、ゼルさんも相当でしたよ。ただ大振りになる癖がありますねー」
二人は周りの騎士から称賛の言葉と共に真っ白な布を貰い、共に額を拭く。
互いに息が切れていない辺り結構な人間離れが見えるが、まぁ、そこは今更だ。
さて、どうして彼等が戦っているかと言うと実に単純な話である。
スズカゼが暇してるから義手の再起動確認も含めて模擬戦しましょう、と。
ゼルからすれば四大国会議前の事と言い嫌な思い出しかないのだが断り切れずに、こうして訓練場でーーー……、という次第である。
結果は見ての通りスズカゼの勝利。実際、本気で殺し合っていても剣術だけなら殺られていたかも知れない、とゼルは内心で口端を落としていた。
「しっかし、俺も剣術はそこそこ覚えがあるはずなんだがなぁ……」
「サー! ゼル団長の剣術は本当にそこそこです! サー!!」
「ぶっちゃけスズカゼ殿には遠く及ばないと思います! サー!!」
「しかし、上の下ぐらいではあると補っておきます! サー!!」
「何かウチの騎士がおかしいんだけどお前知らない?」
「さぁ? 何でですかねぇ……」
騎士達の脳裏にちらつく鬼軍曹に蹴りをくらった日々。
まぁ、正確には鬼中佐なのだが、そこは誤差である。
「……で、スズカゼ。お前も知ってると思うがメイアウス女王から正式に通達があった。まずは北のスノウフ国に行って貰う」
「あぁ、お礼参りですね」
「文字通りのな!? お前が言うと殴り込みにしか聞こえねぇんだよ!!」
「何でですか。もー、酷いなぁ」
「普段の行動を考えろ、普段の行動を……。それはそうとして、今回のお前に付いていく人員について話しておくぞ」
「女の子だけでお願いします」
「黙れと言いたいけど事実そうだから言えないこのジレンマ。……畜生」
「ひゃっほう」
「真顔で喜ぶな、気持ち悪ぃ。……で、話を戻すがお前に付いていくのは親善大使であるピクノ・キッカー聖堂騎士、お前の世話としてメイド。以上だ」
「……えっ」
「うん、言いたい事は解る。けどな? 仮にも大国の主に会うんだぞ? お前に礼儀叩き込んだり無礼を誤魔化したりする人間は必要だろうが」
「いやあの、そこじゃなくて。護衛は?」
「さっきの模擬線で確信した。お前は護衛居なくても大丈夫だ」
「そういう問題ですか!? せめてファナさんぐらい!!」
「ぶっちゃけな、ファナに着いていけって言いに行ったバルドが二時間ほど無言で黙られたらしい。アイツがそこまで否定するのは初めて見たっつてたぞ」
「そんな……、やっとおっぱい揉めるようになったのに……!」
「原因それだろ」
取り敢えず布を置き、スズカゼはうんと背筋を伸ばす。
まぁ、元より戦いに行くワケではないのだ。的確な人選だろう。
確かに自分一人でも死なない程度の実力にはなってきたし、物は試しという事でやってみるのも悪くない。
何、ちょっとぐらい危険があっても大丈夫だ。具体的には国家転覆に巻き込まれる程度なら。
何かもうそれって[ちょっと]じゃないのだが、スズカゼにとっては些細な事である。
「じゃぁ、早速出発してきます。フェベッツェお婆ちゃんにも速く会いたいし」
「お前それスノウフ国で口にすんじゃねぇぞ。あの国で教皇っつったらフェアリ教神の代弁者だからな? 袋叩きにされても文句は……」
「全員返り討ちにしてやりますよ」
「本気でやるよね、お前。やめてください」
「えー」
「……馬鹿言う暇があるならフェアリ教の勉強しとけ。ピクノに教わっても良いし、メイドに教わっても良い。取り敢えず相手に粗相しなきゃ良いんだ。覚えとけよ!」
「努力はしますよ。出発は?」
「出来れば速いほうが良いな。メイドにはもう話を通してるから、準備に時間は掛からねぇよ。あぁ、それとジュニアも連れていけ。あの国でドラゴンの飼育方法について聞いておくと良い。万が一、お前の事がバレたりしても献上品として見逃して貰えるかも知れないしな」
「そう言えばフェアリ教の教えがどうとか言ってましたね。まぁ、そんな事になったらマジで国家相手取りますけど……」
「馬鹿言え。他国ならまだしも四大国だぞ? 幾らお前でも無理だ。あの国にゃダーテンも居るしな」
「四天災者[断罪]ことダーテン・クロイツでしたか。獣人でしたよね、あの人も。……強いんですか? とか聞くのは」
「愚問にも程がある。この国の、メイアウス女王を覗く全勢力で掛かって腕二本飛ばせりゃ奇跡かもな」
「いやホント、化け物って怖いですねぇ……」
お前もその域に達しつつあるぞ、と。ゼルは静かにその言葉を呑み込んだ。
元より人間と精霊の混合体だ。常識が通用しない事は解っていたが、ここまで至るとは思わなかった。
今回の四大国への挨拶参りで、きっとさらに強くなるだろう。もっと実力を付けるのだろう。
この小娘が何処まで至るかは、自分にも解らない事であるのは間違いないーーー……。
「そう言えば北国って言うんですから、肌白美人が多いんですかね? おっぱいに脂肪も多いんでしょうか?」
「うん、黙れ」
嫌な限界が見えた気がする。
気のせいだろう。きっと気のせいだ。……頼むから気のせいであってくれ。
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