解り合い
《第三街東部・ゼル男爵邸宅》
「うォーいドラゴン産まれたってホぎゃぁああああああああああ!!」
入室早々ドラゴンの火炎ブレスによって顔面を焼かれるメタル。
そんな彼に慣れた手付きで水をぶっ掛けたのはメイドだった。
全身びしょ濡れの彼が周囲を見回すと、満足げに鼻を鳴らすドラゴンに彼の餌らしき物を運ぶスズカゼ、メタルに大丈夫ですかと声を掛けるメイドに彼女と同じく火傷薬を用意するリドラ。序でに全身真っ黒のゼル。
「……あ、ゼルもやられたのか」
「口縛れっつってんのに」
「そしたら餌食べさせられないじゃないですか!」
「そのドラゴン、俺等を餌にしようとしてね?」
こちらを狙ってくるドラゴンと、それからじりじりと距離を取るメタル。
そう言えばドラゴンは相手を火炎ブレスで焼き殺してから肉を喰うという。
いやこれ絶対狙ってる。
「産みの親であるスズカゼ以外の、魔力が高い存在を狙っているんだろうな。魔力が餌という時点を考えれば解るが……、メタルは何故だ? あぁ、深淵の腕輪か。外せば良いだろう」
「やだやだやだ! 外したくなーいー!!」
「喜べゼル、もう焼かれなくて済むかも知れないぞ」
「よっしゃ後は頼むぞメタぎゃぁああああああああああああああ!!」
メイドのバケツレースが再開され、メタルはただ気まずそうに口端を落とす。
あぁ、これ完全に無差別なんだなぁ、と。
「こら、無差別に燃やしちゃ駄目でしょ。燃やすなら耐え切れそうな人だけにしなさい。……あ、二人とも耐えれそうだから良いや」
「お前は鬼か。こちとら死にかけ二人なんだぞ。ドラゴンの躾ぐらいちゃんとしろ」
「いや、それが躾の方法とかよく解らなくて……」
「ドラゴンの躾にせよ何の躾にせよ、まずは分別を付けさせる事が大事ですよ」
「成る程、メイドさんが言うと何故か説得力が……。まぁ、要するに分別を付けさせれば良いんですね!」
この時、ゼルとメタルが物凄く嫌な予感を感じて部屋から脱出しようとしたのは言うまでもない。
まぁ、それもスズカゼによって阻止され、生物的教育素材にされる事になるのだが……、余りにも無残なので割愛する事にしよう。
《第三街東部・ゼル邸宅前》
「……何やら、騒がしいな」
「あの、ジェイド。今は入らない方が良いと思います」
「だろうな。部屋の中から火炎が吹き出している家になど入りたくはない」
商店街で物珍しさ故に購入した果物を片手に、ジェイドとハドリーはゼル邸宅の前で立ち往生していた。
お土産としてこの果物を買ったは良いが、いざ届けに来てみれば邸宅の居間に当たる一室の窓より火炎が吹き出ている始末。
今入れば燃える。確実に燃やされる。
ジェイドとハドリーは経験上の勘から共に視線を交わし、そっと踵を返して自宅へ戻っていく。
まぁ、取り敢えず何も見なかった事にしようーーー……、と。
そう述べ合いながら。
《第一街北部・喫茶店ローティ》
「む」
「あら」
「たぬ!?」
「うふふ」
一方、こちらは喫茶店ローティで再開したデイジー達とタヌキバ達。
本来的に店が空いていれば会う事も無かっただろうが、運悪く時間的に込んでしまっていたために相席となったのだ。
嘗ては敵対していた彼女達が相席になるとは、何と言う偶然だろう。
「で、デイジー……、だったたぬね」
「そういう貴様はタヌキバだったな」
「うふふ、険悪ですわぁ」
「笑ってないで止めた方が良いのではないですの? サラさん」
「そういう貴方も笑ってますわよ、キツネビさん」
ローティの、どうにか室内であろう場所に座す四人。
太陽の光を受ける場所にはデイジーとタヌキバが、太陽の光を受けない場所にはサラとキツネビが。
それぞれ、美容に関しての意識が大いに影響する位置取りとなって座り合う。
「き、キツネビ! キツネビ!」
「何ですの? ひそひそと」
「気まずいたぬ! 果てしなく気まずいたぬ!!」
「別にそんなびくびくするような事じゃないでしょう? 何なら聞けば良いですわ」
「だ、だって隊長がこの娘ボコボコにするトコ見てたたぬし……」
「あの時はあの時、今は今。気にしても仕方ありませんわよ?」
「けどたぬぅ……」
コソコソと話す二人を前に、デイジーは非常に気まずい心持ちだった。
元より第三街での復興作業が一段落付いたから、こうして休憩と慰安の意も込めてローティへやってきたのだが……。
まさか、こうして[白き濃煙]の二人に出会うなどとは思っていなかったのだ。
気まずい。あんな事があったから尚更気まずい。
この状況をどうしようかとサラに救助の視線を向けてもお気に入りにマシュールを頬張っていて聞いてくれそうにない。
どうするべきだ。どうすればこの状況打破出来る?
この、余りに気まずい状況を。
「宜しいかしら? デイジーさん」
彼女の気まずさを感じ取ったのか、始めに切り出したのはキツネビだった。
横でタヌキバが慌てている所を見ると、どうやらコソコソ話は実を結ばなかったらしい。
その様子に何処か親近感を感じながらも、デイジーは彼女の言葉に視線を返す。
「あの時の事ですけれど」
「あ、いや……、あの時は私の力不足と理解不足だったんだ。恨んでないどいないし、況して怒ってもいない。むしろ見逃してくれた事に感謝を述べるべきかと……」
「……ね? タヌキバ。良い人ですわよ」
「で、でも罪悪感は拭いきれないたぬ。申し訳ない事をしたたぬよ」
「いや、そんなに気にせずとも……」
デイジーとタヌキバが頭を下げ合い、それを見てサラとキツネビが微笑み合う。
何処となく似通った彼女達が共に解り合うには、そう時間を掛けないはずだ。
やがてタヌキバが奢りで謝罪の意を示すのにも、決して。
彼女達が持ち帰った領収書で白き濃煙の隊長が顔を蒼くするのも、決して時間を掛けはしないだろう。
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