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獣人の姫  作者: MTL2
平穏の日々で
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彼等の平和

《王城・特別治療室》


「……また脱走したんですか」


「いや、普通に退院したんだけど物理的に送り返されたんです……」


頭部と腹部に厚く包帯を巻かされたメタルはベッドへと放り出された。

そんな彼の隣で本を読むバルドはそんな様子に仮面を付けたまま苦笑し、静かに肩を落とす。


「おかしいだろぉおお……、俺って重傷患者なのにぃ……」


「いつもの事じゃないですか」


「危うく頭と腹が外れ掛けたんだけどね!? 中身が!!」


頭の螺旋は既に外れているのでは、と。

バルドがそう言い切らなかったのは彼なりの優しさだろう。

まぁ、だからこの彼の生命力はケタ外れているのだろうが……。


「それにしてもお前、何読んでんの? 入院中ずっとじゃん」


「何、ただの暇潰しに御伽噺をね。懐かしい物ですよ? 昔はよくファナに読み聞かせてた物だ」


「……ファナって確か両親が獣人の強盗に」


「えぇ、殺されています。なので私が親代わりでした」


「ふーん。……ってかお前が親代わりって。ゼルみたくメイド傭わなかったのか? お前だって暇じゃなかっただろうに」


「えぇ、まぁ、嫁と別れた直後でしたので感傷に浸っていたのやも知れませんね。ファナもあの頃は娘と同じ程度の年齢でしたので」


「嫁とねぇ……、え?」


「四国大戦中です。珍しくもないでしょう?」


「……あー、そういうね」


別れたというのは恋愛事情だとかではなく、そういう事なのだろう。

娘が居ればーーー……。この言葉の意味も必然、変わってくる。

彼が仮面のような笑顔で言葉を吐き出すのも、きっと……。


「まさか財産の五割を持ち出されるとは思いませんでしたよ。今頃は娘共々、何処かの国で元気にやってるんじゃないでしょうか」


「そっちかよ!!」


「もうその時から嫁だの結婚だのは懲り懲りでして。流石のメイアウス女王も結婚を勧めてくることはありませんでしたよ」


「それで勧めたら鬼どころじゃないもんなぁ……。あ、ゼルにあーだこーだ言ってるのって」


「次世代が壊滅的だから、じゃないですかね。流石に国家防衛力の長二人に子孫が居ないのはマズいでしょう」


「嫌な国家事情だなぁ……。つーかお前も資産五割持ち出されたのに無視したの? せめて娘ぐらい取り戻せば良かったのに」


「いや、私も構って上げられませんでしたし自業自得かな、と。何より国をよくしなければ元の木阿弥ですしね」


「そ、そうなのか……。お前の過去って何気に衝撃的だよな」


「ははは、そうですかね。何、良い暇潰しになりましたよ。話に付き合っていただいてありがとうございます」


「いやいや、お前の過去を聞けたのが何よりの収穫……」


「嘘なんですけどね」


「…………」


「嘘です」


「…………よし、表出ろ」


「ははは、断ります」



《第三街西部・住宅街》


「ふぅ、大分片付いたのぅ」


「そうですねぇ。いやぁ、お給料出るなんて良い仕事だ」


「……儂が言うのも何じゃが、お主はギルドでも名うての人物だろう? 瓦礫撤去なんぞやっていて良いのか?」


「いやだなぁ、隊長さん。俺は今日の夕飯代を稼いでるだけですよ……」


「く、苦労しとるようだな……」


一方、こちらは白き濃煙(ヘビースモーカー)の隊長とデュー。

傭兵とギルド所属という似て非なる立場の彼等は瓦礫撤去の合間、休憩時に言の葉を交していた。

燦々と輝く太陽の光を受けながら、彼等は積み上がった瓦礫を前に彼方の王城へ視線を向ける。


「……今更ながらに聞きますけど、何であの依頼受けたんです? ここを襲撃するって」


「金が良かったのと暇潰しじゃな。まぁ、今となっては大きな転機じゃが」


「南国に雇い入れですもんねぇ。南の綺麗な海を眺めながら極楽暮らしじゃないですか」


「一概にそうとも言えぬがな。この四大国条約が結ばれた時に戦力増強じゃぞ? ……はてさて、シャガル王国の長は何を考えておるのか」


「案外、何も考えてなかったりして」


「どうだかな。儂も今回の一件から、この国で少しシャガル王国について調べてみたのだが……、面白い経歴だったぞ」


「へぇ、どんな?」


「それは自分で調べよ。何事も他人に聞いてはならん」


「て、手厳しい……。部下のお二人に聞きましょうか?」


「無駄じゃな。あの二人は何やら良い喫茶店を見つけたのでそこに行っておる。……何じゃったか、ろーて? ローティ? とか言うたかのう」


「あぁ、第一街の。女の子らしくて良いじゃないですか」


「うむ、今までは傭兵家業で女らしい事など何もさせてたれなんだからな。それを考慮してこの数日間は好きにさせていたんだが……」


隊長は懐より財布らしき物を出し、広げてみせる。

そこに入っていたのは精々、今日一日の煙草代金と食事代程度だった。

その代わりにこれでもかと押し込められた衣服屋の割引券が、財布を痩せさせた原因を嫌でも解らせた。

再び財布を懐に仕舞う隊長の悲しい瞳は、デューからすればとても見覚えがある物で。


「……女は金が掛かるな」


「えぇ、全くです……」


部下二人に小遣いを全部持って行かれた老人と、相方に資金相当を持って行かれた甲冑の男。

年齢も違い、立場も少し違う彼等は燦々と輝く太陽に照らされ、美しく輝く王城を眺めながら。

とてもとても深いため息をついて、肩を落としていた。



読んでいただきありがとうございました

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