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獣人の姫  作者: MTL2
平穏の日々で
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衣に名前を

「真焔紅衣」


「灼熱の纏」


「ファイアーマント」


「スズカゼ・マキシマム」


「目覚めたら何か皆さんが凄い事言ってるデス」


数多の料理を囲みながら各々の案を出していくスズカゼ達。

その中で急に目覚めたピクノからすれば、どんな光景だったのだろう。

変な光景である。


「あ、ピクノさん目覚めたんですか。添い寝しようと思ったのに」


「え、遠慮するデスよ。……それより何の話デスか?」


「スズカゼが新しい技に名前が欲しいって言うから皆で考えてんのさ。……まぁ、モミジとスズカゼは当てになりそうにないけどね」


「い、良いじゃないですかファイアーマント!!」


「スズカゼ・マキシマムの何が悪い!?」


「全部だよ。アンタ等の命名は妙に外れてるさね」


「し、真焔紅衣……」


「ファナもちょっと恥ずかしくなってんじゃないよ。大丈夫、アンタのは良い命名だからね」


ファナはヨーラの言葉にパッと顔を輝かせるが、当の本人であるスズカゼは何とも微妙な顔で俯いていた。

確かに彼女の命名は悪くない。……だが、どうにもしっくり来ないのだ。


「うーん、私の攻めの技名は[天陰・地陽(てんちめいどう)]なんですよね。だから受け……、じゃねぇや。守りもそれに際した名前が良いかな、ーって」


「スズカゼ・マキシマム……」


「それは浪漫的なアレなんで別腹です」


天に陰が映り地より光が放たれる。

魔力を反転させて相手に撃つ彼女の技に、その叛す名は見事に適しているだろう。

では、魔力を喰らい紅蓮の鎧を纏う衣は如何なる名であるべきか。

皆はうんと頭を捻るが、どうにも良い案は浮かんでこない。


「……そう言えば、太刀はイーグ将軍から貰った物さね?」


「あ、あぁ、はい。[魔炎の太刀]って言います。これの御陰で何度命を救われたか……」


「何ならイーグ将軍を参考にしたらどうだい? 色々と技を持ちえども、あの力は参考にし得ると思うけどね」


「……うーん、良い案なんですけど遠慮します。あの人のマネしたら後で色々怖いし、何よりその技を使う度にあの人を思い出す事になる。もう既に相当お世話になってるんでこれ以上は止めて置きます」


「成る程、確かにそうさね。……しかしそうだとすると、どうするか」


「[天陰・地陽(てんちめいどう)]ですよね? でしたらそれに関連する言葉はどうでしょう?」


天地鳴動てんちめいどうに際する言葉か……。何がある?」


「そもそもてんちめいどーって何デスか?」


「ピクノ、アンタは黙っときな」


天地鳴動。

スズカゼがこの名を用いたのは先に記した通り、相手と自分の魔力という、天地の存在を叛すからだ。

では相手の魔力を喰らう、紅蓮の衣は如何に明証すべきか。

その名を如何とすべきか。

天地鳴動に際すと考えれば答えは自ずと出て来る物で。


「……聖闇・魔光(てんちしんめい)


ぼそり、と彼女は呟いた。

何故だか浮かんできたその言葉はどの言葉よりも彼女の心に残り、刻まれる。

彼女はその名を何度か呟き、嬉しそうに微笑んで頷いた。

[聖闇・魔光(てんちしんめい)]。精霊化した自分が纏っていた紅蓮の衣の名前。

[天陰・地陽(てんちめいどう)]に同じく、自身の境界線を払い得る名前。


「よし! これにします!!」


「[聖闇・魔光(てんちしんめい)]ね。良いんじゃないかい?」


「うん、確かに解りやすいですね!」


「何か格好良いデス!」


「……ふんっ」


皆が皆、多様な反応を見せてくれる。

その反応が、その様子が彼女にこの名は悪くないと教えてくれた。

仲間と共に考えた、この名前が。

自分を護ってくれる鎧になるのだと、教えてくれた。


「何はともあれ名前が決まって良かったね。丁度良いし、もう一回乾杯するかい?」


「お、良いですね。お願いします!」


「それじゃ皆さんにグラスを配っ……、あれ? 私のはどれでしたか?」


「モミジ様のはこれではないですか?」


「あぁ、ありがとうございますファナさん。……これでしたっけ?」


「折角なので私はこのグラスを選ぶデス!」


「いや折角だからって何!?」


「あ、誰が誰のグラスか解らなくなっちゃってますね」


「ピクノが途中で起きたからさね。まぁ、女性同士だしそんなに困る事も無いだろう」


「そうですね。完全に私は役得です」


「……スズカゼだけ除外しようと思うんだがどうだろう?」


「い、祝い主が居ないのもどうかと……」


「モミジは優しいね、顔引き攣ってるけど。ま、そうと決まれば適当にグラスを持ちな。乾杯するよ」


ヨーラの仕切りの元、皆が皆、誰のグラスかも解らないグラスを持ち、それを高々と掲げ合う。

幽霊騒ぎ解決、スズカゼの新技命名を祝して。

今、彼女達はグラスの尾を当てて、乾杯した。


「……甘っ」


「苦いデスッ!」


「あ、おいしい」


「ただの水だった」


「これ酒じゃねぇかあぁああああああああああああああ!!!」


各々が見事に別々のを引き当て、物の見事にスズカゼは酒を引く。

ヨーラが頼んでいた獣椎で最も度数の高い酒だ。流石の本人もクラクラと来たのだろう。

まぁ、この後の出来事はヨーラ達にも容易に想像出来た。

酔ったスズカゼが半裸になってファナに飛びついて。

魔術大砲を放とうとした彼女を全員が止めに掛かって。

やがて新技お披露目と叫びながら、何故か[天陰・地陽(てんちめいどう)]を放とうとしたスズカゼを、奥の間で飯を喰らっていたゼル達が止めに来て。

そこから三日間、彼女等は獣椎の主人より出禁を言い渡されたのであった。



読んでいただきありがとうございました

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